1.学徒会へ
竜理教を滅ぼすとの誓いをしてから一週間後、便利屋の息子・辰上漆紀と佐渡流竜理教司教家の長女・竜蛇彩那は喫茶店にて現代忍者・平野小太郎と話していた。
辰上漆紀。彼は魔法使いの中でも絶大な力を持つ竜王と呼ばれる存在であり、竜理教には信仰対象として狙われている。
竜蛇彩那。竜脈と呼ばれるエネルギーを操り、地下に眠る水の操作も出来る竜脈の巫女と呼ばれる少女。
平野小太郎。現代忍者にして風魔忍者の末系である風祭一族の少年。普段はキモオタを装い人物像を擬態している。
「学徒会に行くのですな? なるほど……しかしそうなると漆紀殿、妹さんの護衛はどういたしましょうか」
自他ともに認めるキモオタである小太郎が悩ましそうにそう漏らす。
学徒会とは、戦後まもなく発足した学生達の組織であり学生運動などの活動の中心となった組織である。現在は学校組織としての面が強い。
「どうせ暇人だろうし世理架さんに頼んでみる。今日だって世理架さんが真紀の近くで見張ってるし。真紀が治りきるまではそうするしかない。幸い、最近はリハビリに入ったから退院まではもうちょいだと思う」
世理架とは、漆紀と彩那に魔法や武器の使い方の訓練をしてくれている人物である。
漆紀の案が現実的だと彩那も小太郎も頷く。彩那は話題を変えるべく「あの」と一声かける。
「学徒会に行くとなると、軽い引っ越しをしないといけないと思うんですよ。恐らくは学徒会本部の寮で過ごす事になるので、実家からいくつか荷物を持って行かないと」
「ああ、まあ大したものを持ってく必要はないけどな。着替えと……まあ、調理器具とか持ってきゃいいぐらいだ」
「そんなもんですかねぇ。案外竜王様ってミニマリスト?」
「学徒会はあくまで仮の住処になるだけだからな。俺ん家は俺ん家でそのままなワケだし」
漆紀の言葉を聞くと、小太郎は「んー」と声を漏らす。
「拙者も学徒会に行くべきか……竜理教への諜報活動をするなら、拙者も行きますが」
「お前も来てくれると助かるぜ小太郎」
「竜王様、それは問題ないんですけど……世理架さんの方が心配です。あの人そこまでお人好しでしょうか?」
「とりあえず頼んでみよう。あの人は多分、竜理教にはうんざりしてる立場だし俺達が竜理教を潰すために動くっていうなら真紀の面倒は見てくれると思う」
竜理教、それは古くからある宗教であり竜王という信仰対象を崇め奉っているが、過激な行動が目立つため世間からはカルト宗教扱いされている宗教組織である。漆紀の父も、この竜理教によって殺されている。
「それならいいですが……というか竜理教にうんざりしてる立場って事は世理架さんって竜理教の関係者でもかなり深い……」
「あんまり他人の事情に深く立ち入らない方が良いですぞ、彩那嬢」
小太郎が彩那の推測を止めると、漆紀がまとめにかかる。
「じゃあまとめるぞ。俺達は学徒会へ行き、真紀の事は世理架さんに頼んでみる。これで良いな?」
「それが無難でしょうな」
「そういうことでいいかと」
漆紀達は話があらかたまとまると、手元にあるアイスコーヒーを一口飲んだ。