12.従妹・辰上天音
漆紀と彩那は夜巳の案内で大寺院内を静かに歩いていた。
「こっちよ」
場所が全く分からない漆紀と彩那は夜巳の案内に賭けるしかなかった。大寺院内は夜という事も相まってか人が一切おらず静寂で支配されていた。
そうして大寺院内を歩くこと数十分。
大寺院と連結している大きな塔に辿り着く。
「天音はこの塔に監禁されてるわ。早く救い出しに行くわよ。気付かれる前に」
「気付かれるって言っても、人なんか誰もいないぞ夜巳さん」
「いいこと漆紀。今は出会わなかったけど、この教会には魔法使いが常駐しているのよ。彼らとどこで会うかわからないわ。冷静に、静かに隠密に行動することが求められるのよ」
「わかった……ひょっとしたら、この塔の中に居て鉢合わせるかもしれないってことか」
「そういうこと。それでも行くわよ」
「危険ですね。竜王様、私の傍から離れないで下さいよ」
漆紀達は塔の中に入る。塔は円筒状の造りになっており、螺旋階段が上へと続いている。
夜巳を先頭に漆紀達は螺旋階段を登って行く。
「夜巳さん、この塔の何階に天音は囚われてるんだ?」
「五階よ。もう少し上がったら、天音の部屋に着くはず……」
一行は黙々と階段を登って行く。そうして無事に誰かと会う事もなく、五回の部屋の前に着く。
部屋は塔の中央部にあり、重苦しく冷たい鉄の扉で閉ざされていた。扉の下には四角形の穴が空いており、おそらくここから食事を部屋の中に入れるのだろう。
「鍵は持ってる。開けるわよ」
夜巳が鍵穴に鍵を差して回すと、部屋の全貌が明らかになる。
簡素なベッドにトイレ、ただそれだけの部屋だった。
そしてその簡素なベッドに黒いTシャツに黒いズボンを履いた天使の様で小悪魔の様でもある悪戯気を纏った一人の金髪サイドテールの少女が座っていた。
年齢は中学生で、以前の夜巳の言葉が真実ならば歳は十五歳であろう。
綺麗な洋人形のような可愛らしい空気感を漂わせていた。
「くくく、待っていたぞねーさま。遅かったじゃないか」
夜巳や彩那とは違って小動物じみた高音の声が寂しい部屋に響き渡る。
「待たせたわね、天音」
「随分と連れが多いなねーさま。その二人は一体何者か」
「私は佐渡流竜理教司教家長女で竜脈の巫女・竜蛇彩那」
彩那が淀みなく自己紹介すると、天音は首を傾げる。
「竜理教と言うと敵ではないのかねーさま」
「いいや、彼女は本家竜理教と敵対しているから味方よ。そしてこちらが……」
夜巳が右手の平を漆紀の方に差し出すと、漆紀も淀みなく躊躇わず自己紹介をする。
「俺は辰上漆紀。お前の従兄だぞ」
漆紀が辰上や従兄という言葉を口にすると、天音は途端に目を輝かせてベッドから立ち上がって漆紀へと歩み寄る。
「ほう……もう一つの辰上、我が父を殺した男の息子か…………」
そう呟くと天音は突然漆紀に抱き着き、耳元で囁いた。
「会いたかったぞ"にーさま"」
耳元で囁いた途端、天音は漆紀の首筋に噛み付いた。
「痛っつ!」
「竜王様になにをするんですか!」
彩那が天音を漆紀から引き離そうとするが、天音は漆紀の首を噛み、そこから溢れた血をちゅーちゅーと吸い取る。
彩那が天音の腹に両腕を回して無理矢理漆紀から引き離すと、天音は漆紀の血を口内で咀嚼し、飲み込む。
「これは……濃い血だ。我らより竜に近い血、いや、竜そのもののような……」
天音は口元を真っ赤にしながらそう甘く感想を零すが、夜巳が天音の元へ駆け寄り彼女の頭に拳骨を当てる。
「痛った! ねーさまなんでさ! いいだろう従兄なんだから!」
「初対面で吸血する節操ナシめ。それより早くここを脱出するのよ天音」
「竜王様大丈夫ですか?」
「ああ、傷なら村雨の効果ですぐ治せる……おい、天音って言ったか。いきなりなにすんだよ、お前吸血鬼かなんかか?」
漆紀は天音を見下ろすと、天音は「え?」と漆紀の反応に首を傾げる。
「ねーさま、まさかにーさまは知らないの?」
「まだ話してないからね」
夜巳は漆紀の方を向き直すと、ため息混じりに言う。
「私と天音はね、吸血鬼よ。母が吸血鬼の家系でね。でも今はそれより脱出よ」
しれっと夜巳は自分と天音が吸血鬼だと暴露するが、漆紀には全く現実感のない話であった。
「吸血鬼なんているのかよ」
「あら、魔法の存在は信じるのに吸血鬼の存在は信じないのかしら?」
「……わかったよ夜巳さん。そんなことよりとりあえず脱出優先だ。とっととここを降りて、逃げよう」
漆紀がそう締めくくると、彩那も夜巳も天音も状況を飲み込んで頷く。
四人は脱出するために塔を黙々と降り始めた。




