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TSURITOーー繋げた未来  作者: カバの牢獄
第一章 ゼロから、否、マイナスから
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第一章 02 好転と靄

 俺に風が吹いた。

 団扇で匂いを送っていた。

「情けないな。これぐらい、噛み切りなよ」

 俺はタコを湯がき、斬撃で細かく切ると色んな味で楽しんでいた。大型船には意外に調味料が揃っていたのだ。

 俺だけがタコを食べていた理由は超巨大魚にくっついていたタコの切り離されていた脚をおっさんたちは刀を使っても斬り落とすことができなかったからだ。だから、当然、歯で噛み千切ることなど不可能だ。

「ツリト少年。君が異常なんだよ」

「異常って」

 と軽く返してはいるが、俺は浮いているようだ。一緒にカードゲームをしていた若い衆八人は俺を睨み付けるような視線を向けて首を傾げていた。

「俺ですら、紫のオーラを纏って食べることができないものを、オーラを纏わずに食べているのだからな」

「そんなもんなの?」

 おっさんは、おっさん達ようのまかない、朝食を作って食べていた。おっさんは俺にもそれを少し分け与えると一口食べてから答えた。

「異常だ。少なくとも俺たちの常識から当てはめると。フロンティアの常識では、これぐらい、普通なのかもしれないがな」

「ふーん」

「それでだ、ツリト少年。この後のことだが、覚悟をしておけよ。黒の影響力と言うものをな」

「ふーん。まあ、もう、何となくはどうなるかは、予想できているんだけどさ、多分、収拾が着かなくなるんじゃない?」

「ああ。だから、サキューバス家から二人来る。一人はイキシチ王国近衛騎士団団長サニーニョサキューバス。そして、そのサニーニョの長男で黒のサルシアサキューバス。サルシアはツリト少年の二歳上だ」

「へえ。まあ、万一の時は俺が何とかするよ」

「何とか?って」

「それは、何とかだよ」




「さあさあ、イキシチ王国に現れた謎の少年、黒色のツリト君です。彼は昨日、突如現れました。おそらく、フロンティアから来たと考えられます。我々は彼に色々聞いて見たのですが、どうやら、記憶を失くしているようで、何も覚えておりません。ですが、黒の実力は確かなようです。御覧ください!」

 おっさんの奥さん、以降おばさん、は俺の自己紹介をスラスラと話した。人前で、たくさんの見物人がいるのによくやるよ、と思いながら視線をふと横に向けた。おじさんが、魚を元の大きさに戻したため、今、見物人はドンとブルーシートの上に置かれた超巨大魚に視線が釘付けにされているのだが、そんな中で、ジッと俺に向けている視線があった。

「サルシアサキューバス」

 サルシアは少し涙目で俺を睨んでいた。だから、俺は心の中を覗いた。

「応用できるかな?」

 俺はサルシアの心の中を覗いた。俺の心の中の覗き方は少し複雑で、感情を繭で表して糸がそれを繋ぐようにして覗いている。だから、心の声は分からないが、どういう感情なのかは分かるのだ。

 怒り、焦燥、悲しみ、自責、愛。なるほど。俺と同じ性質か。一応見とくかな。

 俺は隣に立っていたサニーニョサキューバスの心の中を覗いた。

 サルシア以上。だが、自責が凄まじいな。

「では、ツリト君お願いします」

 俺はおばさんに肩を叩かれてオーラを纏った。黒色のオーラを見てたくさんの見物人が沸いた。

「マジか!」「おいおい」「これは、信憑性が一気に上がったな」「フロンティアの力はどんなもんなんだ!?」「やべえ、震えて来た」・・・etc

「では、疾くと御覧あれ」

 俺はおばさんに昨日、散々言われた通りに腕を大きく上げて振り下ろした。そして、目の前の超巨大魚を一瞬で捌いた。

 最大級の歓声が響いた。




「ぁあ。君は、ツリト君はーーーー」

 サニーはソファーで寝転びながらテレビに映る少年を見ていた。囚われの空間、軟禁状態の生活を送っているが、決して暴行を受けているわけではない。寧ろ暴行をしてしまった側だ。

 そんなサニーは、サニーサキューバスはサルシアとサニーニョを通じて勝手に直にツリトを見ていた。

だから、ツリトの、ーーーーの過去を見てどうしようもなく悲しくなって、情けなくなって、自己嫌悪に苛まれて、心が不安定になった。

「サニーは、サニーはアシュラ君みたいに自分で道を切り開きたい。もう、誰も、サニー自身も傷付けたくない。だから、今のアシュラ君は凄く窮屈だよ。ホントにやりたいことに蓋をしないで」

「サニーたち家族が抱えていることよりも、深刻で、今なら、まだ、間に合うかもなのに・・・。アシュラ君は一歩踏み出せていたのに、躊躇ったらダメだよ」


 その様子をモニターから見守っていたサニーの母親、ネルは緊張したボタンに手を置いていた。




「ぁあーーーーー」

 その少年は透明のカプセルの中でテレビの映像を見ていた。いつも強い衝撃を与えて来る男、デストロイが手を止めたからだ。

「あ、有り得ん。どういう、当てつけだ。俺への挑発?だが、死んでから十年とちょっと。体格からして一致する。転生?否、魂は粉々になっていたはず・・・。だが、あの顔は間違いなくツリト。これは、俺にどんなメッセージを送って来ている?サンドラに接触するため?分からん。だが、エージソンの様子は注意深く観察せねば、身内からボロが出るのが一番マズイ」

 ああ、ツリト君、いや、アシュラ君。僕はいつか、君に会いに行くよ。この地獄から抜け出して。どうやら、デストロイは気付いていないみたいだから。でも、もしもの時のために、僕のシックスセンスを決めておくよ。

 その少年、独り寂しく囚われている少年、アロンは全てを悟った上で、ツリト、アシュラに希望を見出した。




「大変だな」

 俺は次々にメディアが押しかけて、それに、釣られて一般人も次々にやって来ているのに思わず体をのけ反った。

「このままじゃあ、群衆雪崩が起きそうだね。クックックックックックック」

 隣に座る「KAPPA]の社長は何が可笑しいのか笑った。

 「KAPPA]。十年ほど前に設立された食料品会社だ。キュウリで色々なブランドを生み出して今や、世界の食料品会社の頂点に君臨した会社。

 その会社の社長、ラフと俺は面会室で向き合って座っていた。サキューバスの二人は警備、メディア対応をして状況を収めていた。

「偉く、飄々としているね、ツリト君。妨害もしている」

「斬ったからね」

 ラフは笑い声に乗せて俺の情報を吸い取ろうとしていた。だから、俺はそれを斬った。

「そんな、あからさまにされたら、誰でも妨害するさ。どうして、黒を黙っているんだ?」

 ラフは黒色のオーラを纏っていた。

「もういいよ。アシュがアシュラであることは分かっている。おそらく、アシュが無防備でも、僕は君の情報を手に入れることはできない」

 ラフは黒色のオーラを纏うのを止めた。

「うーん。まあいっか。隠せば良いだけだし。久しぶり」

「やっぱりか。惜しかったね」

「まあね。俺の狙いはミケ姉たちとおんなじ」

「そうか。どうして、僕たちにも黙っている必要がある?」

「盤外から仕掛けるため。だから、ミケ姉からの情報は俺にも共有して欲しい」

「待ってくれ。ツチノコと天狗を欺けれるのか?」

「できる。俺は世界からの、ユグドラシルからの認識を斬って欺いている。だから、盤外の駒になったんだ」

「可能なのか?って聞きたくなるけど、アシュがそう言うのだから、そうなんだろう。だが、そのインセンティブはどこからやって来た?アシュは起きてすぐに体がフロンティアに動いたんだろう?」

「そうならなかったのが、盤外の駒になった理由さ」

「話す気はないか。だが、良いのか?」

「・・・・・・。インドラのことも、母さんのことも、俺は信じている」

「何を意地になっているんだ、アシュ!」

「意地?そうだね。これは意地だ。僕は意地に利用された。なら、せめて、僕も天狗とカエルが見る未来を意地でも変えてやるさ」

「そうか。一つ言って置く。フロンティアに出入りできるのは僕とスマイルとヒマワリだけだ」

「は?」

「そのまんまの意味さ。アシュが会いに行くしかないんだ。だから、アシュが意地を貫き通すなら意地でも通すと良い」

「分かった。今日はこれを伝えるために?」

「ミケたちからの伝言だ」

『もし、アシュに会えたらお願い。必ず、ミケたちが迎えに行くから。忘れてるだろうけど、伝えて。それと、食べるものに困らないように』

「ってさ。けど、これからは、僕もアシュの共犯者、大嘘吐きものになるわけか。クックックックックックックックック。胸が痛むよ」

「フン。ラフはそうやって、情報を盗み取るんだから、隠し事が多いだろうよ」

「それは、そうだ。で、どうやって欺くんだ?」

「俺がユグドラシルを欺いているのは、俺がアシュラの記憶を持っているってこと、それと、同様に、ラフのツリトがアシュラの記憶を持っているということを欺く」

「細分化は怖いな」

「まあね。じゃあ、俺とラフはこれから共犯者になる。よろしく」

「はあ、心苦しい日々が始まってしまうよ」

「思っていない癖に」

「いいや、思っているさ。アシュのことに関して、落ち込んでいる人は凄く多いんだよ。だから、フロンティアでは打倒ゼウスを掲げて士気が上がってるし」

「へえ。なるべく、早くデストロイを見つけるよ」

「まあ、頑張ってくれ」




 混雑は落ち着き、多くの人が帰路に着き始めた時、サルシアが俺に向かって一直線に歩いて来た。心がぐちゃぐちゃになっているようだった。

 俺に敵意を向けて来ていた。

「僕と戦ってくれ!」

 その顔は憤怒と悲しみに溢れていた。

「サニーの心の扉を開けなければならなかったのは、僕だったのに、僕が閉ざしてしまった扉なのに、君が開けたなんて、僕は君を許せないっ!」

 八つ当たりだ。自責が強いのは分かっている。俺は関係ないって突っぱねることはできる。だが、涙をいっぱい瞳に溜めているサルシアの顔を見るとそんな気になれなかった。

 他人の心配している暇はないんだけどな。だが、俺と似た性質だってことは分かる。

 左手の鞘を握る手はに筋が見えるほど力が入っている。心の靄の晴らし方が分からなくなったのだろう。

 ああ、分かるよ。第三者がもし、俺とインドラの問題を解決したら、俺だってサルシアみたいになってしまうだろうから。だからーーーー

「俺がお前の、サルシアのモヤモヤを晴らしてやるよ」

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