表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TSURITOーー繋げた未来  作者: カバの牢獄
第一章 ゼロから、否、マイナスから
2/7

第一章 01 『ツリト』

 目が覚めたら、星明りと月明りが俺を照らしていた。その光は俺をこの世界の主人公、否、俺を孤独な主人公であることを示しているようだった。

 寝返りを打って体を横に向けるとジャリッと言う音が鳴った。よく耳を澄ますと波の音も聞こえる。そして、目を開けると、砂に『ツリト』の三文字が書かれていた。

「俺は・・・ツリト?」

 俺は記憶が無くなっていた。だから、この名前がホントなのか嘘なのかも分からない。ただ、『ツリト』と名乗って欲しい誰かがいる、と言うことだけが分かった。

 ポタッ

 気付けば涙を流していた。憤怒、後悔、悲しみ、寂しさ、あらゆる感情が心の中に渦巻いていた。だから、上半身を起こして海を見た時、体が勝手に動いていた。

 強い衝動が俺を動かしていた。

 俺はオーラを纏い、走り、海の中を泳いだ。途中、俺のシックスセンス?である斬撃を利用して、海の中を高速で移動した。そうして、本土に、星形の形をしたフロンティアに足を踏み込もうとした時、体が弾かれた。

「ぐはっ!?」

 俺は何を求めてフロンティアに足を踏み入れようとしたのかは、全く分からない。ただ、そこに答えがあることは間違いなかった。


「やはり、侮れぬな。アシュラ」

 ツリト、否、アシュラの侵入を阻止した十本の腕を持つ男、フロンティアの王、ゼウスは思わず笑った。




「クソがっ!!!!」

 俺は砂を蹴った。土がポッカリと掘られた。結局、あの後、『ツリト』と名前の書かれた場所に戻って来た。

「クソッ。気持ち悪い。俺が何者なのかが分からん」

 今、俺を動かしていたのは、ただ、この感情だけだった。俺はむしゃくしゃしているこの感情を抑えるために目をつむり左手を胸にやり、体を脱力した。そうして、心が落ち着くまで待って待って待っていると、自然と感情が落ち着いて来た。

「でも、これも、忘れている俺のルーティン」

 俺はもう一度、大きく深呼吸をした。そうして、ようやく心を落ち着かせた。




 目が覚めると朝日が昇り始めていて視界が白く染まった。俺は手で庇を作ると目を少しずつ開けた。立ち上がって体を大きく伸ばすと無意識にシックスセンスを使い、斬撃を海に飛ばしてしまった。二つの一閃が海を斬り刻み、やがて、一艇の大型船に当たりそうになった。

「やべっ!」

 俺は急いで斬撃を止めた。だが、その大型船から拡声器を使って怒声が聞えて来た。

「このクソガキッ!」「てめえ、殺す気か!?」「ふざけるなよ!」「そこで、いろよ、テメエ!」「俺たちに喧嘩を売ったことを後悔させてやるっ!」

 俺は首だけ振り向いていた体の向きを変えて正面から大型船を見た。

「遅いなあ」

 大型船の向かって来るスピードを遅く感じたツリトは走って泳いで向かおうとオーラを纏った。

「「「なっ!?」」」

 おそらく、大型船に乗っていた乗組員全員が驚愕の声を漏らした。すると、拡声器の電源を切って黙り出したかっと思えばザワザワと言う音だけが聞えて来た。

 ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ

「どうしたんだ?まあ、とりあえず向かうか」

 俺がもう一度、オーラを纏った時、再び拡声器の電源が入り、大型船の乗組員全員がおそらく叫んだ。おまけに、空中に大型スクリーンのようなものを出現させて、一人一人の姿を見せてだ。

「「「大変、申し訳ありませんでしたっ!!!!」」」

 俺は何がなんだか、分からずオーラを纏うのを止めて砂浜に座って待つことにした。

 しばらくして、大型船が少し離れたところに泊まり俺が待っているとたくさんの魚を若い連中が青色のオーラを纏いながらせっせと走っていた。そんな様子を見ながら中年のおっさんが俺の前にダイブして土下座をした。

「先ほどは大変申し訳ありませんでした!!!!どうか、命だけは、命だけはお許し下さい!」

「は?」

「ヒィィ。今後は君を罵倒することのないよう、しっかりと指導しますので、どうか、どうか、お許しください。どうか、今回の件を、お父様、いえ、王様にお伝えしないよう、よろしくお願いしますっ!!」

「は?」

「そこを、何とか、何とか、何卒、何卒、宜しくお願いします」

「だから、さっきから、何を言ってるのさ?全く状況が見えて来ないんだけど」

「え、サキューバス家のご長男では?」

「さきゅーばす家?」




「つまり、ここはフロンティアの外側の世界で、イキシチ王国の領土内。そして、この国唯一の黒色のオーラを高確率で排出している、代々近衛騎士の家、サキューバス家の長男坊だって言うふうに俺を勘違いしたわけね」

「作用でございます。ですが、これは、また、恐ろしいこととなった。記憶の無いフロンティアから来た少年、と言うこととなる。ツリト少年、何か覚えていることはホントにないのですか?」




 この世界の世界地図は平面で捉えると星形の形をしたフロンティアが真ん中にズバンッとドッとあり、海を挟んで左上にイキシチ王国、左下にエケセテ帝国、右下(治安が悪い)と右上にショワ王国がある。立体的に捉えると天空領地のフロンティアが六つある。

 そして、この世界ではオーラと言うシックスセンス(特殊能力)、身体能力の強化、などなどを行う生物に平等に与えられた特別な力がある。

 数千年前に、今の世界の構造の基が完成したのだが、時間が経つごとに異変が起こって来た。フロンティア以外の領地にいる人々は生活が便利になるに連れて人間として退化した。オーラの色が変色したのだ。最初は全員、黒色だったのだが、金、紫、赤、青と分かりやすく退化して行った。

 そのため、国家権力を持った三大国はフロンティアを開拓しようとは考えなくなったのだ。代わりに、各国一人ずつは必ずいる、黒色のオーラを持つものを崇めるようになったのだ。




「まず、その喋り方を止めろ。気持ち悪い」

「ははは、すみま、すまん。取り乱してしまった。ツリト少年は記憶が無いのであれば、今日は、色々とこちらの世界のことを教えよう」

「ああ、宜しく頼む」




「へえ、競りと魚市場。スマホ、お金、売り買いの交換、なるほどなるほど。オーケイ。理解はできた。これだけ、辺りに何もなかったら、こんな場所がないと生きていけないな」

「凄い理解力だな。この短時間で」

「まだ、全然詰め込めれるけど?」

「ははは、恐ろしい。とりあえず、飯でも食うか?」

「おう」

 おっさんは、俺を色々と案内しながら、こちらの世界のことを少し軽く教えてくれた。この常識に少しの嫌悪感を抱いたが胸にしまった。




「俺は、ツリト。どうぞ、よろしく」

 居酒屋の大部屋の一室にてたくさんの漁師の視線が俺に向いた。一瞬だけ黒色のオーラを纏った。俺はあっけらかんとして片膝を立てて頬杖を付いていた。

 ザワザワザワザワザワザワザワザワ

「こいつは驚いた」「マジか!?」「噂は回って来ていたが」「こいつは、凄いな」「少々、偉そうだが、頼めばいけるんじゃないか?」「そうだな、そろそろ、収入も厳しいし」

「はあ。俺がそんなに凄いのかね?」

「ああ。こちらの世界では黒色と言うだけで人生が保証される。それほどの凄さなんだよ」

「で、俺への異様な期待の目は何?」

「ここ最近、黒色のオーラを纏う超巨大魚のせいで、魚が全然獲れていないんだよ」

「ふーん。で、俺に何とかして欲しいんだ?・・・・・・っ!?」

 大人たちの目がギラッと俺に向いた。

「多分、余裕だと思うよ。俺が忘れているのは人間だけだから」




「ふあーーー」

 俺は思わず欠伸をして、固定された椅子に座りながら賭博のカードゲームをしていた。

 深夜、月明りと星明りが輝く下で大音量の音楽と眩し過ぎるほどの光を浴びて尚、眠気が収まらなかった。

「おい、ツリト、お前、細工したろ?」

「細工?してないけど。ただ、十と十が揃うように、上手いことシャッフルして俺のところに配っただけだよ。ほら、祝儀貰ってないよ」

「「「チッ」」」

 一緒にやっていた七人が同時に舌打ちをして俺を睨んだ。

「だから、言ってるだろう、俺は抜けようか?って」

「このクソガキめ・・・」「我慢だ」「我慢するんだ」「焦るな」「耐えろ」「こいつが、親にならなければ良いんだ」「せめて、こいつの技術を盗むまでは・・・」

 七人は顔を突き合わせてヒソヒソとブツブツ話し始めた。

「聞こえてるぞ。一つ、言っておくけど、お前らじゃ無理だよ。俺の技術を盗むのは。諦めろ」

 七人は黙って視線を向け続けるために言葉を足した。

「できないことは追い求めない方が良い。それよりは、このシャッフルだとこれは大体ここら辺にあるから、この札は誰にも配られないようにしようってのが一番良い」

 俺は話しながらシャッフルして、手札を二枚ずつ渡すと笑った。

「どうする?ほれ」

 俺は持ち金の半分を正面に出した。掛け金だ。元々、義務として掛けるお金とはまた別のお金だ。

 七人の若い衆の大人たちは目を見張り熟考した。そして、次々にこの勝負を降りて行った。だから、俺は手札を見せた。

「インケツだ。今、お前たちは俺よりも全員強い手札で降りた」

 睨んできた。

「落ち着け。ギャンブルの肝は心理戦だ。さっき、俺が手札を簡単に細工できるって言ったから、お前らは降りただろう?お前らはこんな勝ちを積み重ねて運を味方にするのが一番良い。その証拠に、今、最悪な気分だろう?」

「クソッたれ!」「そんなのは俺らも知ってるんだよ!」「クソガキが」「調子乗りやがって」「今の勝ち分の金はくれてやる」「さっさと、出てけ」「お前も、俺たちと変わらないじゃないかっ!!」

 俺は今、手持ちにある分のコインをゲーム用に置いてあったスマホから自分のスマホに入金して出て行った。ちなみに、スマホは昨日のおっさんがツリトに与えたものだ。

「随分と、打ち解けるのが早いな、ツリト少年」

「そうか?普通だろう?」

「いいや、違え。普通はできないよ。もうそろそろでポイントに辿り着く。どうやって、捕らえるんだ?」

「うーん。傷を付けるのは嫌だから、適当に衝撃を与えて捕らえるよ」

「ああ、よろしく頼む。それでだが、ツリト少年、その水掻きの大きさ、河童か?」

「ああ、うん。そうだよ。だから、ちょっとだけ、魚を傷付けるかも」

「ん?」

 ピッピッピッピピーーーーー!

「来た。下にデカいのが、五十メートル近くあるぞ」

 ザワザワザワザワザワザワザワザワ

「じゃあ、行って来る」

 俺は船首に立って軽く跳んで海の中に入った。目の前には超巨大魚が普通の大きさの魚を引き寄せながら泳いでいた。

「うーん。力加減をまだ分かってないからな。適当に軽めに飛ばすか」

 俺は魚の下腹に空気砲のような斬撃を飛ばして水中から上げた。だが、かなり空へ跳ね上げてしまった。

「やべっ、力加減を間違えてしまった!?」

 俺は水中を蹴って跳んだ。だが、俺が一番最初に見たのは、その超巨大魚を嘴に咥えて空を舞う鳥だった。その鳥は黒色のオーラを纏っていた。

 漁夫の利だ。

「お前は、容赦せんぞ。俺は漁に出たんだからな」

 俺は容赦なく鳥の両翼を斬った。翼を失った鳥は自由落下をした。俺は超巨大魚の排泄口から尻子玉を回収すると同時に落ちた魚へ斬撃を利用して高速移動した。

 ザワザワザワザワザワザワザワザワ。

 大型船に乗っている乗組員全員が呆気に取られていた。そんな中、おっさん、この大型船の船長は紫色のオーラを纏い超巨大魚を縮小して行った。だが、タコが下腹にくっついていた。タコは足を斬り落として、海に逃げた。

 一同は驚きの声を漏らした。

 俺は翼を失った鳥の排泄口から尻子玉を回収すると二つの尻子玉を空気砲のような斬撃で汚れを落として口に入れた。そして、今しがた手に入れた浮遊のシックスセンスを早速利用して、大型船に鳥を渡すした。

「ツリト少年、あのタコも頼む!」

「はあ、人使いが荒いなあ」

 俺は再び海の中に入った。タコは水流を生み出すほどの高速で大型船から、俺から離れていた。

「このタコ。今まで楽して餌を得ていたな。ずる賢いな」

 俺は斬撃を纏ってタコを追った。タコは既に足を八本生やしていて俺が追って来ているのを確認すると更にスピードを上げて墨を放出した。俺は斬撃で墨を飛ばしながら、更にスピードを上げて追った。

「中々に逃げ足の速いタコだな。ウザい」

 俺は仕方なく、鋭い斬撃をタコに飛ばした。すると、タコは脱皮して更にスピードを上げて逃げた。

「この、クソタコ!」

 俺はカーブと緩急を付けてタコを追った。まだまだ、余裕はあるが、時間を掛けるのが面倒だった。狭いところに、岩陰に逃げられたら厄介なため、それまでには決着を着けたかった。

 俺がもう、逃げられないほどの距離を詰めたところでタコはもう一度スピードを上げようとした。だから、俺は、体を膨らませて河童の拍手をして、タコがオーラを一瞬、纏えないようにした。もう一度、脱皮して逃げようとしていたタコは意表を突かれて防ぐことができなかった。

 俺はタコを水中から跳ね上げた。続いて俺も海から出るとタコを捕まえた。もう、逃げられないように、タコの排泄口から尻子玉を取り出そうとした。だが、タコはまだ、抵抗して筋肉を締めた。

「この、クソタコ!」

 俺は鋭い斬撃でタコの抵抗を阻止して、尻子玉を無理やり奪った。タコはせめてもの、抵抗で一メートルほどある八本の脚で俺に巻き付いて来た。先ほど斬られたタコの体はもう、修復していた。そもそもある、タコの再生能力はそもそも早かったみたいだ。

 同じようにして尻子玉を綺麗にすると、俺は口に入れた。

「こいつ、九個もシックスセンスを持っていたのか。恐ろしい」

 俺は、タコのシックスセンスを一つ一つ確かめながら、気になるものがあった」

「脱皮。人間だと、どうなるんだろう」


 それは、『ツリト』の興味本位だった。

 この行動が大きく運命を変えるための大きな一手となった。

 そして、『ツリト』は強運であることを、天に味方されていることを示すものだった。




「ーーーーーー」

「よもや、こんなにも早くか」




「ああ、クソッたれ。今回は言いなりになってやるよ!一度、負けたことは事実だし。だが、絶対に、ただでは戻らねえからな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ