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第五話 露見は突然に

 四月も下旬に入り、新しい生活にも慣れてきて、大きなトラブルも起きず、俺は安定した日々を送っていた。

 そんなある日…

 チュンチュン

 俺は窓から聞こえてきた小鳥の鳴き声で目を覚ました。

(ん…あれ今何時だ?)

 いつもは目覚まし時計で起きているので違和感を感じて時計の方に目をやる。すると時計はいつもよりも30分遅い時間を示していた。

(やば…寝坊した…)

 俺は久方ぶりの寝坊をしていしまっていたのだ。

 考えてみれば、今この家に俺を起こしてくれる人はいない。つまり、助けてくれる人がいないのである。

(なんだろう…やっぱり辛いな…、仕方ないけど…)

 内心ちょっとした悲壮感を感じながら、急いで学校に行く準備をした。朝食を口に放り込み、制服に着替えて、玄関の前まで来ると、偶然にも麗美さんがちょうど家を出るところだった。


「あ…いってらっしゃい…」


 俺は自然と口に出してしまい、麗美さんも少し驚いた様子で振り返った。だが俺を一瞥するとすぐに顔を背けてそのまま出ていってしまった。基本相手にしないのは相変わらずだった。

(そういえば、俺の方が見送るのって初めてだよな、なんか新鮮)

 初めてのことだったのでそんなことを思いもしたが、時間に余裕がないことを思い出して俺も続いて家を出た。


「なんで今日に限って日直なんだよ」


 日直は朝から諸々やらなければいけない用事が多いので、普段より早めに学校に行く必要がある。そんな日直の今日の担当が俺なのである。


「はぁ~」


 大きなため息を吐いて、学校に向かって走りだそうとした。その時


「守…?」


 後ろから名前を呼ばれ、振り返ると理奈が立っていた。だがいつもの明るさはなく、表情はどことなく曇り気味で何か言いたげな様子だった。


「り、理奈? お、おはよう。悪い!今日俺日直だから急いでるんだ。先行くな」


 事情を伝えて行こうとすると、また理奈に呼び止められた。


「ちょっと待って!」


「ん?何?」


 俺は足を止めてもう一度振り返ると、理奈は俯いて少し黙ってから口を開いた。


「…私、見ちゃったんだけど…さっき…守の家から出てきた女の人って…誰?」


「・・・え…?」


 俺はその言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。見てほしくないものを見られてしまったような、隠し事がばれてしまったような、そんな感覚に襲われた。どうやら、俺の家から麗美さんが出てくるのをちょうど見られてしまったようだ。

 完全に油断していた。今まで麗美さんと同じタイミングで家を出ることなんてなかったし、自分の家ということもあり、他人の目なんて気にしたこともなかった。でも考えてみれば、見たこともない人、さらに異性が、ごく自然と友達の家から出てくれば驚くのは当然である。

(まずいな…まさかこんなところを見られるなんて…。このままいっそのこと打ち明けるべきかな…いや、俺の一存でそんなこと…。どうしよう、どうするのが正解なんだ…)

 俺が言葉に詰まってごもっていると理奈が言葉を続けた。


「…同じ制服だったけど、スカーフの色が緑色だったからうちの高校の二年生だよね?」


 俺は何か良い誤魔化し方はないかと頭をフル回転させた。だがダメだった。何も思いつかない。それ以上に焦りを隠すので精一杯だった。

(やばい、本当にどうしよう…)


「守…あの人と…どんな関係なの?」


「あ…えっと…」


 当然の疑問である。俺の家から出てきたのだから。でも俺には答えられない事情があるため何もしゃべることができない。


「…もしかして…彼女…とか?」


「…へ?…」


 一瞬理解が追い付かず数秒ほど黙ってしまったが、それだけは絶対に違うのですぐに否定した。


「いやいや、それはない!そんなんじゃないよ!」


 すると、それを聞いた理奈がサッと顔を上げた。


「え…違うの?私、てっきり彼女だと思ってた…ほんとに違うの?」


「違うよ」


「ほんとにほんと?」


 何回も疑い深く聞いてくるので、こっちも何回も「違う」と念を押して伝えた。すると、理奈の表情がさっきまでの曇り顔からいつもの明るい表情へと変化した。


「…はぁー、良かった!急に守の家から女の人が出てくるからビックリしたよ!」


 理由はわからないが、なんだかホっとした様子だった。まぁ元気が出たなら良かったと思った。

 ただ、問題はまだ解決していない。麗美さんのことをどう説明するのかが残っていた。そして理奈も残った疑問をぶつけてきた。


「でも…じゃあさ、彼女じゃないなら、どんな関係なの?なんで守の家から出てきたの?」


「えっと…その…」


 俺は相変わらずしどろもどろな返答しかできず、答えられなかった。


「何か答えられない理由でもあるの?」


 理奈の言葉に俺は静かにコクっと頷いた。結局最後まで何も浮かばなかった。


「いいよ、無理に言わなくても。何か事情があるんだってことがわかったし、それよりごめんね、いろいろ詮索しちゃって、話せるようになったらまた今度話してよ」


 理奈の気遣いにありがたいと思ったが、俺は「わかった、また今度話すよ」と言いうのが限界だった。


「…じゃあ俺今日日直だから行くな」


「そうだったの?ごめんね!時間とらせて」


「いいよいいよ、それじゃまた学校で」


「うん、また後でね」


 理奈には申し訳ないと思いつつ、俺は最後に手を振って、逃げるように学校に向かって走り出した。

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