第三話 彼女たちが来た日
家族同士の面会から一週間がたったある日、俺は少し緊張した面持ちで玄関の前で立っていた。その理由は、今日明美さんたちがこっちの家に引っ越してくるからである。俺自身、いきなりのことで少々びっくりしている。父さんの話では、面会から二日して明美さんが父さんの提案をOKしたとのこと。そこで引っ越しの期日を話し合った結果、できるだけ早い方がいいとのことで、急遽今日に決まったらしい。
(にしても急すぎるって…)
内心困惑したが、今日じゃダメな理由は一つもなかったので了承した。
父さんは朝早くから明美さんたちの引っ越しの手伝いのため出かけており、俺は家で待つことになっていた。そして父さんからさっき連絡があり、そろそろこっちに来るらしい。俺は着いたらすぐに作業を始められるように外で待っていたのである。
外に出てから10分ほどたって、家の前に父さんの車とトラックが一台止まった。するとトラックから引っ越し業者が三人ほど下りてきた。父さんも車から下りて、業者の人と話をしていた。
「…それじゃお願いします」
『『『はいっす!』』』
業者との話しが終わったタイミングで俺は父さんに近づいた。
「おかえり。業者お願いしたんだね」
「ただいま。ああ、急だったから引き受けてくれるか心配だったけど大丈夫だったよ」
「明美さんたちは?」
「マンションの片付けと掃除をしてからこっちに来るそうだ。夕方頃になりそうかな。その頃にはこっち方も片が付いてるだろう」
「ほーん、そっか」
『すみません、ちょっといいですか?」
話をしていると業者の一人が父さんに話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
『荷物って基本全部二階に上げちゃっていいんでしたっけ?』
「えっと、段ボールに色シールが貼ってあると思うんですけど、赤・黄色・オレンジは二階で同じ色のシールがドアに貼ってあるので、それぞれ同じ色ごとの部屋に運んでもらっていいですか。あと青のやつは一階で大丈夫です」
『了解しました!』
「よし守、手伝うぞ」
「分かってるって」
そこから俺たちは黙々と引っ越し作業を行った。最初は段ボールの開封から始まり、(ただし、明美さんたちの私物らしきものは空き部屋に置いておくだけにした)家具やベッドの組み立て・設置も行った。
(これ、今日中に終わるのかな…)
作業の進度に一抹の不安を覚えもしたが、俺は作業を続けていった。
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(ふー、なんとか終わりそうだ…疲れた…)
昼過ぎから始まった作業もだいたい終わる頃には、空も朱色に染まり夕方になっていた。進度的に不安もあった引っ越しだったが、なんとか今日中に終わらせることができて安心した。
最後に業者に人たちに父さんがあいさつをして今日の作業は終了となった。
「今日はありがとうございました。お疲れさまでした」
『『『お疲れっした~』』
業者の人たちを見送り、あとは明美さんたちが来るのを待つだけになった。
「守、明美さんたちもうすぐこっちに来るそうだ」
「はーい…」
(ついに家に来るのか…あの姉妹のこともあるし心配なこともあるけど…ま、大丈夫だろう!)
俺はもう一度気持ちに踏ん切りをつけて、明美さんたちが来るのを待った。
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少しして、タクシーに乗って明美さんたちが到着した。手荷物はキャリーケースを一人一つずつ持っているだけで大分コンパクトなものだった。
明美さんは玄関前に立つ俺たちの前まできて軽い会釈をした。
「改めてお世話になります。勤さん、守くん、これからよろしくお願いします」
俺と父さんもそんな明美さんに対して会釈を返す。
「こちらこそ、これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。そんな堅苦しくならないで、これからは家族として一緒に暮らしていくんだから。自分の家に帰ってきただけだと思って」
明美さんは「それはそうなんだけどね…」と照れたように言いながら気恥ずかしそうにしていた。だけどすぐにハッとなって振り返り、少し距離をとって立っていた二人の女性に前に来るよう促した。
「ちょっとあなたたち、もうちょっとこっちに寄りなさいよ」
促されてこっちにきたのは麗美さんと愛美さんだった。以前会った時は興味なし、無関心という態度だったが、今回は少し違っていて、表情は相変わらずの無表情だったが、こちらを見る目からは明らかな嫌悪感が感じられた。
(相変わらずな姉妹だな。でも改めて見ると、この二人相当美人だよな。こないだ初めて会った時はまともに顔を見れなかったけど、モデルとか女優をやってるって言われても疑わないレベルだなこれ)
「ほら、あなたたちもあいさつしなさい。これから一緒に暮らしていくんだから、いつまでもムスッとしてないの」
明美さんの言葉に観念したのか、渋々といった感じで二人とも会釈とあいさつをした。
「「これからお世話になります」」
言葉は以上のようですぐに明美さんの後ろに引っ込んでしまった。
「ちょっと二人とも…」
態度的にもあまり良いものではなかったので、明美さんも困り顔で俺たちに謝ってきた。
「ごめんなさいね、前もそうだったけどうちの娘たちが…」
「いきなり引っ越すことになったんです。無理もないでしょう。むしろ打ち解けられるように頑張らなきゃいけないのは私たちの方ですから」
その場は父さんが宥めてその場を収めた。
ただ、麗美さんと愛美さんの態度は良くはないが、あの二人がツンとした態度をとってしまう気持ちも理解できる。なぜなら俺自身もこの数日緊張したり不安を感じたりして、精神的に安定していたとは言えなかったからだ。おそらく彼女たちもそれと似たような心境なのだろう。露骨に態度に出てしまうのはあれだが、精神的に、特に女の子なら尚更、親の再婚なんていうイベントを落ち着いて受け入れるなんて普通はできないだろう。
(ただ気持ちが荒れてるだけなのかな…でもなんか引っかかるな…)
だが、俺は二人の態度の本質には、何か別のものがあるのではないかと感じていた。まだその”何か”がなんなのかはわからないが、もっと根深い根本的なものがあるのだろうと俺は考えていた。
その上で、俺は彼女たちの様子を見た時に、一つ決心したことがあった。それは、”二人がどう思っていようと、義理であったとしても彼女たちのことを家族であり、姉と妹であると思おう”ということだ。
なぜそう決心したのか、自分でもうまく説明できない。ただ、直感的に彼女たちと距離を縮めて、仲良くなって、助けになりたいと感じたのだ。
「おい、守」
「…うん? 何父さん?」
「明美さんたちを家に入れて中を案内してほしいんだ。父さん車を車庫に入れてからいくから」
「わかったよ。 それじゃみなさん家に入りましょう。みなさんの部屋もある程度用意できてるので安心してくださいね」
そう言って俺は家に向かって歩きだした。その時、俺は改めて自覚したのだ。今日から彼女たちと寝食をともに過ごすということを。新たな五人家族としての生活がスタートするという事実が目の前まできているということを。