第一話 父からの打ち明け
俺の名前は国崎 守、地元の公立高校に今年から通う高校生だ。
今は父さんと二人で暮らしをしている。母さんは俺が生まれてから数年してもともと患っていた持病が悪化してしまい、そのまま天国にいってしまった。俺は幼かったため、母さんとの記憶はおぼろげにしか覚えていない。だけど母が亡くなる直前に俺に向けてくれた笑顔は今でも鮮明に覚えている。あの慈愛に満ちた優しい笑顔を。
そんな母の遺影に目を向けながら俺は父さんの帰宅を夕食の支度をしながら待っていた。
父さんは幼かった俺のために、忙しいなか仕事と家事を両立して苦労しながらも育ててくれた。そんな父さんを見てきたからか、自然と家事を手伝うようになり、中学に上がる頃には家事の担当は俺になっていた。今は春休み中なのでより一層家事は俺がすることになっている。
気づけば時計の長針は”7”を指していた。すると玄関の戸がガチャリと開く音がした。父さんが帰ってきた。
「ただいま…おー今日も良い匂いがするな」
そう言いながら父さんはリビングに入ってきた。
「おかえりなさい、ご飯はテーブルに並べておいたから、好きに食べてていいよ。俺風呂にお湯を入れてくから」
俺がそう言ってリビングから出ていこうとすると父さんがすれ違い様に肩に手を置いてきた。
「ちょっと待ってくれ」
少しびっくりして父さんの顔を見るといつになく神妙そうな表情をしていた。
「...どうしたのさ?」
「いや、夕食の後でおまえに話したい事があるんだ」
「話したい事?」
「ああ」
父はそれだけ言ってリビングから出ていった。
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夕食を食べ終えて、あと片付けをした後、二つのマグカップを持って父さんが待っているテーブルの席についた。
「それで話って何?」
正直、そこまで重要な話ではないと思っていた。だが父さんの話は俺の想像をはるかに上回った。
「ああ、実は父さんな、おまえに内緒で付き合っている女性がいたんだ...それで、おまえに黙っていて悪かったが父さん、その人と、再婚することにしたんだ」
「...え?」
俺はその瞬間、驚きで言葉が出なかった。そんな俺を見て父さんは慌てて話を続けた。
「いや、別に母さんのことを忘れた訳じゃないんだ! もちろん詩織の事は今でも...」
「...うん、もちろん分かってるよ、父さんがずっと母さんのことを思ってることは」
俺の言葉に父さんは少しホッとした表情になった。でもすぐに改まって硬い表情に変わり再婚についての話を始めた。
父さんの話を聞き終えて、落ち着きを取り戻した俺は思ったことを言葉にした。
「...父さんが良いと思った人なら俺は全然構わないよ」
「...本当か?」
「うん、だって父さんは俺を育てるためにとっても苦労したでしょ、そんな大変なことばかりだった父さんが好きになった人なら俺は反対しないよ」
それな俺の返答を聞いて父は不安気な表情から、今度こそ安心した表情に変わった。
「...ありがとう」
「それにさ、もう結婚するって決めちゃってるんでしょ?」
俺がそう言うと父さんは「ふっ」と笑った。
「その、人の心を見透かす感じ…母さんになんとなく似てきたな…」と呟いた。
そこからはその再婚相手についての話だった。再婚相手は父の職場の同僚で離婚歴がある人だそうだ。それで俺と一つ違いで今年から高ニと中三になる娘がいるそうだ。
他にも父は出会いやら何やらといろいろと話したそうだったが親の惚気話ほど聞いてて恥ずかしくなるものは無いと思ったのでそれは断っておいた。
「...守にも許可が出たことだし、今度家族同士で顔合わせをしようと思っているんだ。いつがいい?向こうの家族とも折り合いをつけなきゃいけないが」
「俺はいつでもいいけど、できれば3月のうちにしてほしいな、4月からはもう学校が始まるから」
「分かった、向こうの方にもできれば3月中にって頼んでおくよ」
最後にそう言って父は立ち上がり飲み終えて空になったマグカップを持って台所に行き流しに置いた。「お願いしていいか?」と聞いてきたので「いいよ」と答えた。父さんは「今日は…ありがとうな」と言いながらリビングを出て行った。
一人になったリビングで俺は父の再婚の話を思い返した。さっきは照れくさくて直接言うことはできなかった言葉を小さな声で口にした。
「再婚おめでとう、父さん」
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自分にこんな形で家族が増えるなんて考えてもいなかった。これからどんな生活が待っているのか、俺は全く想像もつかなかった。