7.歴史は繰り返す
約四〇年。
ローレンシア大陸西部域に存する国々が、『世界大戦』以前とほぼ同等の『市民生活』を取り戻すのに要した時間がそれである。
死者がふたたび命を取り戻すことはなく、破壊された事物もすべてが修復されることはなかったが、それでも、この四〇年の間は、どの国に居を定めていようと誰もが『明日』に希望を描いていられた。
『最悪』は終わった。
誰もがそう信じていたのだ――一般普通の国民たちは。
『明日』を信じず、『平和』を享受しえなかったのは、指導者層。
いずれの国家においても、その舵取りを担う者たちだった。
彼らは知っていた。
戦禍から立ち直り、『世界大戦』以前と変わらぬ豊かさを目指すその先に何が待ち構えているのかを。
いまや『世界』は、『ヒト』族が主導する体制となって久しい。
そして、『ヒト』族は『技術』のちからを強化するのをやめない。
むしろ、『世界大戦』を経験したことで、より強化してさえいる。
その異能があらばこそ、『ヒト』族の今があると知っていたから。
『世界大戦』の経験で、そうしなければ生き残れないと知ったから。
後もどりはできない。選択肢など無いと、思い知ったからだった。
しかし、そうして進んでいく先に待っているのは地獄でしかない。
『国家』――なかんずく『列強』の指導者層はその事に気がついた。
が、
『天恵』が、実は『宿痾』だったと悟ったところで、既に遅かった。
進むしかない。
『世界大戦』の炎が、ふたたび大地の表をおおったのは、先の『世界大戦』から約五〇年の後。
人々が豊かな暮らしを取り戻して間もない頃だった。
ローレンシア大陸西部域――『人間』種族の棲息領域を分かつ脊梁山脈アーカンフェイルの四周、近傍でくりひろげられた戦い。
それら戦闘の記録を総称して『アーカンフェイル戦記』という。