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56.焔と水と―21

「弾着、いま」

 手にしていた通信機が電波を受信したことを告げ、ついでスピーカーから自分の名前を呼ぶヴィンテージ中尉の声が聞こえた。

 そして、弾着のタイミングを教える一言が。

(当たれ……ッ!)

 天性の射手といわれるエルフ族であっても、飛来してくる砲弾を視認するのは困難だ。

 いっそ不可能であると言ってもいい。

 それでもその場にいるもの全員が、弾着を告げる上官の声に、今度こそはの命中を願わずにはいらえなかった。

 そして、結果は……、

 水柱。

 またもや『命中せず』の繰り返しだった。

 だが、近い。

 これまでと異なり、砲弾の落着した位置があきらかに標的(いかだ)に寄っている。

「命中せず。しかし、近いです、中尉殿! いまの調子で射撃続行ねがいます!」

 観測班を率いる副官は、思わず我を忘れてそう叫んでいた。

「了解。次弾は既に発射」

 変わらず、冷静な口調でヴィンテージ中尉が告げてくる。

 そして、再びの「弾着、いま」の一言。

 精霊との対話に没頭しているネクターを除き、観測班の全員が筏直上の空を見る。

 そこには、ぼんやりと燐光をはなつ、漏斗(ろうと)状のリングが形成されていた。

 雲よりもあえかで、陽光や月光よりもかそけき光。

 さながら虹でできた(こう)(うん)だった。

 その幻にも似た光のリングが、敵の筏を中心とした、ほぼ一キロ前後のひろがりでもって、ぼぅと(おぼろ)に浮いている。

 風が吹けば、それだけで霧散してしまいそうに感じられるほど不確かなリング。

 しかし、巫女が全霊でもって精霊に願った結果だ。魔法の強度――現実世界への干渉力は、なまじな鋼鉄などより強かろう。

 その領域内にさえ入れば、あとは上から下へ径を狭める漏斗に弾道を絞られ砲弾は確実に落着する――願わくば、その円の中心に。

 だが……、

 次の砲撃もはずれ、そのまた次も……。

 これが水上にて砲撃戦をたたかう軍艦であれば、(きょ)(うさ)と言うのだろうか――現状のまま砲撃を続行すれば、()()()()命中弾がでる状況。

 筏のちかくに水柱がたち、ちかくに浮いた水上機、当の筏の上でも人間が右往左往している様までは見えるが、しかし、それだけだ。

(ダメ、なのか……?)

 ついに放てる砲弾もこれで最後。

 これが最後という砲撃に、結果をみまもる観測班全員の胸中が、絶望にジワジワと黒く染めあげられようとした矢先……、

 セクレの泉が爆発した。

 ピカッ! と一瞬、視界をましろく灼き尽くした閃光が生じた直後、

 百雷の轟きもかくやの轟音、木々を吹き倒さんばかりの颶風(ぐふう)がセクレの泉の湖畔を襲った。

 周辺からは一斉に鳥が飛び立ち、湖面にはしろい腹を見せて幾匹もの魚が浮き上がった。

 同時に、なんとも奇妙で、なまぐさい――そうとしか言い様のない異臭がブワッとひろがり、やがては失せた。

 その場の一同――百戦錬磨の山岳歩兵たちも、あまりのことに度肝をぬかれ、声もない。

 爆鳴音の巨大さに、さすがに観測班の無事を案じたか、集落地跡――〈ブラウヴェイス〉にあって砲撃を指揮していたヴィンテージ中尉から、安危を問う怒鳴り声にも似た問いかけが入る。

 ようやく自失状態から醒めた副官は、

「命中……。標的は完全に消失しました……」

 マイクを持つ手のわななきをどうにも抑えることも出来ないままに報告をした。


 イスタリア帝国の巨大ロケット破壊は、かくて達成されたのだった。

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