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54.焔と水と―19

「ふふ……、あの、ドワーフさんが、ねぇ……」

 セクレの泉を眼下に望む、とある岸辺。

 (かん)(ぼく)がかたちづくる葉陰に身をひそめながら、ネクターはそう呟いている。

 ヴィンテージ中尉がお伝えしたいことがあるそうです、と通信機の傍まで呼ばれて行った。

 そこで聞かされたのが、精霊に請願する魔法の新たな方法。

 セクレの泉、その湖面に確認した金属製の筏――敵が作りあげた巨大なロケット? の発射場を破壊するための方策だった。

 これまではウマくいかなかった。

 つい先日、なんの前触れもなく襲いかかってきたイスタリアの軍兵に蹂躙されるまで、当たり前と思って日々を過ごしていた集落――先祖代々の地、その廃墟から、ドワーフたちが操る鋼鉄の機械自動車が大砲を撃つ。

 そして、セクレの泉に浮かぶ憎むべき敵の軍事施設めがけて飛来してくる砲弾を上空にて精霊につかまえてもらい、標的とのズレを修正してもらって、命中させる。

 そのための魔法をネクターは依頼されていたのだが、言葉で聞かされたのと、実際におこなうのとでは、まったく難易度が違うと思い知らされていたのだ。

 まず、そもそもが、飛来してくる大砲の弾からして狙いが全然ダメだった。

 精霊による修正がなく、そのまま放置していれば、数十メートルどころか数百メートル単位であさっての方へ飛んでいただろう。

 その後、回数を重ねるにしたがい、そのズレは改善されてはいったものの、それでもそのままでも命中するといった精度にはついに至らなかった。

 現代は、鉄と火薬をもちいた銃器の時代といっても、従来、弓をにぎれば百発百中を謳われたエルフ、また、およそ機械をあやつることにかけては並ぶものなきとされるドワーフにしては、お粗末すぎるとさえ言えない照準の甘さ加減であった。

(もちろん、それは私も同じ、だったのですけれど……)

 湖面の筏を睨むようにしながらネクターは思う。

 こちらからは直接視認できない稜線の向こう側から飛来してくる大砲の弾を標的まで寸分過つ事なく進路をみちびく。

 そんな事をやってほしいと頼まれた時は、正直あっけにとられた。

 だが、それが可能だろうか? と訊かれ、頭の中で検討をして、結果、できそう――できると思った。

 そう言ってしまった。

 できなかった。

 大砲の場所そのものは見えなくとも、おおよその方向はわかるし、発射のタイミングも一秒の遅れもなく通信機から伝えられてくる。

 あとは、このあたり、と当たりをつけている空のどこかに大砲の弾を見つけて、精霊につかまえてもらって、正しい道筋にのるよう手直ししてもらうだけ……、

 なのに、それがどうにも無理だった。

 出来ると思っていた。

 しかし、限られた空の一角の、その中からゴマ粒より小さな大砲の弾を発見することからして難しかった。

 間近に接していた時は、あんなに大きいと思っていた大砲の、その弾丸は、空中にあると針先で突いたよりも微細な点でしかなく、そして、べらぼうにその飛翔速度が速かった。

 音速。

 そんな用語をネクターは知らなかったが、飛来する大砲の弾はその音速を凌駕した速さで、それこそあッという間に駆け抜けていくのだ。

 導くどころのはなしではない。

 精霊はともかく、術者たるネクターの生物としての限界を超えていた。

「でも、ヴィンテージ中尉殿が言った……、あのドワーフさんが考えてくれたこの方法なら、きっと……」

 ネクターは、今度こそはと心中に期しながら、呼吸を整え、ゆっくりと精霊との対話に没入していった。

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