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52.焔と水と―17

「なるほど……」

 ヴィンテージ中尉はつぶやくように言った。

 部下達への状況確認と指示も中途にして、ヴォトル少尉からの話を聞いた直後のことである。

 つい先ほど、ヴォトル少尉がそうしていたように、彼もまた親指と人指し指で自分のあごをつまんで黙考している。

「そうですね」

 やがて、言った。

「確かに一理ある、と言うか、現状、試せるものは何でも試してみるべきでしょうね」

 ヴォトル少尉の思いつき――と言うか、ひらめき。

 それは、つい今しがたの敵水上機による爆撃、それを〈風精の楯〉によって凌いだことに想を得ていた。

 つまり、空から爆弾が落ちてきた。

 それを傘のように(おそらくは)半球型に展張された()()()()が弾いて脇に逸らした。

 であるならば、その(シールド)の向きを逆――天地が逆さまになる格好で展張してみたらどうなるだろう、というものだ。

 雨が降ってきた時、傘を差せば、雨はそこで弾かれる。

 しかし、もしこの時、傘を天地逆にしたなら、雨は反対に集められ、水滴はその中心部に向けて流れることとなる。

 ならば、魔法の傘であるところの〈風精の楯〉も同じく、上から下をではなく、下から上をまもる向きに展張したなら同様の結果が得られるのでは? と考えたのだ。

 およそ前代未聞というか、そんな使い方が可能かどうかもわからない。

 たぶん、人間の魔法つかいであれば出来ないだろう。

 人間は、その種族の如何を問わず地べたを這いずる存在であるからだ。

 しかし、精霊ならば?

〈風精の楯〉に限らず、人間が精霊に願う加護――精霊魔法は、厳密に言えば、加護を請う人間が行使するものではない。

 人間はあくまで媒介にすぎず、その願うイメージに従い、精霊が現実世界への変容作用としての魔法を形成するのである。

 そして、当然、精霊は人間とちがって、その活動の場を地の面のみには縛られない。

 どこにもいないが、どこにでもいる。

 そのような存在であるからこそ、ヴォトル少尉の思いつきのような魔法のあらわれも、或いは可能なのかも知れない。

 ヴィンテージ中尉は、そう考えたのだった。

 そして、実際、ほかに選択肢もそうは無い。

 通常の――常識的な砲撃手順では、よほどの幸運に恵まれないかぎり、標的への命中を得ることは、ほぼ不可能事だとハッキリした。

 おそらくこのまま続けても、命中弾がでる前に砲弾が尽きるか、もしくは、先ほどのように万一に備えてではあろうが敵の攻撃をうけて試みは頓挫(とんざ)するだろう。

 そうなるくらいだったら、どんなに突拍子もなく思えることであっても、可能性を探る方がまだマシだ。

「まずは、湖畔(むこう)側にいる巫女殿にこのアイデアが実現可能か聞いてみることにします」

 そう言い置いて、ふたたび〈ブラウヴェイス〉の車内に戻ろうとしかけ、

「それにしても」

 と、ヴィンテージ中尉は、ヴォトル少尉の方を振り返った。

 顔には、なにやら面白がっているような色がある。

「うん?」

「いや、()()誘導とは、よく言ったものですね」

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