46.焔と水と―11
「射程三〇〇キロ!?」
ネクターが目をまるくした。
彼女に巫女として魔法を行使してもらうため、ヴォトル少尉が詳細を説明しはじめた――そのとっかかりのところだ。
「はい。ヴィンテージ中尉と自分たちがセクレの泉で目撃したのは、イスタリアの軍兵が、その湖上にきずいた巨大な筏と、そこに搭載されたロケットでした」
ヴォトル少尉はうなずいた。
「その、ロケット? が大砲の弾のように空を飛んで三〇〇キロ彼方の地にまで害を為そうとしているんですの?」
「その通りです」
そう言って、ヴォトル少尉は近くにころがっていた手頃な木の枝をひろうと、その先端でガリガリと地面の上に線を引く。
横長の四角形――ローレンシア大陸西部域の地図を大ざっぱに描いて、図上のとある箇所に枝先をトンと突き立てた。
「ここがセクレの泉」
次いで、つい最前にヴィンテージ中尉がしたのと同様、セクレの泉を中心として、半径三〇〇キロの円を描いた。
「見ての通りで、自分の国、サクラサス公国はもとより中央天山路、南方のサントリナ王国、それどころかサン=セヴェリナ教主国もかなりの部分がロケット弾の到達範囲にはいりこんでいます」
「自分たちの国からでは狙いたい場所まで届かないから、わざわざアーカンフェイルの山並みを越えてまで、ここへやって来たというわけですのね……」
地面に描かれた略地図をジッと見つめながら、ネクターが言った。
ロケットを発射するには、それなりの土地が必要となる。
平坦であることはもちろん、物資運搬の容易な地であることが望ましいのは言うまでもない。
セクレの泉は、これらの条件をすべからく満たしてない。
だが、イスタリア軍はこの地を選んだ。
人跡もまばら。
周囲を山に囲まれたアクセス困難な湖。
そうしたデメリットを勘案してなお、この地が軍事的な空白地帯だったから。
「私たち……、いいえ、私がもっと早くに気づいていれば……。セクレの泉をもっと足繁く通うようにしていれば……」
ネクターが呟いている。
聖地の門前町めいた立地の集落だった。
巫女である彼女は、俗世面での長役をつとめたかどうかは知らず、湖に住まうという精霊の巫女として、信仰面での中心であったことは間違いない。
実生活面でのリーダーが彼女の他にいたとしても、その人間以上の権威と信頼を(行使するかどうかはさておき)握っていたのに違いないのだ。
それが、なんの前触れもなく集落を焼かれ、住人たちは殺害された。
そうでなくとも、散り散りとなり、先祖をふくめ営々と築いてきたものをすべからく壊され喪ったのだ。
責任者――ネクターをそう呼ぶことが適切であるのかはわからない。
だが、そうしておきた惨劇を早期に察知し、防ぐとまではいかなくとも、被害をもっと少なくとどめられたのではないか――そう自責してしまうのも、ある意味、無理からぬ心の動きではあった。




