44.焔と水と―9
やがて、水上機は頭上から去った。
ここへ来た時と同じ向きに引き返したのではない。
カロンの三叉路の状況を確認しに行ったのだろう。
そして、その後もう一度ここを確認するつもりだ。
それでも、ほんのひと握りであれ時間は得られた。
水上機のエンジン音が聞こえなくなったあたりで、集落跡は動きをとりもどす。
監視にあたるもの、警戒につくもの――調律のとれた機械のように、兵たちは自発的にうごいて態勢をととのえていく。
ただ、〈ブラウヴェイス〉乗り組みのドワーフたちには、さしたる仕事がない。
車体の点検や整備にかける時間は多分ないだろうし、それ以前にエンジンをかける必要性もないからだ。
ここ、或いはここから先で〈ブラウヴェイス〉が果たすべき役割はなく、状況的にはカロンの三叉路にもどってグラス曹長の僚車と合流するのが良策かとも思える。
と、
ヴォトル少尉が、そのあたりも含め、ヴィンテージ中尉と話し合いをもつべきか――そう考えていた矢先に、向こうの方から呼び出しがきた。
伝令の兵がひとりやって来て、今後について相談したいから自分のもとまで足労願いたいと言ってきたのだった。
階級、序列がどうのと言うよりも、指揮下においている部隊の規模、それより何より地図、通信機をはじめとする資材関連は山岳歩兵たちの方が充実している。
ヴォトル少尉は、すぐに応じて、案内の兵ともどもヴィンテージ中尉のもとへと向かった。
「どう攻める?」
同行を命じたシールズ軍曹とともに赴くと、開口一番そう訊ねる。
ヴィンテージ中尉の脇に立っていた副官らしきエルフが、思わずといった感じで目をパチパチと瞬かせたが当の本人は動じず、
「共同で」と淡々とこたえを返してきた。
前振りも何もない端的な問いを向けられたのだったが、聞きかえすこともせず即答である。
状況の分析と結果として自分たちが取るべき対応についての考えは、どうやらヴォトル少尉と同じだったらしい。
が、
「共同?」
端的な問いに、おなじく端的に返され、今度は当のヴォトル少尉の方が首をかしげている。
「そう言われても、〈ブラウヴェイス〉はセクレの泉までもってはいけないが……」
ここまで来たのだ――共同して事にあたるに否やはないが、しかし、自分たちの果たすべき役割がわからない。
暗に言う言葉に、ヴィンテージ中尉はうなずいた。
「そうですね。そこで巫女殿の助力が必要になります。彼女は意識がもどりましたか?」
「ええ? なんだって?」
しかし、彼が口にしたのは、またもヴォトル少尉の想定外。
『共同』と言っても、そこまで範囲をひろげるとは思わず、思わず、素、そのままの声がでてしまった。
「いや、すまない。バタバタしていたので未確認だ。気を失ったときのままなら、〈ブラウヴェイス〉の車内でまだ横になっている状態なはずだが……」
ゴホンと咳払いしてから、報告する。
「では、まずは彼女の容態の確認をねがいます。多分に彼女の容態そのものが、これからお話しする事の胆になりますから」




