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43.焔と水と―8

「畜生。しつっこいな」

 リド上等兵がぼそりと吐き捨てた。

〈ブラウヴェイス〉の影に隠れるようにして、身を縮め、首をすくめて空を見上げている。

 視線の先には水上機。

 セクレの泉――その水面に浮かべられていた筏付近より飛来してきたイスタリア軍の水上機が集落地跡の上空をくりかえし旋回していた。

 無線にてヴィンテージ中尉があらかじめ指示を与えておいたから、エルフの山岳歩兵はもとより〈ブラウヴェイス〉も偽装を施され、目立たない場所に引きこまれている。

 だから見つかってはいない筈だが、それにしても(しつ)(よう)だった。

 集落地跡ではほとんど戦闘はおこなっていない。

 敵兵の死体も可能な限り(いん)(ぺい)した。

 したがって、無線でいくら呼びかけてみても応答がない――直接的に現地を訪れないかぎり、実際の現在状況については把握できまい。

 交戦中に、ここを守備していた兵がどれほどの情報を伝えていたかが問題だが、水上機の様子から判断するに、満足のいくレベルではなかったのだろう――多分。

 願わくば、(そこで踏ん張ってくれている味方には申し訳ないが)カロンの三叉路方面へ、さっさと飛び去ってほしいものだが……。

「あと、もう少し低く飛んでくれたらなぁ」

 そう呟くのはネク一等兵。

 枝葉を幾重にも重ねた〈ブラウヴェイス〉に乗り組み、機銃手用のハッチから頭の先だけのぞかせている。

 (つた)(くさ)をまきつけ偽装した車載機銃は、いざという時に備えて空に向けられていた。

 かなり用心深い相手で、こちらの射程内にまで降りてこようとはしないから、忍の一字で耐えるしかない。

「それで、少尉殿。この後は一体どうなる事になりますかね?」

 木陰に潜み、やはり上空を見上げているシールズ軍曹が、傍らのヴォトル少尉に質問をした。

 自分が操る〈ブラウヴェイス〉への愛着は、多分、どの乗員よりもつよい彼だが、発見されない用心に、エンジンを切っている愛車がふたたび息を吹き返すのにはそれなりに時間を要する。

 また、視界も限られ、対空監視などはしたくても出来ないことから、車外で待機しているのだった。

 もちろん、最悪に備えて、いつでも操縦士席につけるよう、身構えているのは言うまでもない。

「たぶん、攻撃をおこなう事になるだろうな」

 ヴォトル少尉はこたえた。

「守備についていた〈ヘルハウンド〉を殲滅、とまではいかなくとも、混乱に陥れた今がチャンスであるのは言うまでもない。ここであたら時間をあたえたら、敵は増援を送ってよこすだろう。いや、既にその準備にかかっているかも知れん。まずは攻撃機が押っ取り刀で来るだろう。

「だから、こちらはそうなる前に攻撃するしか選択肢がない。問題は――」

「そのための手段がこっちには無い――そういう事ですか」

 わずかに言い淀んだヴォトル少尉の言葉の先をシールズ軍曹は引き取った。

 そう。

 セクレの泉にうかぶ筏――その上の塔に収められているのだろう大型ロケットを攻撃し、破壊しようにも、現状、そのための武器がなかった。

 そこへ通じる道は細く、〈ブラウヴェイス〉は進入することが出来なかったし、エルフの山岳歩兵が駆る軍用バギーでさえ横並びに併走可能な幅はなかった。

 一丁、ムリをしたところでせいぜい二丁の車載機銃程度では、湖の中央にまではとても有効な攻撃などおこなえない。

 いずれにしても、自分たちに出番がないことは変わらないのだが――そう苦く思って、ヴォトル少尉はうなずいた。

「そうだ。目と鼻の先に獲物がいるんだがな」

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