42.焔と水と―7
「この戦争が開戦してすぐの事です。イスタリア帝国陸軍で新軍種が発足しました。名を戦略砲兵軍団。従来の火砲に比して超長距離の砲を装備する軍種であるとの触れ込みでした――憶えていますか?」
ヴィンテージ中尉は言った。
「ああ、憶えている」
ヴォトル少尉はうなずいた。
「確か、装備する砲の射程が三〇〇キロにもなるって触れ込みの、虚仮威しだったな」
ふんと鼻を鳴らした。
いかにも馬鹿にした風であったが、理由がある。
先の大戦において、列強諸国は超・大口径砲の開発、所持を競い合ったことがある。
大砲は戦場の支配者――そう信じて、より遠くまで、より大きな砲弾を送りこむことの可能な砲の開発、所持に血道をあげたのだ。
だが、そうして完成したのはいずれもガラクタ――運用には何千人もの人手を必要とするくせに、一時間あたりに発射できる砲弾はほんの数発、大砲自体も重すぎて移動もろくにままならないという、どうにも使いようのないものだった。
抑止力として一応の心理的効果はあったのかも知れないが、兵器としての価値は、言ってしまえばただそれだけ。
とてもではないが、費用対効果などとは口にもできない代物ばかりであった。
その超・大口径砲の射程がおよそ四、五〇キロ。
いくら当時から時間が経過し、技術が進歩したと言っても、その射程距離が六、七倍に延伸するというのは少々信じがたい。
プロパガンダを疑うのが普通であった。
実際、今次の世界大戦が戦われている今日この日まで、鳴り物入りで喧伝された戦略砲兵軍団の戦果……、いや、それどころか動静そのものもついぞ聞かない。
虚仮威し――ヴォトル少尉が馬鹿にするのもある意味当然ではあった。
が、
「では、少尉――少尉は〈宇宙旅行協会〉という民間団体がイスタリアにある……、あったことは知っていましたか?」
ヴィンテージ中尉からそう問われて首をかしげることになる。
「〈宇宙旅行協会〉は、人間を宇宙へ送るということを目標として、二〇年ほど前、イスタリア帝国内に設立された団体です。
「携行型兵器などより遙かに大型のロケットを〈集合体〉シリーズという名の元、開発をおこなっていました。しかし、事業ベースにのせるでない、趣味性の強い試みであったせいか、改良二型の打ち上げに成功した後、消息をパタリと聞かなくなりました。資金繰りに苦しんでいたようですから、解散を余儀なくされたのでしょう」
「私たちが目にしたモノは、その〈アグリガット〉の発展型の可能性があります」
ズバリと言った。
「……すると、そもそもの組織としては破綻したものの、実際には、軍の援助をうけ、地下にもぐっていただけだった?」
まさか、そんな――俄には信じられない。
そんな内心も露わに、しかし、あり得る――そう思わざるを得ない結論をヴォトル少尉が口にすると、ヴィンテージ中尉はうなずいてみせる。
「と、私は考えます。きっと、人間を宇宙へ送るかわりに、敵地へ爆弾を送る兵器の開発に方針を転換したのでしょう」
皮肉な口調でそう言ったのだった。
ヴォトル少尉は、軍用バギーの席上、背後を振り返る。
セクレの泉に浮かんでいた筏――その上に築かれていた塔、そして、その内部に収められていただろうモノ。
それらすべてが、禍々しいなにかとして、瘴気を放っているかのように感じられていた。




