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40.焔と水と―5

「なんだ、アレは……」

 ヴォトル少尉は呟いた。

 一方のヴィンテージ中尉も目を見開いている。

 彼らが目にしたもの、それは、

 広大な()――湖面に浮いた金属製の浮体構造物だった。

(いかだ)、か?」

 呆然とした口調もそのままにヴォトル少尉は言う。

 一辺が一〇〇メートル四方はあろうかという正方形。

 それが鏡のように()いだ湖面に浮いている。

 パッと見で、まずその面積から連想するのは、たぶん、空母ででもあろうか。

 自航能力をもたないのだとしても、飛行機の離発着にもちいられる滑走路だ。

 しかし、それにしては縦横比がおかしく、どの方向からであっても地上滑走の距離を満足させられないのは明らかだった。

 なにより、他にも奇妙な点が多々見受けられた。

 まずは正方形の筏の真ん中に、おおきな開口が設けられてあること。

 そして、そのすぐ脇に、塔のようなたけの高い建屋が建っていること。

 開口を挟んだ塔の向かいには、巨大なクレーンがそびえていること。

 発電機や燃料タンクと思しき施設がすべて塔と接続されていること。

 つまり、その『塔』こそが筏における主役なのであり、筏自体も未完成なのではなく、現状で既に完成している――その上で、着々となにごとかが、その結末へ向け作業がすすめられていっている。

 そう考えられた。

「一体全体なんなんだ。()()()()()()どもは、何を考えてやがる」

 地面に腹ばいになり、繁みの影からそうした様を見続けているヴォトル少尉が口中に罵り声をあげる。

 セクレの泉は周囲をぐるりと山に囲まれ、陸路も水路も人の移動や物資の運搬に利用できる地勢ではない。

 つまり、自分がいま目にしている筏や、その上に設置されてあるすべては空路にて、イスタリア帝国本土から、アーカンフェイルの高峯を超え遙々はこばれてきたものなのだ。

 言うまでもなく、連中からすればここは敵地のはずである。

 いくら自分たちが現状、優性に戦いをすすめており、この周辺にエルフやドワーフ――敵勢力が軍部隊を布陣していない、軍事的な空白地帯なのだとしても、こんなワケのわからない筏を浮かべて遊んでいられる余裕はないはずだ。

 が、

 では、あの筏、塔――そのすべてが意味しているところがわからない。

 少なからぬリスクと、何より軍事的なリソースを割いているのだ――まったく無意味な投資はしない筈である。

 と、

「まさか……」

 それまで沈黙しつづけていたヴィンテージ中尉が、やにわに地図を取り出すと、こまかく折り畳まれていたそれをバサバサと慌ただしい手つきで広げはじめた。

 ローレンシア大陸西部域――そのすべて、とまではいかないが、それでもかなり広い範囲があらわれる。

「セクレの泉はここ」

 そう呟いて、ヴィンテージ中尉は、とんと右手の親指の先を地図の上につきたてた。

 それから地図の縮尺を見て、別の一点に中指の先をつきたて、コンパスよろしくグルリと円弧を描いてうごかした。

「そうか。そういうことか……」

 貴公子然とした彼には似つかわしくない表情と声で低くうなる。

「何がわかった?」

 ヴォトル少尉が訊ねると、ハッとしたように振り向いた。

「礼儀はいい。結論を先に言ってくれ」

 反射的に詫びようとする彼をヴォトル少尉がさえぎると、「ええ」と言って、ひとつ唾を飲み込んだ。

「断言はできません。しかし、私はあれを長距離ロケット砲の発射場だと考えます」

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