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39.焔と水と―4

 ネクターたちエルフが暮らしていた集落には何もなかった。

 ネクターを含む一握りの住人たちがからくも脱出し、まずは自国、自軍に救いを求めてからも既にそれなりの時間がたっている。

 まだ隠れ潜んでいる敵兵、また、(とら)われてはいても命はたもっている住人の捜索をそれなりに時間をかけ、主としてエルフの山岳歩兵たちはおこなったのだが、敵兵の残余はともかく、住人については、結果は(かんば)しいものではなかった。

〈ヘルハウンド〉が建てた仮設の兵営と簡易な検問所以外には、ただただ焼け焦げ、爆砕された残骸がひろがるばかりの廃墟。

 そうした光景そのままに、無事か、そうでないかを問わず、この集落に暮らしていた者たちの姿はたえて見つけることはできなかったのである。

 そして、

 状況的にも捜索活動にそうそう時間を割くわけにもいかず、ヴォトル少尉、ヴィンテージ中尉は、集落に最後まで残っていた〈ヘルハウンド〉の兵を駆逐できたと結論づけると、次の行動にうつるべく話し合いをもった。

 この集落が()()()ではないこと。

 それが話し合いの出発点となっている。

 集落跡――〈ヘルハウンド〉が設営していた拠点には検問所がふたつ設けてあり、一つは当然、拠点への入口にあったが、もう一つは拠点から更に奥へとむかう道に対して置かれていたからだ。

 あの向こう側に何かある。

 そう考えるのは当然だった。

「なんだろうな。あの向こうに、一体なにがあるっていうんだ」

 ヴォトル少尉の独語めいた言葉に、さて……と、ヴィンテージ中尉も首をかしげる。

「あの道はセクレの泉に通じる参道のはずです」

 折り畳んだ地図のその部分を指で示しながらヴィンテージ中尉は言った。

「一本道で他に連絡している場所もなく、この集落に暮らしていた者か巡礼者が利用するだけの道のはずなのですが……」

「ふむ……」

 困惑気味の言葉にヴォトル少尉も地図をのぞきこんでみるが、その通り、細線で示された参道は、いま自分たちがいる集落とセクレの泉を繋いでいる他、交差している道も抜け道も間道も、なにも無かった。

 しかし、〈ヘルハウンド〉が、という事は、イスタリア帝国軍が、セクレの泉に何か()()があったことは疑いようもなく明白で、その証左を自分たちは今、目の当たりにしている。

 聖地へ通じる通り道として、それなり以上に整備され、掃き清められていたであろう参道が、ここ最近であろうが、多数の人間、また車両が往来した結果、汚され、踏みにじられて、少なくない損傷を露呈しているからだ。


「……行ってみるしかないだろうな」

 話し合いの結果がそうなるのは当然だった。

 が、

 ヴォトル少尉とヴィンテージ中尉は互いに頷きあったが、そこで問題となるのが、参道は、規模があくまで人道程度であり、軍用バギーならともかく、〈ブラウヴェイス〉では通行できないことだった。

 戦車壕を自前でも掘削可能なように車体前面にドーザーブレードを持つとはいっても、それで延々、目的地まで道を切り開きつつ進めるわけもない。

 時間もかかるが、なにより燃料がもたない。

 結果、〈ブラウヴェイス〉チームを代表し、ヴォトル少尉だけが軍用バギーに便乗して、セクレの泉をめざす事となったのだった。

 山間の道――集落跡を発して緩やかな、あるいは急な勾配をいくつも登り、そして降りる。

 それなりに切り拓かれてはいるが、木々の茂りに視界はせまく、トンネル内を走っているかのようにほぼ前方しか見えない。

 そうして、どれほど走ったか、

 ついに鏡のように澄明な水面――セクレの泉をのぞむ場所にさしかかった時、

「なんだ、アレは……」

 そこに目にしたモノの異様さに、知らず呟きが口からこぼれ落ちていた。

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