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38.焔と水と―3

 集落の入口ちかくで猛烈に撃たれた。

 伏撃というにはお粗末だが、自分たちの到着を予測され、待ち伏せ攻撃されたのだ。

「ま、あンだけドカドカやってりゃ否応なしに気づくわな」

 敵の伏在場所を確認すべく、火点に目をくばりばがらヴォトル少尉はつぶやいた。

 機銃弾――おそらくは20ミリ、それに、7.92ミリといったところか。

 集落跡――拠点に最後まで残っていた〈ヘルハウンド〉の守備隊だ。

 塹壕を掘り、掩蔽物を用意して、その物影から射撃をくわえてくる。

 それに対して、こちらは装甲に(よろ)われてるとは言っても()きだしだ。

 道の左右はどちらも登りの土手となっており、(かん)(ぼく)(おお)われている。

 まさかに機銃弾程度でやられはしないが、それと同様逃げ道もない。

「ネクターはまだ目を覚まさないか?」

 外の様子からは目をはなさずに、ヴォトル少尉は部下たちに訊いた。

「ダメッすね。容態は安定しているようですが、意識をとりもどした様子はありやせん」

 リド上等兵。

 砲弾を取りに行ったついでに巫女の様子を確認したのか、報告の言葉をかえしてくる。

「ヴィンテージ中尉と連絡をとりたかったんだが……、と」

 ヴォトル少尉がそう言いかける矢先、〈ブラウヴェイス〉の進行方向、左右それぞれの斜め前で火線、爆発光がひらめくのが見え、それに入り混じるようにして射撃音、悲鳴が聞こえてきた。

 こちらを挟み撃ちにするかたちで布陣していた敵兵たちをヴィンテージ中尉指揮下の山岳歩兵たちが、軍用バギーを土手に乗り上げ、そのまま灌木のなかを疾駆。車載機銃で銃撃をくわえて蹂躙(じゅうりん)したものらしい。

「お見事」

 思わず、ヒュウ♪ と賞賛の意を込め口笛を吹いた。

 それと同時に、残念だったなと、敵兵たちに向けて、そう思った。

 最後の守備兵たちは、こちらの正面から銃撃をくわえて注意を引きつけ、自らが(おとり)となることで、別の待ち伏せ兵たち――ヴィンテージ中尉たちが片付けた兵たちが、〈ブラウヴェイス〉が伏撃地点の前を通りすぎようとするところで、おそらくはロケット弾攻撃をしかけようとしていたに違いない。

 ヴォトル少尉がネクターの様子を訊ねたのも、こうした伏撃の可能性をヴィンテージ中尉に伝え、索敵と、もしも予測が当たっていたら、その排除を依頼したかったからだ。

 それを以心伝心と言うべきか、ことさら打ち合わせるまでもなく、率先してヴィンテージ中尉たちが動いてくれたので、知らず、口笛を鳴らしていたのだった。

 そして、

〈ブラウヴェイス〉は集落のなかへ突入した。

 聖地として信仰対象としている湖の最寄り地と言っても、あくまで山間の集落である。

 なにか産業があるわけでなく、巡礼者相手に商売で(もう)けようとしていた風もない。

 どこまでいっても(ひな)びた、自給自足を旨として、(つつ)ましやかに日々の生活を営んでいた、その残骸が見えるかぎりにおいてひろがっていた。

 寒々しい廃墟の光景。

 通りを進み、集落の中央と(おぼ)しき場所にぽかりと開いた広場で〈ブラウヴェイス〉を停止させる。

 ヴィンテージ中尉たちの軍用バギーも離れた場所に停車する。

 と、

 突然、建物だったものの影から、獣じみた声をあげ、敵兵が数名とびだしてきた。

 両手で抱きかかえるようにして、薄い円筒形の金属でできた何かを運び、(とっ)(かん)してくる。

戦車戦車用の吸着地雷だ。

 しかし、

「馬鹿が」

 たった一言、吐き捨てるように言うと、ヴォトル少尉はすぐ手許にある――〈ブラウヴェイス〉の車内に、車体から直接はえているような案配で取り付けられた銃把を握ると、その引き金をひいた。

 ポン! という空気銃にも似た圧搾空気が解き放たれる音。

 そして、バン! という炸裂音。

 それから、小砂利のような小さく硬いなにかが無数に車体外皮にぶつかる音と、それから悲鳴。

 それが終わると、わずかに呻き声が漏れ聞こえてくる他、あたりは再びの静けさを取り戻した。

 跳躍対人地雷――その車載型。

 内部に鉄片を無数に詰めた小型の地雷を車体外部に取り付けてある射出器から打ち出し、それを空中で炸裂させる。

 それによって車体に取りついた、あるいは取りつこうとしている敵の歩兵を殺傷する――装甲車両の近接自衛兵器だ。

 ヴォトル少尉は拳銃を手に、そこではじめてハッチを開けた。

 眼下には血まみれとなり、引き裂かれた敵兵が息絶え、あるいは弱く呻き声をあげている。

「これで、ひとまずは幕、か」

 地面に降り立つと、そう呟いた。

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