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34.冥神の地―13

「砲戦車、前へ!」

 ヴォトル少尉は命令した。

 今の今まで可能な限り接近戦を避け、敵にまわりこまれる事のないよう相互の距離を維持することに腐心していたが、一転、前進を命令したのだ。

 おそらくは敵の装甲車を中心としてカロンの三叉路を守備していた〈ヘルハウンド〉の兵たちは、後方から自分たちの救援に駆けつけてきた法兵たちの魔法が打ち破られることを想定してはいなかった。

 実際、それほどの威力の魔法であったし、術をはなった当の法兵たち自身もまた、速戦即決――一撃でケリをつけるべく、〈火嵐〉をつかってきたのに違いないのだ。

 が、

 そうした自信と目論見(もくろみ)は、ネクターが請うた精霊の加護によって打ち砕かれた。

 更には装軌車両に機動力で勝る装輪車両を駆ったエルフの山岳歩兵が、法兵の陣を急襲するにおよんで大混乱に陥った。

 魔法と大砲――使用する兵器に違いはあっても、直接的に敵と交戦する事を想定していない部隊がそういう事態に遭遇したら、蹂躙(じゅうりん)される未来しか残されてない。

 そして、後方の支援部隊の混乱は、敵と相対している前衛部隊にも波及する。

 これでこの戦いも終わった――そう安堵したところが結果は真逆で、自分たちを助けにきてくれた筈の味方が悲鳴をあげているのだ。

 このまま眼前の敵との戦いを継続するか。

 それとも、逆進して味方の救援に赴くか。

 いや、そもそも敵の別働隊が後方にいるということは、自分たちも敵に包囲されているのでは?

 そうした可能性の予測や自分たちがとるべき行動のプランが百出し、迷いが生じたに違いない。

 そこを衝いて混乱をさらに拡大すべく、ヴォトル少尉は不利を承知で前進を命令したのである。

「ネク! とにかく撃ちまくれ! 有効弾でなくて構わない。敵に、自分たちは攻撃されていると理解させるんだ」

 後方操縦士席から、ふたたび機銃手の席へ移動させたネク一等兵に指示を飛ばす。

 いかな精強な兵であっても、パニックとまではいかなくとも、過誤くらいは犯す。

 それを期待してのことだった。

「僚車、離れます!」

 了解と応える(かたわ)ら、ネク一等兵が報告してくる。

 確かに、ヴォトル少尉達の〈ブラウヴェイス〉から、グラス曹長の車両が離れる向きに動いていっていた。

 再度の大規模魔法攻撃が(おそらくは)無いとわかった。そして、対応に迷っている敵の混乱をさらに助長するため、状況の複雑化をはかろうとしているのだろう。

 二両の砲戦車が固まっていずに分散すること、カロンの三叉路奥を目指す姿勢をみせること――自陣を突破されるかもという可能性を示すことで、浮き足立った敵の連携を今以上に悪化させようとしてのことに違いなかった。

「全員、しっかりと何かに掴まっててくだせぇよ! ここからは、ちぃとばっかし荒っぽく行きやすぜ!」

 シールズ軍曹が吼える。

 と同時に、〈ブラウヴェイス〉が、ぐん! と舵を切り、身体が横に振れたか、と思う間もなく急(ブレ)(ーキ)がかけられる。

 ガリガリ、バキバキと鉄塊(キャタピラ)のたてる擦過音、地表の石塊を砕き割る異音に、ゴツゴツと小刻みに上下左右へ震動しながら車体が滑る浮遊感。

 その果てに、つんのめった車体が、ガックンとばかり――お辞儀をしたような上下動をした後、すべてをかき消し、砲撃音が轟いた。

「よっしゃ、次!」

 シールズ軍曹の満足そうな声と同時に、〈ブラウヴェイス〉は再び走りだす。

『魔弾の射手』――異名通りの曲撃ちであった。

「か、神業だ……」

 そう呟いたのは、機銃手席からこの一部始終を見ていたネク一等兵でもあろうか。

 その視線の先では、迂闊にも転進しようとしたところを捉えられたのだろう。

 一両の〈テュープ234〉が紅蓮の炎にやかれ、もはや動かぬ骸を晒していた。

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