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33.冥神の地―12

「魔法による攻撃はもうない――少なくとも、先ほどのような規模のものは、もう無いと思います」

 ヴォトル少尉から、再度の魔法攻撃をうける可能性の有無を訊かれてネクターは答えた。

「魔法をつかうにはこの周辺のマナが減りすぎています。敵が事前に収奪したマナの蓄積箇所は、まだいくつか残ってはいますが、感じ取れるその量からしてふるえる魔法はそう大きなものではないでしょう」

 現在、付与している加護でじゅうぶん対応できると思いますと、そう言った。

「それに」と更に言葉を継いで薄く微笑む。

「それに?」

 言い淀むでなく言葉を中途にとめた相手にヴォトル少尉が先を促すと、まるで彼女になりかわるような感じで重機関銃の射撃音が轟いた。

「それに、こちらの側の機械自動車が、敵のうしろに回り込みましたもの」

 いまの射撃音は、ヴィンテージ中尉らが駆る軍用バギー車載の機関銃が吼えた音だと明かしてくれたのだった。

 ヴォトル少尉たちと対峙している〈ヘルハウンド〉の装甲車も、こと視界に関しては互いに相似て狭隘である。

 随伴歩兵の補助はあろうが、陽も明けやらぬ暗がりのなかでの戦闘となれば、そこは暗視にすぐれたエルフ、ドワーフには及ばない。

 乗員をかばう装甲などない軍用バギーは、火力の直接的な応酬には不向きであっても、視界はひろく、速度や機動力は装甲車両などとは比較の段でない。

 それら相手に優越している要素を最大限に活用し、一部の車両を敵の後背へと浸透させたという事のようだった。

 それが、押っ取り刀で駆けつけてきた〈ヘルハウンド〉の増援――法兵たちを発見し、これを殲滅すべく攻撃をくわえたのだ。

「あ、たった今、マナを蓄積していた箇所がひとつ消えました」

「というのは、つまり……?」

 恐る恐るといった感じで問いかけたのはリド上等兵だ。

「はい。イスタリアの法兵がひとり、この世からいなくなったということですわ」

 なんの感情もこめずにネクターは言った。

 害虫を駆除した、程度の淡々とした口ぶりである。

 直接的に手をくだした。

 その瞬間を目撃した。

 そうした精神にかかる重圧が少なくてすんだせいかも知れない。

 しかし、

 およそこれまで他人を傷つけ、あまつさえ命を奪う――そうした行為とは縁遠かった筈の民間人であった彼女の平然振りは、反対にヴォトル少尉たち軍人の心胆にクるものがあった。

 故郷を――親しい人や、もしかしたら家族を奪われた恨みや憎しみ故の態度なのだろうか。

 いずれにしても、

(おっかねぇ……)

 車中の誰もが心中ひそかにそう思ってしまったことだった。

 とまれ、

「どうやら敵さん、混乱しているみたいですぜ」

 愉悦混じりの声でシールズ軍曹がそう言った。

「そうみたいだな」

 外の様子をうかがいながら、ヴォトル少尉も同意する。

 おそらくはエルフの別働隊からの攻撃をうけた〈ヘルハウンド〉の法兵から、救援要請が入った、もしくは自分たちの後背に敵が回り込んだと知ったのだろう。

 あらかじめの通達をうけていたものか、〈火嵐〉の術の展開中は距離をとっていた敵装甲車群の様子があきらかに、どこか途惑いの感じられるものとなっていた。

 それまでの複数台で動いてこちらを追い込もうとしていたものが、明らかに連携を欠いたバラバラなものとなっている。

 歩兵との直協については言うまでもない。

「ネク、操縦操作停(アウト)止! シールズ、操縦操作交(イン)代!」

 ここが汐目(しおめ)か――そう判断したヴォトル少尉は、ピシリと鞭打つ響きで命令した。

「向こうが混乱しているというなら、俺たちの手で、もっと慌てさせてやろう」

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