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32.冥神の地―11

「〈火嵐〉きます!」

 ネクターが警告を発する。

「ネぇク! グラス曹長の〈ブラウヴェイス〉は俺たちの後ろについてるかぁ!?」

 それを受けてヴォトル少尉は叫んだ。

「はい! こちらの真後ろ、すぐの所にいまぁす!」

 後部操縦士席から即座に応答がかえってくる。

 その直後、焔のつむじ風が目を疑う唐突さで出現する。

 身の毛もよだつ、轟々と()え猛るような風鳴り音をたてながら、大地のおもてを急速に移動していくと、ヴォトル少尉のものともう一両の〈ブラウヴェイス〉を呑みこんだ。

 不自然、かつ唐突に出現した火災旋風。

 カロンの三叉路奥にあったエルフたちの集落――そこから駆けつけてきた〈ヘルハウンド〉の応援部隊による支援攻撃だ。

 ヒト族の術師が考案し、造り上げた魔法――〈火嵐〉である。

 地面に接している面が幅数十メートルにもなる灼熱の地獄だ。

 たちまち〈ブラウヴェイス〉車内の温度が急速にあがり、ハッキリ息苦しさをおぼえるくらいにまで環境が悪化。

 焔とそれによって引き起こされる猛烈な気流、また、旋風に巻き込まれたのだろう何かが車体にぶつかる音で車内は満たされた。

「なんて醜い……」

 魔法がひきおこした現象の威力に怯え、苦しさに息をあえがせながらもエルフの巫女たるネクターは眉をひそめる。

 戦場周辺のマナを強制的に吸いこみ、集約し、消費し尽くすことで発現した魔法。

 それ故、その現象を持続させることは困難で、爆発のような破壊的なものとしてしか作用しえない超常のちから。

 ヒト族の魔法。

 その不自然さ、術式の未熟さ、そして何より凶暴さにこぼれた言葉だった。

 そして、

 時間にすれば、たぶん一分にも満たなかった筈。

 天然自然の竜巻にも似た災厄は、自然現象たる竜巻と同様、沖天高くそびえたった焔の渦巻きをスルスルと水平方向に移動させ、出現がそうであったように突然、霧散した。

 あとに残されたのは、燃え上がり、炭化し、粉々の塵と化した何かの成れの果て。

 焔に灼かれて黒変し、所によっては融けてガラス化した(いし)(くれ)や岩塊だけだった。

 夢か幻――悪夢のようでもあったが、大地の上に野太くひかれた焦土の筋が、それが現実におこったことだと物語っている。

 そんな〈火嵐〉に、わずかな時間とはいえ完全に(いに)(ょう)されたのだ。

 いかな堅牢なAFVとて、到底無事ですむとは思えなかった、の、だが、

「あち! ()ちち……ッ!」

〈火嵐〉が通過し、ふたたび姿を現した〈ブラウヴェイス〉に変化は見られない。

 車内でシールズ軍曹が、そんな悲鳴ともつかない声をあげた以外に、さしたる被害はこうむらなかったようだった。

「ですから、壁には触れないでくださいましと、あれほど申しましたのに」

 呆れ半分、叱責半分、それに隠しきれない心配が少しな声音でネクターが言う。

「や、すンませんな、お嬢さん。でも、けっしてあんたの忠告をないがしろにしたワケじゃねぇですよ。ただ、熱の度合いによっちゃあ、砲身に微妙な狂いが生じちまうんでね。それを確かめとく必要があったんでさぁ」

 さいわい大丈夫みたいでしたがね、と言って、シールズ軍曹は、がはは……! と笑った。

()()()()

 水の精霊による加護をネクターが〈()()()()〉と二重掛けのかたちで自らに施していたのだった。

「ネク、後続車両の様子はどうだ!?」

 ヴォトル少尉が訊ねる。

「異常ナシと思われます! 依然、こちらに続行中!」

 グラス曹長が指揮する〈ブラウヴェイス〉にはエルフの兵は同乗していない。

 為に、ヴォトル少尉の車両が楯になることで、敵の攻撃をしのぐことと決定したのだ。

「助かった、ネクター。君が加護を請うていてくれなければ……、いや、そもそも敵の魔法攻撃を察知してくれてなければ、今ので俺たちはやられていた」

 ネク一等兵の報告に、そうかと頷いたヴォトル少尉は、あらためてエルフの巫女に礼の言葉を口にする。

 いえ、そんな……と、ネクターがはにかむ中、

「いやはや、聞きしに勝る代物でしたなぁ」

 リド上等兵が大きく息を吐きながら言った。

「お礼に、こっちからも、たんとお返しをしてやンねぇと」

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