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30.冥神の地―9

「なるほどな」

 部下の意外な一面と、謎の現象について理解ができてヴォトル少尉はうなずいた。

 が、

「じゃあ、何で突然狙いが()れたんだ?」

 同時に疑問もおぼえて呟きをこぼす。

「精霊の加護だと思いますわ」

 すると、その呟きをひろったのだろう、ネクターが言葉をはさんできた。

「おまじない程度でお恥ずかしいのですが」と前置きをして、

「おまじない程度でお恥ずかしいのですが、この機械自動車に乗る時に〈()()()()〉――精霊に加護を願っておきましたの。今のはその約にしたがい、精霊がはたらいてくれたものかと」

 車体にかけた防護魔法のちからによって、命中するはずだったロケット弾が直前で進路を変えられたのではないかと、そう言った。

「いや、ありがてぇ!」

 シールズ軍曹が胴間声をはりあげる。

「巫女さんの祈りで精霊の加護までいただけてるなら、俺たちゃ、まさしく無敵じゃないですかい」

 (ひょう)げた口調でそう言った。

 それに笑って応じながら、ヴォトル少尉はネク一等兵から、その携行ロケットの詳細についての説明をうけている。

 状況――敵の戦術についての理解ができて、なるほどな、と再びうなずいていた。

(要は打ち上げ花火の兵器版か。使い捨てと割り切れば構造は簡易にできるし、重量的にも歩兵が携行するのに支障はなかろう。……と言うか、このテの兵備ってのは、本来、守勢にあるこっちが先鞭つけておくべき備えの筈だわな」

 開戦以来、攻勢一辺倒。先の大戦と同様、全世界を敵にまわしていると言っても過言ではない状況にありながら、どの戦線においてもおよそ守勢に立つことがない。

 そんなヒト族国家――イスタリア帝国の周到さに戦慄しながら、そう思っていた。

「バギー隊が前にでやすぜ」

 視界内に動きをとらえたのか、シールズ軍曹が言ってきた。

 操縦にひとり。

 射手にひとり。

 給弾にひとり。

 計三名のエルフ兵をのせた軍用バギーが二両の〈ブラウヴェイス〉を追い抜いてゆく。

 車体に搭載している重機関銃から、〈テュープ234〉――装甲車に跨乗している〈ヘルハウンド〉の兵をめがけて20ミリ弾が雨(あられ)とばかり浴びせかけられた。

〈テュープ234〉の車体に火花が散り、時折、悲鳴や罵声(ばせい)()き散らされる。

 被弾したのか、それとも、しがみついている車体が急ハンドルを切ったものだから、バランスをくずし振り落とされたのか、バラバラと落車してゆくいくつもの人影。

 銃撃をくわえる軍用バギーに獣たちが牙を剥いて殺到し、それをまた別の軍用バギーが狙い撃つ。

 乱戦模様は、更に(こん)(とん)をきわめつつあった。

「ネぇク、ストォーップ!」

 シールズ軍曹が怒鳴り声をあげる。

 急ブレーキをかけられた〈ブラウヴェイス〉の車体が、大波を受けた舟のように前後に揺動し、それが収まる間もなくシールズ軍曹が発砲した。

「次弾、榴弾!」

 ふたたび怒鳴りつけるように言う。

「おうさ!」

 リド上等兵が応答し、わずかに積み込まれていた榴弾が、この戦闘ではじめて主砲に装填された。

 発砲。

 低伸し、スルスルと伸びる弾道は、しかし、敵装甲車を狙ったにしてはわずかに低い。

 案の定、弾丸は何もない大地に着弾、炸裂した。

 が、

 着弾位置を中心に、あちらこちらで悲鳴があがる。

 爆散した砲弾弾片、また、爆発の衝撃でもって飛散した石塊――そうした飛来物をくらった敵兵があげたものだった。

「一匹見たら三〇匹、ってな」

 ふん、と鼻を鳴らして、シールズ軍曹は吐き捨てた。

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