29.冥神の地―8
「はぁ!?」
「マジっスか!?」
野太い声が車内に谺する。
シールズ軍曹とリド上等兵だ。
声が驚愕と呆れを含んでいる。
ヴォトル少尉が、敵がタンクデサント――装甲車の上(精確には砲塔の背後)に兵員を乗せていると告げたのに対する反応であった。
ある意味、当然ではある。
タンクデサントは、戦車の視界が狭隘であり、死角の多さが弱点であるため、その補完、あるいは兵員の輸送を高速化し、もって作戦部隊全体の機動力を確保するためおこなう戦車と歩兵の直協戦術である。
畢竟、戦車に跨乗した兵はむきだし、かつ、戦場でもっとも射弾が集注する場所に位置することとなる。
メリットもあればデメリットもあると、そういう事だったが、
とまれ、
現状でそんなことをする必要があるのか?
そう思ったからこそ、シールズ軍曹もリド上等兵も、そして、もちろんヴォトル少尉も驚き呆れたのだった。
敵失。
相手指揮官の判断ミス。
三人が三人ともにそう受け止めかけた。
が、
もちろん現実がそんなに甘い筈はなく、期待はすぐに撃ち砕かれることとなる。
地表のある一点から、なにか閃光? のようなものがきらめき、ヒュンと飛来してきたたと思ったら、目の前、ほんの数メートルのところで突然方向を変え、飛び去った。
なにかに弾かれたかのようにも見えた。
「な……ッ!?」
なんだ、今のは!?――ヴォトル少尉が叫ぼうとするのにネクターが、
「なにか……、火箭? を敵が射かけてきました」と、その正体を明かす。
「火箭? 火箭だって?」
ヴォトル少尉はオウム返しする。
長弓、あるいはボウガンの鏃に可燃物を付け、着火し、射かけてきたというのか。
装甲車両相手にそんなことをしても無意味。
いや、可燃物ではなく炸薬であれば、そうでもないのか。
いやいや、それにしても、こちらを撃破するには至るまい。
威力がたりない。
ヴォトル少尉が可能性を脳中にめぐらしていると、今度は僚車の付近で爆発がおきる。
敵装甲車による砲撃ではない。
これまでの経験からして、敵の装甲車は徹甲弾しか使っていない。
たとえ力不足であれ、〈ブラウヴェイス〉の装甲を撃ち抜くのにはそれしか選択肢がないから当然だ。
そして、徹甲弾とは弾体の硬度、重量、速度等による威力で標的の装甲を撃ち抜き、破壊する砲弾。
基本、それ自体が爆発することはない。
「携行ロケットだ……!」
では何だ?――そう考えていたヴォトル少尉の耳に、後部操縦士席から同じく外を見ていたのだろうネク一等兵が呆然と発した言葉が飛び込んできた。
「携行ロケットだと? ネク、それは何だ?」
「は、はい、少尉殿! え……、と何と言いますか、そう! 言うなれば迫撃砲のような兵器です。違っているのは、撃ち出す砲弾の方に推進装置がついていること。それによって砲撃がほぼ無反動となることです。自分は、以前に雑誌の記事で、『未来兵器一覧』として紹介されていたのをみた事があります」




