28.冥神の地―7
戦闘は一気に乱戦となった。
〈ヘルハウンド〉の〈テュープ234〉が躍り出てきて、戦車に勝る速度と機動性とで相互の距離をころして、かつ、側面、背後にまわりこもうとする。
対する〈ブラウヴェイス〉は、そうはさせじと旋回、後進を繰り返し、砲戦距離を遠間に固定し続け、アウトレンジ攻撃の優位を維持しようとする。
そこに肉薄攻撃をしかける魔獣の群とエルフたちが駆る軍用バギー――その車上からひっきりなしに放たれる重機関銃の弾幕射撃がないまざるのだ。
さながらそれは、人間と鉄と獣が綾なす死の舞踏だった。
踊り手が絶命するまでその輪から脱することは叶わない。
スポットライトのような照明弾の光に晒され踊り続ける。
「シールズ、操縦操作停止! ネク、操縦操作交代!」
覗視孔に齧り付くようにして外部の様子を見ているヴォトル少尉が叫ぶように言った。
「ネク、後進一杯! 舵を右30度に切れ! シールズ、行進間射撃、いけるか!?」
連続して部下ふたりへの指示がとぶ。
数の多さを武器に、一台が囮となって牽制し、他の車両がこちらの装甲が薄い車体横、また後ろを衝くべく動く。
〈ヘルハウンド〉の名の通り、装甲車両が連携し、チームとして有機的に行動する事でこちらを屠ろうとしていた。
対抗する〈ブラウヴェイス〉側の切り札、と言うか、隠し札は、ネク一等兵が配置についている後部操縦士席だ。
〈ブラウヴェイス〉は砲架が固定式であるため、運動戦には向かない――待ち伏せを主任務とする陸戦兵器である。
また、国軍としての兵備調達面――資金面でも要員確保の面からも、そうそう多くを揃えられない制約があった。
結果、〈ブラウヴェイス〉には、兵器としての表立っての性能とならび、高い生残性が要求される結果となった。
そのための方策がかたちとなったものが即ち、つよい被弾経始を有した装甲板であり、車体前部へのエンジン搭載であり、そして、車体を後進させる際の専用操縦士席の設置なのだった。
「はっは、毎度のことながら、うちの少尉殿はムチャ言うぜ。ネクぅ、舵うごかすな。5秒そのまま……、と、よっしゃ、喰らえぃ、この野郎!」
をいをい、と冗談めかして言いながら、自車の操縦から離れ、砲撃に専念可能となったシールズ軍曹から同僚へ鋭い声がとぶ。
直後に発砲。
轟音と同時に〈ブラウヴェイス〉がビリビリと震えた。
「オンターゲット! よくやった、シールズ! 命中だ!」
ヴォトル少尉が叫ぶが、直後に、「んん?」と眉根を寄せていた。
妙なモノを見たように思ったのだ。
「何かありましたかい?」
シールズ軍曹が訊いてくる。
「いや、今な、撃破した車両から人間が落ちた気がしてよ」
「えぇ?」
戦車、装甲車ともに、乗員の乗る戦闘室は、全周、鋼板でおおわれている。
銃砲弾が命中し、爆発四散したとしても、だから、原型をとどめた状態で人間が車外に放りだされる事などありえない。
あるとするなら外部視察に車体から半身を乗りだしていた車長くらいなものだろうが、ヴォトル少尉の目は、そうして放りだされた人間らしき影を複数とらえていた。
なにかの見間違いか?
さもなければ……、
「連中、どうやら戦車跨乗をやってやがるぞ」
そうとしか考えられなかった。




