27.冥神の地―6
「ちッ」
シールズ軍曹が舌打ちした。
こちらが砲撃をくわえる直前に、狙った当の相手からの砲弾を浴びて狙いが狂ったからだった。
それ以外には、こちらに被害といえる被害は無い。
せっかく(?)命中した敵弾は、〈ブラウヴェイス〉の強い避弾経始に弾かれ、明後日の方へと跳んで行った。
「装填よし!」
リド上等兵の怒鳴るような声が響く。
間髪を入れず主砲発射の轟音。
車体ごと揺すぶる震動と後座してきた砲の尾栓から灼けただれた薬莢が勢いよく吐きだされる。
砲身内にこもっていた発砲煙が逆流してきて、〈ブラウヴェイス〉の戦闘室内にしろく立ちこめる……間もなく、全開の換気扇によって車外へ吐きだされていった。
そして、
「よッしゃ、どンぴしゃ!」
時間にすればほんの数秒。
今度こぼれたシールズ軍曹の声は喜色に満ちている。
音速の二倍を超える速度で標的めがけて飛翔していった砲弾が、今度は狙い誤つことなく標的を捉えた。
地表にわずかにのぞいた敵装甲車の旋回砲塔――それに見事に命中し、沖天高く吹き飛ばしたのだった。
後に残った車台の方も、一拍おいてスミレ色の焔を噴き出し、更にその後爆発する。
それは命のやり取りをしているにしては、むしろアッサリとした、呆気ないとも感じる一幕だった……。
イスタリア帝国陸軍親衛魔導猟兵部隊、通称〈ヘルハウンド〉は、突き詰めて言うなら歩兵部隊である。
魔術、魔獣――標準状態における投射火力が大であるから、一般歩兵と異なるように認識されがちだが、担う任務はあくまで歩兵部隊に可能な範囲だ。
したがって、装備している装甲車両は装輪車両であって戦車ではない。
そして、装甲車の果たす役割は、威力偵察やある程度の数の兵員輸送。
武装は自衛のためのものであり、正面きった撃ち合いなどは想定されていないのだ。
〈テュープ234〉
それが、〈ヘルハウンド〉が、ここまで持ち込んできた装甲車両。
装輪式であることをのぞき、外見は戦車のように見えないこともないものの、やはり似て非なる物であるのは変わらない。
砲こそ〈ヴォルフンガンド〉と同一であるが、防御は比較にならないほどに貧弱で、装甲厚も、もっとも厚いところで30ミリしかない。(〈ヴォルフンガンド〉は70ミリ)
〈ヴォルフンガンド〉をも一撃のもとに撃破可能な〈ブラウヴェイス〉の主砲に抗しうる筈がなかった。
今現在、カロンの三叉路に陣を敷く〈ヘルハウンド〉は、その作戦行動の内容は空挺部隊のそれと変わらない。
敵地ふかくに空挺降下し、しかる後、橋頭堡を築いて、あとは味方部隊の来援、合流を待つ――そういう事だ。
地表に溝を掘って戦車壕をつくる。
そして、その壕内に装甲車の車体を入れて砲塔だけを出し、敵を迎え撃つ。
つい先日まで……、そして現在進行形でドワーフたちが継続している防御戦術――それを〈ヘルハウンド〉もまたおこなっているのだった。
彼らにとって予想外だったのは、敵する妖精族の反撃が考えていたより早かったことだろうか。
「敵が機械自動車を動かしました。穴中にあるもの以外はすべて走りはじめています。どうやら私たちを四方から囲んでしまいたいようです」
巫女……、ネクターの澄んだ声が、敵の新たな動静を告げる。
「だろうな」
ヴォトル少尉は唸るように言った。
「今のままだと一方的にアウトレンジされて撃ち負ける。距離を詰め、こっちの不得手な機動戦にもちこむしか連中に勝機はないわな――ネク!」
部下の名前を一声さけぶ。
「機銃はもういい。至急、後部操縦士席に移動しろ」




