26.冥神の地―5
電動ノコギリのように連続した、高速な射撃音があたり一面に響き渡る。
機関銃による面制圧攻撃、いや、牽制か。
火線がホースで庭一面に水をまくように踊り、暗闇を鋭利に切り裂いた。
射弾の中に曳光弾が混ざっているようだ。
無数の石でおおわれた地表で銃弾がはじける音、それから、稀に獣があげる悲鳴が耳を打つ。
ネク一等兵による車載機銃の斉射であった。
警戒任務に就いていた魔獣たちがエルフ、ドワーフ混成部隊の接近に気がついた。
それで襲いかかってきたのを迎撃しているのだ。
魔獣――ヘルハウンドは魔法をつかう獣である。
獣であるから魔法の使用に呪文を唱えたりをするワケではない。
ヘルハウンドの使う魔法は、自らの肉体を強化――筋力増強、敏捷性上昇、体表硬化といった、いかにも獣らしい直截なものだ。
だが、それによって牙、爪がより鋭く硬く、噛みつき引き裂く力が強さを増して、たとえば一般普通のヒト程度が繰り出す斬撃、打撲程度では何ら痛痒を感じなくなる。
こちらの攻撃力は飛躍的に増し、獲物の防御、また抵抗は無視できる。
更には、その上で彼らの獣としての性質上、狩りは群でおこなうのだ。
技術のちからを開花させるまでのヒト族はもとより、魔法を駆使するエルフ、ドワーフら妖精族さえ、時に殺戮劇の対象、与しやすい獲物とみなされたのは、ある意味当然と言えたろう。
〈ブラウヴェイス〉が、その天板上に車載している機銃は、口径7.92ミリ。発射速度は一分あたり1200発。
強化された獣の肉体には、銃弾一発あたりの打撃力はそこまで致命的なものではない。
しかし、それが一秒間に二十発も降り注いでくるとなるとはなしは別だ。
小傷を負うのは避けられないし、おのずと回避優先となって攻撃を封じられてしまう。
「ヴォトル少尉殿、ヴィンテージ中尉から連絡が入りましたわ。『獣の対処は当方にまかされたし。敵装甲車への対応優先を願う』以上です」
澄んだ声がそう告げた。
「了解」
ヴォトル少尉はみじかく応じると、
「シールズ、いけるか?」と訊ねた。
シールズ軍曹がそれに答えようとした矢先、地上からいくつも星が打ち上げられて、あたりをギラギラとした不自然な明るさ、不気味な色に染めあげた。
「わは……ッ! 連中、照明弾を打ち上げやがりましたぜ! おあつらえ向きだ。少尉殿、射撃許可ください!」
いいだろう――許可を口にする前に、ヴォトル少尉はエルフの巫女に声をかける。
「『要請受領。ただちに射撃を開始する。当車、および僚車前方の貴部隊の即時退避を求む』――巫女殿、その旨、連絡願います」
無線の周波数も違えば、何より通信をおこなう担当の兵が、今は機銃の操作員になっている。
精霊にまつわるちから、異能のちからをこういう荒事に利用するのはどうなのか――そう思わないでもなかったが、元よりそれを提案してきたのは向こう側である。たしかに便利ではあるし、部隊指揮官――ヴィンテージ中尉への連絡をヴォトル少尉は依頼したのだった。
「伝えました」
一拍の後、澄んだ声がそう言ってくる。
「ヴィンテージ中尉より、『了解。アルテーミデ神のご加護がありますように』との返事がありましたわ」
エルフたちが信奉する狩猟の神であり弓矢の神の加護を彼が願ったとも伝えてきた。
それを小耳にはさんだシールズ軍曹が、ふんと小さく鼻を鳴らしていたが、それを横目に、
「ネクターですわ」と澄んだ声は付け足した。
「はい?」
ネクター? 何だそれは?――そういった感じでヴォトル少尉。
「私の名前です。私の名前は『巫女』ではありません。次からは、他の方たちと同じく、『ネクター』と名前で呼んでくださいましね」




