24.冥神の地―3
黎明を期してエルフの山岳歩兵たち、そして、ドワーフの戦車兵たちが駆る二両の砲戦車からなる部隊は動きだした。
〈ブラウヴェイス〉が先陣を切り、エルフたちの乗る軍用バギーがやや後方に続くかたちである。
重機関銃を車体上部――転倒時の乗員保護のロールバーに取り付けた軍用バギーは、その名の通り、軽快な機動力を誇るが、当然、装甲などは無い。
したがって、果たす役割は周辺査察、および警戒と獣――魔犬に対する防御だ。
イスタリア軍の軍兵があやつる装甲車の相手は〈ブラウヴェイス〉が担当する。
なお、エルフたちは、自らが乗る車両のことをバギーではなく、全地形対応車と呼ぶよう主張してきたが、正直、ドワーフたちには違いがよくわからなかった。
とまれ、
「……それにしても、静かなもんですなぁ」
リド上等兵がぼそりと言った。
いや、もちろん、〈ブラウヴェイス〉の車内にはエンジン音や排気音、履帯が大地を踏みしめる音、機械の軋み――そうした諸々の雑音が、耐える事なく伝わってはきている。
当然、それは外部にも盛大に撒き散らされている筈で、ただでさえ森閑とした地ゆえに〈ブラウヴェイス〉の存在を数キロ離れた場所にいる者にも曝露してしまう筈だった。
が、
にもかかわらず、現在接近しつつある敵陣にはいまだ何の動きもない。
『静寂』の魔法の効果だった。
行動開始直前にエルフの部隊員が自分たちと、それからドワーフ達とに魔法をかけたのだ。
それによって、轟音、騒音レベルの音の外部への放射は事実上ゼロに等しくなった。
より精確に言うと、進撃中の部隊をスッポリ包みこむかたちで一種の結界が張りめぐらされ、それより外への音の伝播をさえぎっていた。
魔法が効果を発揮していることは敵陣の様子からして明白で、リド上等兵は、それをして『静か』と評したのだった。
もっとも、軍用バギーはともかく、数十トンもの鉄の塊――〈ブラウヴェイス〉が走行することで生じる震動まではごまかせないから時をおかずバレるだろうが、いずれにしてもイニシアティブは確実に取れる。
(真っ先に動くのは、やはり獣の魔犬の方か)
ヴォトル少尉は夜風に上半身をさらしながら前方を睨む。
暁暗が去り、黎明が訪れつつあるとは言っても周辺の山並みに太陽の光はさえぎられ、地の表は闇に沈んだままである。
暗視能力に優れたドワーフやエルフだからこそ、照明なしでもまだ動けるが、その能力を欠くヒトにとっては何も見えない時間の筈だった。
だからこそ、奇襲をかけるのには最適なのだが、敵ももちろん馬鹿ではない。
ヒトの活力がもっとも衰える時間帯でもある事から、自分たちの代わりに魔犬を放っているのに違いなかった。
あとは、その魔犬どもが、いつこちらに気がつくか、だ。
「獣たちがこちらに気がつきました」
澄んだ声が聞こえてきたのはその時である。




