23.冥神の地―2
「ふむ」
部下の報告がおわり、ヴィンテージ中尉はすこし黙考する風だった。
「やはり、彼らが襲った集落になにかがあるという事でしょうか」
「そうだな。門番よろしく装甲車を配置してまで通せんぼしてるとあっちゃあ、その奥に何かがあるんだろうさ」
偵察情報が書き込まれた地図を見ながら、ヴォトル少尉もうなずいた。
実際に目視して確認してきた情報と、焼かれた集落から脱出してきた女性の巫女としてのちからで得た情報――ふたつを付き合わせて得られた結果は同一だった。
「現在戦われている戦闘正面からは遠く、ここから迂回進撃できる道も無い」
穴が開くほど目の前の地図を凝視しながら考える。
が、
直接的に魔犬が前線へ影響をおよぼす――およぼせる可能性も手段もなにも思いつかなかった。
しかし、そんな筈はないのだ。
装甲車両一〇。魔犬が約二〇。兵員はおそらく一〇〇前後。
それだけの兵力や装備を空輸のみで、敵はわざわざここまで運んできたのである。
いや、おそらくは今なおその努力は続けられているのに違いない。
エルフの哨兵が数回にわたり目撃したという山脈越えしてくる輸送機の姿がその証拠だ。
兵站負荷のことを考えれば、敵兵力の今以上の増加は多分ないだろう。
大隊全力ではないにせよ、かなりな規模の兵力を移動させたのだ。それを維持しつづけるだけでもかなりな労力が必要だからだ。
しかし、それだけにわからない。
それ程までの努力と労力をはらって、得た成果が一寒村の殲滅?
割が合わない、と言うか、費用対効果が悪すぎるにも程があるだろう。
では、何か?
ヴォトル少尉たちが来た道を魔犬が逆にたどって、ドワーフたちの前線部隊に後背から襲いかかろうと目論んでいる、というのは考えにくい。
いくら精鋭部隊といっても、それを実現するには決定的に戦力不足だ。
さりとて、連中が焼き払った集落に、なにかがあるというのも無さそうだった。
水の精霊がやどるというセクレの泉――そこを聖地として祀る、言うなら社人たちが代々住まっているだけの地というのが、その集落の実際であり、本尊としての精霊や宗教的な、そして、超常的な現象をひきおこす遺物が安置されていた事実はないという事だったからだ。
ある、と言うなら、巫女のちからを有する女性がそうかも知れないが、結局とり逃がしているし、何より、もしも目論見が失敗したというのだったら、にもかかわらず撤退する様子もない。 つまり、最初からそれが目的ではなかった。
他になにかがあるという事にちがいない。
どうにも敵がなにを考えているのか、意図するところが掴めなかった。
「ま、いいわさ」
もう一両の〈ブラウヴェイス〉、その車長のグラス曹長が、ぷふぅ……ッと大きく吐息しながらそう言った。
「キャベツ野郎どもが何を企んでいやがろうとも、やることは一緒だ」
連中の陣へ突っ込んでいって撃ちまくる! 皆殺しにする!――それだけだ!
その場の誰もが考え込んでしまった――澱んだ空気を吹き飛ばすように、言ったのだった。
「確かにそうですね」
ヴィンテージ中尉もうなずく。
「なにかがあるのだとしても、すべてはこちらの攻撃を成功させてからのことですね」




