19.魔犬―5
「飛行経路からして、ここで我が軍と対峙している味方部隊への補給ではない」
もう一人のドワーフが言った。
「山脈越えをするなら、他にもっと楽なルートもあろうし、そちらを選ぶはず」
ヴォトル少尉も首をひねる。
「セクレの泉は聖地です。巡礼者以外に立ち寄る者はおよそ無く、周辺にある……、あったのはわたしたちの部族が営んでいた集落のみ。いちおう連絡路はありますが、当然のこと飛行場などはありません」
これは、その地から逃れてきたというエルフの女性。
「――と、すると、一体……なんだ?」
三人は顔を見合わせた。
陸の孤島のような立地にある山間のちいさな湖、そして隠れ里めいた集落。
およそ軍事的な価値などありそうに無い。俗世から忘れられたような地だ。
しかし、その地を敵の精鋭部隊は蹂躙し、非戦闘員を虐殺したのだという。
「飛行機による偵察を要請しましたが、今の時点では実行にうつされていません」
ヴィンテージ中尉が言った。
「この先も、それがいつおこなわれるのかは不分明です」
エルフの女性が悔しそうな表情をうかべて俯き、ドワーフ二人は低くうなり声をあげる。
が、
仕方がなかった。
中央天山路打通を目指すイスタリア帝国軍と、喪われた、あるいは敗亡の瀬戸際にあるドワーフの都市国家連合、そして、天山路を抜けた先にあるサントリナ王国。
この戦域において味方側でまともな空軍戦力を保持しているのはサントリナ王国のみ。
だが、その王国も、大戦開戦時に戦った航空戦で甚大な被害を出し、壊滅こそまぬがれたものの、戦力は激減。なんとか持ち堪えているといった状態である。
緒戦の大敗で空軍戦力は継戦能力をほぼ喪失する寸前にまで落ち込んでしまい、だからこそ、精強なイスタリア空軍爆撃部隊を迎え撃つ戦闘機の拡充にまず主眼が置かれ、それ以外は後回しとされていたのだ。
畢竟、現存している攻撃機、爆撃機、輸送機、偵察機は虎の子であり、そうおいそれとは使えないし使わない。
王国が、戦局に――それも自国がかかわる戦局に、直接的な影響をおよぼすだろうことが明白な案件ででもなければ、戦力投入をなそうとしないのは、だから当然といえば当然だった。
「ですから、直接出向いていって、自分たちの目で確かめてみるしかないワケです」
その場の一同の思考を追認するようにヴィンテージ中尉が、そう付け加える。
「ああ、それで俺たちの力が借りたいってはなしになったんだな。あんたらエルフは、装甲車両一般を嫌ってるからな」
それに対してヴォトル少尉は納得顔でうなずいた。
「仮に相まみえることがあるとして、その場合の条件を可能な限りイーブンにしておきたいだけですよ。相手取るのは人間と獣、双方の魔犬なんですから」
負け惜しみだろうか――いかにもエルフらしい、と言うか、自己弁護じみた言葉に、思わず、くッと笑みがもれる。
「いいだろうともさ、上等だ。写真で見た限りでも、キャベツ風味の魔犬は装甲車を持ち込んできているようだし、そっちはきちんと相手をしよう。
「で――」と言葉をつづけ、
「で、犬畜生どもの方はまかせても大丈夫なんだろうな? え? セントリーズ共和国の山岳歩兵サン?」




