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18.魔犬―4

「『何故でしょう?』って、そりゃ()()()()()()どもがヒト族至上主義者で、()()浄化をこの戦争のスローガンに掲げているからじゃあないのか?」

 口にするのも忌々しいといった調子でヴォトル少尉はこたえた。

 種族浄化。

 それは、生命進化の系統図中、また、現存する種のなかで他を圧倒し、万物の霊長の座に人間種族をつかしめた『魔法』――それを唯一有しなかったヒト族が、自助努力によって手中にした技術のちからによって立場を逆転。ついには至尊の地位を占めるにいたった自負の一つのあらわれだ。

 (いわ)く、『天与の才をもしのぐちからをヒト族は自らの努力によって勝ち取った。与えられた才におぼれて安閑とし、惰眠をむさぼっていた妖精族は、だから、ヒト族に比して劣等である。であれば、劣等たる種族は(ことごと)くヒト族に(こうべ)を垂れるか、さもなければ死を選ぶが良い』といった傲慢極まりないものだ。

 つまりは、劣等感の裏返ったものと言って良いだろう。

「そうですね。それもあるでしょう」と頷くヴィンテージ中尉。

「そして、もう一つ考えられるのはこの戦線を担当している自軍部隊の督戦でしょう。周知の通り、今次大戦におけるイスタリア帝国の大目標は、タス連邦領土にねむる資源を手中におさめることですが、その助攻たるこの戦線の侵攻速度がいちじるしく遅い。有り体に言えば止まってしまっている。その改善の一策として投入された、とする推論です」

「天下の魔犬さまが味方の尻を蹴っとばしにやってきたってか。そいつはなんとも名誉なことだ」

 ヴォトル少尉は皮肉な感じに唇をゆがめてみせたが、同時に、『だったら、これまでずっと相対してきた敵の、あの自殺行為としか思えない攻勢をかけてきた理由にも納得がいくな』と考えている。

 ヒト族の優位を標榜するイスタリア帝国――その中でも、一種、狂信的といえるレベルでその主張を信奉している者たちで構成された部隊がすなわち『魔犬』

 劣等たる妖精族どもに遅れをとるなどヒトとして、イスタリア帝国人として恥――ここで非国民として処刑されるか、それとも戦って死ぬか選べとでも言われて、どうしようもなかったのに違いない。

 愚かで、そして(憎むべき敵ではあるが)哀れなことだ――そう思わざるを得なかった。

 そして、ふと思いついて言った。

「だが、あんたは……、あぁ、失礼、中尉殿はいま言った可能性ふたつのどちらでもないと思っているんだな?」

「別に、あんた呼ばわりでも構いませんが、どうも」

 ちら、と、その端正な顔に微笑みらしきものを浮かべるヴィンテージ中尉。

「その通りです。督戦程度で魔犬をつかうようならこちらも楽ができるでしょうが、イスタリア軍はそこまで甘くはない。少尉たちが撃退した敵の攻勢も、督戦と取れる言辞を魔犬が(ろう)した結果かも知れません。しかし、私には魔犬の命じられた任務がそれだけだとは思えないのです」

「……何か、そう思う根拠みたいなものはあるのか?」

 ヴォトル少尉が訊ねると、

「ええ」と頷いた中尉は、すこし立ち位置をずらして、背にしていた黒板――そこに貼られた写真の一枚を指し示した。

「我が軍、早期警戒群に属する(しょう)兵から送られてきたものです。撮影日時は約一カ月前」

 それは、機首に一、主翼に二――合計三発のエンジンを積んだズングリした(フォ)(ルム)の飛行機をとらえた写真。

 イスタリア帝国空軍が運用している主力輸送機の姿をうつした写真であった。

「〈タンテ〉、か」

 もう一人のドワーフが、その輸送機の機名を口にすると、ヴィンテージ中尉は頷いた。

「写真を撮った哨兵たちからは、輸送機が確認されたのはこの一回だけではないこと。航続距離、また飛行高度的に無理を強いられている、それを勘案してなお、かなりな重量物を運んでいるのか、武装をすべて取りはずしている様子であること――そうした報告が上げられています。

「飛行経路や飛来してくる間隔は一定しませんが、目的としているのはいずれもセクレの泉と見なせるそうです」

 そこまでを言って、ドワーフ二人の顔を見た。

「怪しいとは思いませんか?」

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