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14.戦場の情景―7

 つよい力で上から押し潰されたかのように低い車体。

 (なた)か斧の刃のように進行方向へ向け(くさび)形となる(フォ)(ルム)

 車体上部はのっぺり広く、そこに機関銃を一丁装備。

 転輪は履かされたスカートで上半分が隠されている。

 まるで『箱』のようだった。ひしゃげた失敗作の箱。

 それが〈ブラウヴェイス〉――ドワーフ達の守り神。

 砲戦車の呼び名通りに一際目を引くのが長大な砲身。

 元々は艦載砲だというそれは、五一口径一〇五ミリ。

 全長五メートルを超す、撃破できぬ敵なき必殺兵器。

 砲口部には巨大な制退器(マズルブレーキ)を備えているのが禍々しい。

「ダメじゃな」

 その〈ブラウヴェイス〉の横腹を肉の分厚い掌でバシンと叩いて整備兵は言った。

「ミッションがいかれかけとる。開けてバラしてみん事には確言できんが、何にしたって時間はかかる。すぐに出るのは不可能じゃ」

「そんな……!」

 言われてヴォトル少尉は絶句した。

 昨夜……と言うより、夜が明けたつい先刻まできこしめしていた酒精(アルコール)もどこかへ消え失せてしまったかのように真っ青になっている。

 朝まだき――暁闇が白みかけてはいるが、陽光の明るさが空気を満たすのにはまだ時間がかかる、そんな頃合い。

「戦車なんてぇのはな、三〇〇キロも走らせりゃどっかが壊れる実に虚弱な代物よ。だっちゅうのに、ダッグインだか何か知らんが、防御戦闘ばっかだからっちゅうて足回りの整備をおろそかにしとったんだろ。そのせいじゃ」

「別におろそかになんか……」

 したつもりはない――そう言いかけて、ヴォトル少尉は口をつぐむ。

 あんな砲煙弾雨のなか、車外で整備や点検作業を実行するのは自殺行為、という文句を喉のあたりで()き止めた。

 それならそれで何とか工夫し、案を出しして自車の状態を満足裡に維持しておくのも車長の仕事のひとつではあるからだ。

 それを怠り、結果、こうして戦力として数えられない無様をさらすハメとなったのであるから、悪いのは自分であるに他なるまい。

「ま、()を聞いてみたかぎりじゃ、そこまでヒドくはあんめぇよ」

 唇を噛んで黙り込んだヴォトル少尉の姿に、灸は据えおわったと思ったか、取りなすように、いかにも頑固爺ぃといった風体の整備兵はつづける。

「移動の途中でトラブル起こして二進(にっち)三進(さっち)もいかんようになったなんて事にはならんよう、メンテはしっかりやっておくから、取り敢えず、遅れる旨を上へ報告にでも行ったらどうだな」

「……よろしく頼む!」

 ヴォトル少尉は(きびす)をかえした。

 まずは砲戦車小隊の小隊長、それから戦地の持ち場にて一両欠け、ただ一両のこされた僚車の戦車長にもことわりの一言はいれておかねばならないだろう。

 駆けこそしなかったものの速い足取りで整備場を抜けると、失われた戦友の冥福を祈って杯をかたむけつづけた隊舎の脇を通り抜け、司令部がおかれた建物をめざす。

 報告するのが早かったからと言って整備が早くおわるワケではない。

 しかし、一分一秒でもムダにしたくない気分でいっぱいだったのだ。

 司令部入り口前に立つ警備の兵に来意を告げる。

 この時点でヴォトル少尉は、司令部建物内にて自分を待ち受けている運命を知る由もなかった。

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