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11.戦場の情景―4

〈ブラウヴェイス〉――ヴォトル少尉たちは戦いつづけた。

 暁闇からはじまった敵の攻勢は、昼をすぎても終わらず、夕闇が大地を覆い、今日が明日へと日付をかえる頃になって、ようやくの終熄(しゅうそく)をみた。

 やられてもやられても――そう形容するしかない程の(しつ)(よう)さで、イスタリア帝国軍の侵攻部隊は押し寄せてきた。

 戦場のケダン高原が、高原とは言いつつ、氷河が形成した地形であるため、実際には盆地であること、

 攻め手であるイスタリア帝国側が、いまだに航空優勢――戦場における制空権をにぎっていないこと、

 策源地からの距離、また、そこから前線までの交通路が山間路のこととて整備度合が劣悪であること、

 主にその三点によって、攻勢正面を広くとれず、補給も潤沢でないイスタリア帝国軍侵攻部隊は、満足に重砲の展開ができずにいた。

 結果、定石とも言うべき重砲、あるいは経空攻撃による守備陣地の粉砕をじゅうぶんにおこなう事ができず、損害が大きくなること必定な正面突破をはからざるを得なくなっていたのだ。

「だから、これまでは、『なぁなぁ』程度のやりとりで済んでいたんだがな……」

 照明弾が次々に打ち上げられ、そのギラギラとした明かりで闇に沈んだ大地が不気味に染め上げられるのを見ながらヴォトル少尉はつぶやいていた。

 もう攻撃はない。

 敵に夜襲をかけてくるだけの戦力や余裕――なにより士気は残ってない。

 現在、ひっきりなしというレベルで照明弾を打ち上げているのも、こちらを攻撃するためと言うより、戦場に取り残された戦傷者を救助し、擱座した車両の回収を容易にしようとしての事にちがいない。

 そうは考えてはいるものの、やはり、万が一という事がある。

 何よりこちらも限界が近い――いや、とうに限界をこえているのだ。

 まともな掩蔽物もなく、剥き出しのまま戦闘を余儀なくされた敵よりマシだったとはいえ、それでも相手をすべき敵が多すぎた。

 たとえ百発百中で射弾を命中させたとしても、車内に積み込んだ砲弾はいずれは尽きる。

 陣地変更、また補給――戦闘面の有利をうしなうことを承知の上で、それでも背に腹はかえられず、戦車壕を出て移動していたところを狙い撃たれて撃破された味方は一両や二両ではない。

 現に自分たちのチーム――砲戦車小隊からも犠牲がでている。

 自分たちを救ってくれた――そして、その引き替えとして樽で()()おごれと言って寄こした仲間が、暴露した陣地から別の壕へと移動しようとした途中で撃破されていた。

 自分たちの身代わりになってくれたようなものだ――ヴォトル少尉は苦く思う。

 自分たちの危地を救ってくれた――その結果、敵部隊からの攻撃が集中した。

 交戦そのものは何とか凌いだが、そこで砲弾が尽きたのだ。

 機をうかがい、補給のために後退しようとした――そこを狙い撃たれたのだった。

 今日のところは何とかなった。

 ヴォトル少尉は、への字に結んだままの口をゆがめる。

 こんなキチガイ沙汰の攻撃は、敵もそうそう仕掛けられるものでもあるまい。しかし……、

 周囲を警戒する目を(すが)める。

 しかし、こんな我慢くらべめいた戦いを強いられつづけていれば、先にまいるのは地力に劣る側と相場は決まっている。

 そして、それはこっちの方なのだ。

 今日はなんとか生き残れたが、いずれは自分たちもああなってしまうのか……。

 良くないとは知りつつ、どうしても、(くら)い思いにとらわれがちになってしまう。

 砲戦車小隊の小隊長車から無線が入ったのは、ヴォトル少尉が闇を透かして仲間たちの墓標となった〈ブラウヴェイス〉の方へ目をむけた矢先のことだった。

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