毒親に醜いと言われ続け自己肯定感低めの令嬢がこっそり自分磨きしたら王太子に求愛されたので家を出ます!
それはあるお天気の良い日。幼い頃の私――クリスティーヌ・バルビエが庭で蝶を追いかけていたときのこと。
「クリスティーヌ! その醜い顔を隠しなさいと何度言ったらわかるの!」
新しいお母様はそう言って私の長い金色の髪を両手でぐちゃぐちゃに乱した。
メイドのエミリーが朝髪を結ってリボンを付けてくれたのに、赤いリボンは地面に払い落とされ、お母様に踏みつけられてしまう。
「ふん、それでいいわ。ちゃんとその醜い顔を隠さないとみんなに嫌われるわよ?」
「はい……。ごめんなさい、お母様」
「なんですの、その態度は? 私はあなたのためを思って言っているのですからね」
「ありがとうございます。お母様」
私はうつむいたままで無理をして笑顔を作る。
身体が弱く美しかったと言われる私の実母は私が生まれたときに難産のため亡くなってしまった。そして私が三歳のときに父のクロード・バルビエ伯爵が再婚し、継母のニナが屋敷にやって来た。
寂しかった私は新しい母が来てくれたことに喜んだ。
抱きついて甘えたかったのに、継母はとても冷たい人で一度も私を抱きしめてはくれなかった。私の存在はお母様の気に障るようで、いつも叱られてばかり。
特に私の顔が醜くて汚らわしいのでお母様を苛立たせてしまうのだ。
「ごめんなさい……。こんな顔で」
私は自分がとても醜い女の子なのだと信じて疑わなかった。
だってお母様は毎日毎日、呪文のように私の顔を見る度「醜い子」と言うのですもの。
だから言われたとおりに髪の毛を伸ばして顔を隠し、十七歳の今まで生きてた。
髪の毛に櫛を通すことも禁じられていた。なので、長い髪はいつも絡まり、ぱさついてボサボサで顔に擦れてかゆかった。
洋服も華やかなピンク色や赤色、紫色などを着るのはもってのほかで、いつもねずみ色か黒のものしか着せてもらえない。
唯一誕生日の日にだけ、青や緑色のドレスを着させてもらえる。
でもそれはいつも古びたデザインで、ほころびがあって布も毛羽立っているものばかり。それでも私はいつもは着られないドレスを身にまとうだけで心が踊って、襟元や裾にあしらわれている色褪せたレースを眺めるだけで夢見心地になった。絵本の中に出てくるお姫様の挿絵――目を瞑るとそこに描かれていたドレスを着る自分の姿が頭の中に浮かんで、とても幸せな気分になる。
そんな私には醜いなりに努力して、できることならいつかは温かい家庭に嫁ぎ、この家のお荷物にならぬよう出ていきたいという夢がある。
お母様も私が出ていって顔を見ることがなくなれば、私にいら立つこともなくなるでしょう?
そうすれば、たまにお会いできたときに私に笑いかけて抱きしめてくれるかもしれない――。
そうなったらどんなに素敵だろうと私は毎晩のように夢見た。
お父様は、新しいお母様が来てからというものあまり家に寄り付かなくなった。お母様がイライラなさっているからお父様は家にいると落ち着かないみたい。いつも人付き合いが忙しいと言って家を空けていた。
だから私の様子にも気づきもしなかった。
(どうせ醜い娘ですもの、可愛がりたいとも思わないわよね。悲しいけど仕方ないわ……)
そんな私もとうとう今日で十七歳になった。この国では十七歳になると成人とみなされる。
(もう一人で何でも決められる年だわ。結婚だってできる。そう、結婚!)
絵本に出てくるお姫様のように、私にも王子様が現れて幸せに暮らせたら――。
いいえ、私のように醜い女の子に王子様が現れるなんてことはないってわかっている。それでもせめて一度でいいから可愛らしいドレスを着て、お茶会や舞踏会に出てみたい――。
私の胸は期待にふくらみ高鳴った。
そうよ、私はもう一人で何だってできる!
(何年も前から計画していたことを今日実行するのよ、クリスティーヌ)
◇
十七歳の誕生日当日、私は深緑色のドレスをお母様から貰って着ることができた。
袖と襟にちょっとだけシミがあるけど、繊細なレースがあしらわれたベルベット素材のドレスだ。腰の部分に大きなリボンが付いていてとても素敵だった。
「お母様今年も素敵なドレスをどうもありがとう! 私とても嬉しいです」
微笑みを浮かべてお礼を言うと、お母様はちょっと鬱陶しそうに眉をひそめた。
「おめでとうクリスティーヌ。だけどもうあなたは子供ではなくレディーなのですから、無闇にはしゃがないことよ」
「――はい、お母様!」
レディー。なんて良い響きなのかしら!
そう、私はもう子供じゃないのよ。
継母の言葉は私を一層有頂天にさせた。
午後のお茶の時間の前に、お母様は毎日少し午睡の時間をとる。その時がチャンスだ。
私はお昼ご飯を済ませた後部屋に引っ込んで、お母様がお休みになるまでそわそわしながら過ごした。昨日までの間に持ち物は全て準備済みだ。
そしてその時が来た。
私は荷物を抱えてそっと裏口から外へ出た。エミリーにお願いしておいた通りちゃんと裏門に馬車が待っている。
私は初めて一人で馬車に乗った。
そもそもあまり外に連れ出しては貰えなかったので、馬車に乗ったのなんて何年ぶりだろうか。
「中央広場の近くまで行ってちょうだい」
御者に告げる。そして馬車に揺られながら召使いのエミリーのことを思い返す。
「クリスティーヌお嬢様、本当にお一人で行かれるのですか?」
とエミリーは最後まで心配してくれていた。でももしエミリーを連れて行ってこのことがお母様にバレたら私だけでなくエミリーも叱られる。そしてエミリーはおそらく職を失ってしまうだろう。
私のせいで迷惑をかけるわけにはいかない。
だから私はついてこようとするエミリーをそっと押し留めた。
「大丈夫よエミリー。私一人で行ってみたいの。それに私がいない間、お母様に私は気分が悪くて部屋で休んでいるって伝えてくれないと困るもの」
「そうですね……。かしこまりました! あとのことはどうかお任せください」
私が生まれたときから住み込みで働いているエミリーだけが私の心の支えだった。
ありがとうエミリー。今日は私、きっと素晴らしい体験をしてくるわ!
そんなことを考えているうちに馬車は目的地についた。
◇
私は広場の噴水前に佇んで辺りを見回した。街の中は人や馬車が行き来していてとても賑やかだ。
「わあ……!」
こんなふうに一人で市街地まで来るのは初めて。以前来たときとは全然空気が違うように感じた。
「さてと、まずはここにいかないと!」
私はポケットから行き先を書き付けた紙を取り出した。
「ラブール通りを東に曲がって二軒めってことは――え~っとこっちね」
ブツブツ言いながら紙を見つめて歩いているとドン! と正面から人にぶつかってしまった。
あまり人相の良くない若者だ。とっさに謝る。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「どこ見てんだよ、気をつけな!」
若者は「ちっ。ブスが」と捨て台詞を吐いて去った。
――私みたいな醜い女にぶつかられたら怒るわよね……。
あまり外に出たことがない私は男の人に怒鳴られるのが初めてですっかり気落ちしてしまった。
――やっぱり……私みたいな人間は外に出ない方がいいのかもしれない……。
とぼとぼと歩いていると右手に明るい色の建物が現れた。全体的にこの市街地は石造りの建物が多く、落ち着いた色合いの街並みだったが、この一軒だけ壁が明るいピンク色でとても目立っていた。
「まぁ! なんて素敵なの……」
私は落ち込んだ気分を忘れてお店の看板を見上げた。
「ここだわ!」
まさしくここが目的の美容室であった。
◇
ドアを開けるとチリンチリン……とベルが鳴る。
外壁同様に、店内もピンクやホワイトの調度品で揃えられており、天井から吊り下げられたシャンデリアがキラキラと輝いていた。猫足の椅子やソファにはレースたっぷりのクッション。
白いテーブルの上にはピンク色の薔薇の花が溢れんばかりに生けられている。
「こんな可愛らしいお部屋は初めて見たわ……!」
まるで御伽噺の世界のよう。私は呆然と室内を見回していた。
「ようこそいらっしゃいました、お客様。ご予約はされていますでしょうか?」
ぼうっとしていると目の前に背筋のピンと伸びたブラウンの巻毛の美しい女性が現れた。その女性は飾り気の無い黒いワンピースを着ているのに、普段私が着ている黒い服と同じ色とは思えないほど洗練されて見えた。
「あの、クリスティーヌで予約していますわ。」
「クリスティーヌ様ですね。お待ち申し上げておりました」
その女性はボサボサ髪でシミの付いたドレスを纏ったみすぼらしい私に対してもとても丁寧で、にこやかに「こちらへどうぞ」と迎え入れてくれた。
キョロキョロしながら奥の鏡の前の席に座る。女性は私を座らせると「お待ち下さい」と下がっていった。
すると次に別の女性がやってきた。溌剌とした様子の若い黒髪の女性だ。ここらへんではあまり見かけない顔立ちで、どうやら異国人のようだ。
「ようこそおいでくださいました、お嬢様。私は本日担当させていただくモモカと申します! モモとお呼び下さい♪」
「どうぞよろしく、モモ。私はクリスティーヌよ」
「クリスティーヌ様ですね。本日はどのように致しましょうか?」
「あの、私こういうところは初めてで……。その、どういうのが良いかもわからなくて」
「左様でございますか! それでは……そうですね。ちょっと髪の毛を触らせていただいて、クリスティーヌ様のお顔に最も良くお似合いになるように私に任せて頂いてようございますか?」
「え! 私の顔に似合うようにですか?」
「はい♪ ちょっと失礼しますね~~~」
そう言ってモモは遠慮なく私の顔の前に垂れていた髪の束を持ち上げた。
「!!!」
モモが目をむいて絶句しているのがわかって私は泣きたくなった。
「ごめんなさいモモ、初めて会ったのに驚いたでしょう……。こんな顔で」
「クリスティーヌ様……なぜです? なぜこのお顔をこのように髪の毛で覆い隠されているのです?」
「だって、わかるでしょう? こんなに醜い顔ですもの、せめて髪の毛で隠さないと――」
「ええっ!? やだ、クリスティーヌ様ったらご冗談がお上手なんですね~。え? 本気で仰ってるんですか??」
「――どういうこと? 私、冗談なんて言わないわ」
「クリスティーヌ様ってとっっってもお綺麗な顔されていますよ? ほら鏡をご覧くださいな。真っ白でつやつやのお肌にピンクの唇。綺麗なスカイブルーの目に長い睫毛。ね? だから私、どうしてこの綺麗なお顔を隠しちゃうのかなって思ったんです」
――私の顔が綺麗???
「ああ、ごめんなさい私ったら気づかなくて。モモは他所の国から来たのね?」
きっとお国が違うから、モモの国でいうとこの顔が綺麗ってことなのに違いないわ。
「私はニホンっていう国から参りました。でもニホンじゃなくてもクリスティーヌ様のお顔ってお綺麗だと皆んな言うと思いますわ」
「そうかしら。そんなこと言われたのは初めてだから嬉しいわ。ありがとうモモ」
モモは何だか納得いかないような顔をしている。ニホン人ってきっとお世辞が上手いのね。とにかく私の顔が不快にさせたわけじゃなくて良かった。
その気さくな対応に安心して、モモに髪結いを任せることにした。
私の髪の毛は何年も櫛を通しておらず絡まっており、それを解して洗って切って艶出しの薬品を塗って――と事前の準備にかなりの時間がかかった。
だけどモモは笑顔のまま根気強く施術してくれた。
お陰で私の髪の毛は見違えるように艶やかになった。
「なんてことでしょう! モモ、あなたすごいわ!」
傷んでいた毛先だけは切り落としたが、それでも背中の真ん中辺りまで長さが残っている髪の毛は黄金の絹糸のようにサラサラと肩に流れていた。
「うふふ、ありがとうございます。喜んでいただけて私も嬉しいです。思った通りクリスティーヌ様の髪って本来とても美しいのですわ」
髪の状態が整ったので今度は結ってもらう。モモは見たこともない棒状の機械で手早く髪の毛をカールさせ、最新流行のアップスタイルに仕上げてくれた。
鏡の前の自分の顔をまじまじと見つめる。
「これが……私なの……?」
頬に手を当ててしばし茫然とする。顔はともかくとして、髪型だけでまるで絵本の中のお姫様のように見えた。
――十七歳の誕生日に勇気を振り絞って良かった……!
モモにすっかり素敵な髪型にしてもらって大満足した私。更にモモが特別サービスで爪の色を美しくしてくれると言うのでやってもらうことにした。
モモはニホンという国で美容師の他に”ネイリスト”という仕事をしていたそうだ。私は初めて聞いた言葉だった。
「色はおまかせでよろしいですか? わかりました! では肌馴染みの良いピンクベージュにしますね。クリスティーヌ様は髪の毛が美しいクリーミーブロンドで、パーソナルカラーが多分ブルベ夏なので青みピンク寄りにさせていただきます」
モモが言う色の話は半分以上意味がわからなかったけど、なんだかワクワクした。
彼女はずらりと並んだ瓶から一つ選び、不思議な粉と液体を混ぜて筆に乗せ、器用な手つきで爪に塗ってくれる。
そして塗り終わると見たことのない箱の中に手を入れるように言われた。
「ここに手を入れますと中が光りますのでその光が消えるまでじっとしていてくださいませ」
「え、光るの?」
「はい。ではどうぞ!」
私は恐る恐る箱の中に手を入れた。すると箱の中でふわっと青紫色の光が点灯した。
ほんのりと温かい。
中は鏡張りになっていて、箱の天井部分が光ると鏡に反射して箱全体が光りに包まれるようになっている。
「まあ……。不思議ね」
「腕のいい魔術師に頼んで作ってもらった特別なライトなんですよ♪ 魔石の力でUVライト――えっとつまり太陽光の代わりをするんです。で、先程のジェルを硬化させます」
「そんなことができるのね。私こんなのはじめてよ」
「ふふふ、皆さんそうおっしゃいます」
そしてカチコチに固まった液体の上にモモは細かい宝石や金属片などを散りばめてくれ、更に透明の液体を塗ってまた魔法の箱で固めるという作業を繰り返した。
すると見たことも無いような艶の、宝石が輝く爪が出来上がった。
「薄いピンクで……キラキラしてとても綺麗……!」
「クリスティーヌ様が初めての舞踏会に行かれると聞いてはりきっちゃいました!」
「ありがとう、ほんとうにあなたって素敵よモモ」
そして私は美容室を後にした。
ところで支払いの際にちょっと恥ずかしいことが起こった。金額を告げられて私は準備してきた鞄の中からエメラルドの飾りがついた純金の置物――家から内緒で持ち出したもの――を出し、それで支払いをしようとした。
すると、現金じゃないと受け取れないと言われてしまったのだ。
そして慌てる私に黒服の女性が付き添って質屋に連れて行ってくれた。そこで受け取ったお金でようやく支払いができたのだ。
「私本当に恥ずかしいわ。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「いいえ、とんでもございません。またのご利用をお待ち申し上げておりますわ」
そう言ってお金を受け取ると黒服の女性はお店に帰っていった。
◇
次に私は化粧品店へ向かった。そこで店員に私が今化粧を全くしていないと話すと目をむいて驚かれた。
「お客様、今白粉も頬紅も付けていらっしゃらないのですか?」
そして顔を近づけてじっと見つめられる。
――恥ずかしい。やはり私の顔は変なのだろうか……。
初めてだからたくさんお化粧品を買ってみたかったけど、白粉すら必要ないと言われて口紅だけ持たされたのだった。
私はそのまま今度はドレスを買いにドレスメーカーへ向かった。
そして私はここでも一つ恥をかいた。その場でドレスを買って着て行こうと思っていたのだが、布を選んで採寸して縫製して――とドレスができるまでには何日もかかるというのだ。
「今日着るドレスが必要だったのに……」
そう、今日の夜に舞踏会があって私はそこに行きたいのだ。私がしょんぼりしていると、店の女主人が哀れに思ったのか、お店の見本としてトルソーが着ているもので良ければ売ってもよいと言ってくれた。
私は大喜びで買い取ることにした。
そのドレスはくすんだピンク色をしていてちょうど私の新しい爪にもぴったり。試しに着てみるとちょっと――いえ、かなり私には大きかった。
「お嬢さん、あんたウエストが細すぎてこれはかなり詰めないといけないねえ~」
「私今夜の九時までにお城に行かないといけませんの。間に合うかしら?」
「はあ、九時だって? もう日が暮れかかってるっていうのに無茶を言うお嬢さんだよまったく」
「……だめかしら?」
「あたしを誰だと思っていなさるんです? このマリアンヌにかかってできないことなんてありませんよ」
「ありがとう!」
そして大急ぎでマリアンヌはドレスの手直しをしてくれた。おかげで時間に間に合うようにドレスは私の身にぴったりになった。
体のラインに沿うスッキリとした身ごろ。胸部を覆うV字のストマッカーは花の刺繍とリボンの装飾が施されている。そしてウエストから左右に大きく張り出すスカート。肘から先がフリルで広がった優雅なデザインだった。
ただし、胸元だけはどうしても隙間が空いて浮いてしまったので、仕方なく中に詰め物をすることになった。
おかげで私はちょっと大人の女性みたいな体型になった。
――神よ、このくらいのズルはお許しくださいますよう。
◇
すっかり身支度が整って、あとはお城へ行くだけになった。馬車を急がせれば時間に間に合いそうだ。
――マリアンヌのお陰だわ。
彼女はちょっと言葉は乱暴だけれど気持ちは優しくて、完成したドレスを着た私に「とってもお似合いだよ!このお店が始まって以来最高の美女の誕生だ」と朗らかに言って口紅まで直してくれた。
こんな女性がお母様だったらきっと毎日が愉快だわ――とちょっと思ってしまった。
そんなことを思い返しているうちに馬車は無事お城に到着した。
今日は王太子主催の舞踏会。隔月で開催されているけれど、それすら私は初めて知った。
というのも、十五歳以上の貴族の子女宛にはもれなく案内状が出されていたのに、これまでお母様が案内状を私に見せることなく処分していたから。
「お母様は私のような醜い子が舞踏会に行っても笑われるだけだとわかっていて、きっと私のためを思って目に触れないようにしてくださっていたのよね……」
そして今回の案内状は、召使いのエミリーが継母から処分を申し付けられたのをこっそり捨てずにおいてクリスティーヌに渡してくれたのだった。
この舞踏会の日取りが私の誕生日の夜だったので、どうしても捨てられなかったと彼女は言った。
――ありがとうエミリー。あの招待状が捨てられていたら私はここに一生来られなかったかもしれない。
舞踏会はお城の大広間で行われていた。初めて見る舞踏会の会場は壁から天井までフレスコ画と複雑な組木細工で彩られ、大きなシャンデリアで部屋全体が黄金色に輝いて見えた。
そして様々な色のドレスを身にまとった貴族の令嬢や令息たちが花から花へと飛び回る蝶のようにひらひらと舞っていた。
「ああ、これが本物の舞踏会なのね。絵本でしか見たことがなかったけど、本物はその何倍もきらびやかだわ……」
私は何もかもが珍しくてキョロキョロと当たりを見回した。
なんとなく周りからの視線を感じる。ヒソヒソ指をさされているような気も――。
きっと醜い女が無理して装って来たのを笑われているにちがいない。でも、そんなふうに思われても気にならないくらい舞踏会に参加できた喜びが大きかった。
そうして周囲の様子に見惚れてしばらく経つと、急に広間の一部がざわざわとし始めた。
王太子がお見えになったのだ。
王太子は深みのある金髪に緑色の目をした美しい男性だった。今年で二十に歳になるという。この舞踏会は王太子の花嫁探しの一端を担っているとマリアンヌから聞かされた。
そんなわけで、若いご令嬢たちが毎度張り切って着飾って訪れているのだという。ただし、もう数年ほど開催されているにもかかわらず、王太子の御眼鏡に適う相手は見つかっていないのだそうだ。
「まあ、絵に描いたような素敵な王子様だわ! 本物をこの目で見られる日が来るなんてまるで夢のよう」
私は全く知り合いがいないので一人つぶやく。
「ものすごく見目麗しいのに優しそうで、しかも逞しくて包容力も抜群に違いないわ。あんな方の横に並ぶのは相当綺麗なご令嬢でないといけないわね。例えば絵本風に言えば……やはり他所の国の王女様ってところかしら。そうよね。国内のご令嬢を集めてもなかなかお相手が見つからないのも無理ないわ。きっと色んな国から引く手あまた……」
ブツブツと独り言をつづける私。
そして不思議なことにだんだん王太子の顔が大きく見えてきて、私はあることに気づいて驚く。
「あら? ちょっとまって! 緑だと思った瞳は少し――中心に向かってブルーがかっているのね。まるで晴れた日の湖のようだわ。なんて素敵なんでしょう……!」
そうやって口に出したとき、王太子の顔が大きく見えたのは目の前に立っているからだとようやく気がついた。
「!!!」
私は自分のしたことの失礼さに愕然とした。明らかに今の独り言は王太子本人に聞こえている。
気がつくと私と王太子が向かい合っていて、その周りを少し離れた位置から人垣が取り囲むようにしてこちらを見ていた。
私は青ざめ、脚が震えるのを感じた。
「し……失礼いたしました。私のようなものが王太子様に対してとんでもない失言をいたしました。どうか……どうかお許しください」
私は深々とお辞儀をして許しを請うた。
「そなた、名前はなんという」
――なんてこと……ここで名を名乗ったらお父様にご迷惑がかかるわ!
お義母さまにも勝手に舞踏会に来たことがバレてしまう。
「あ、あの……どうか、どうかお許しください。今すぐに目の前から消えてお詫び致します!!」
私はそう言ってもう一度頭を下げると踵を返した。どうやって部屋から外に出たかも覚えていない。
皆の視線が突き刺さって顔がひりひりしたようにすら感じた。
◇
心身ともにボロボロになって私は自宅へ帰った。エミリーの手助けで誰にも見られずに裏口から中に入り、部屋に駆け込んでドレスを脱ぐ。
さっきまでは夢見心地だったのに、今はとてもみじめな気分だった。
髪の毛をいつもどおりになるようにぐしゃぐしゃにかき混ぜてボサボサにしてしまう。モモがあんなに丁寧に整えてくれたのに、それを全て無駄にしてしまったのだ。
私は下はドロワーズに上はコルセットという格好で鏡の前に座った。
涙に濡れた、ぼさぼさ髪の女の子。両手で顔を覆って声を殺して泣いた。
「ううっ……。私ってどうして何もかもうまくいかないの……」
――せっかく勇気を振り絞ったのに、台無しにしてしまった……。
そのまま疲れて気づかぬ間に眠っていた。
朝起きるとコルセットの紐が緩められている。きっとエミリーが夜中に心配して見に来てくれたのだろう。
「協力してくれたエミリーにも合わせる顔が無いわ……」
泣きすぎてきっと瞼は腫れているだろうけど、私の髪型なら顔が見えないから今日はそれがちょうど良かった。
「おはようございます! お嬢様!」
「エミリー……おはよう……」
「さあ、そんなに落ち込まないで朝日を浴びませんと! しっかり朝食もお召し上がりにならないと元気が出ませんよ」
「ありがとう。でも食欲がないの」
「だめですよ、ミルクだけでもお飲みになってくださいな」
「そうね、ミルクだけ頂くわ」
「ところでお嬢様。昨日は泣いてお帰りでしたけど一体何があったんです?」
そう聞かれて私は渋々事の顛末をエミリーに話した。
全て聞き終えるとエミリーは難しい顔をする。
「左様でございましたか。クリスティーヌ様、エミリーはそれでも舞踏会に行かれて良かったと思いますわ」
「え……?」
「だって昨日お帰りになられたときのお嬢様は、とってもお綺麗でしたよ。私は一瞬イレーヌ様が現れたのかと思って心臓がドキドキしました」
「そうなの? 私はお母様のお顔をもう覚えていないのよ」
「瓜二つでしたよ! イレーヌ様はそれはもうお美しい方で街でも評判でした」
エミリーはしんみりした声で言った。
「クリスティーヌ様。昨日はおつらい思いをされたと思いますが、エミリーはまた昔のようにクリスティーヌ様の笑顔を見とうございます。こんなに髪の毛を乱されなくても良いように……」
「ありがとうエミリー。昨日は最後は台無しにしてしまったけど、途中までは楽しくて仕方なかったわ。またあんなふうにいつか顔を上げて外を歩いてみたい」
「クリスティーヌ様……。おかわいそうに」
それからしばらくはいつもどおりに日々が過ぎていった。
そしてあの舞踏会の日から二週間ほど過ぎたある日のこと。クリスティーヌの家にお城から使いの者がやってきた。
お義母さまと一緒に昼食を摂っている最中で、私は心臓が止まるかと思うくらい驚いた。
――もうお仕舞いだ……あの日の不届き者がこの家の者だとバレたのだ……。
どんな叱責を受けるかわからない。私はガタガタと身体が震えるのを止められなかった。
「なんですって? 二週間前の舞踏会に出た娘がここにいるですって? まあ、ホホホ! ご冗談を。うちにはそのような娘はおりません」
「いや、しかしこの家にも招待状が届いているはずだ。記録ではそうなっている」
「ええ、確かに招待状は頂きましたけれどもね。うちの娘はそのような場に出る権利はございませんので辞退しておりますのよ」
「そうか、それはこちらの手違いだったようだ。手間をかけたな」
そう言ってお城からの使者は去っていった。
私はどうしても気になって少し迷ったが使者の後を追って外まで出て話しかけた。
「お待ち下さい!」
「む? なんだ」
「あの、私ここの使用人ですが……」
咄嗟に身分を偽った。顔を覆い尽くすような乱れた髪に、黒いワンピース。
きっと使用人にしか見えないだろう。
「ああ、どうした」
「その……。お探しのお嬢様を知っているかもしれません」
「なに! それは本当か。詳しく聞かせてみよ」
「あの、その前にどういったご用件かうかがってもよろしいですか?」
「先日の舞踏会で王太子があるご令嬢とお話をされた」
あのときのことだ――と私の心臓が早鐘を打つ。
「それで、その……お嬢様を罰するということでしょうか?」
「罰する? 滅多なことを言うもんじゃない。王太子様はそのご令嬢のことをいたくお気に入りになったのだ」
「ええっ!?」
「だが、そのご令嬢が名も名乗らずに帰ってしまったので探していてな。街の中で聞いて回ったところ、美容室とドレスメーカーでそれらしき人物についての手がかりが見つかった」
――なんてこと。王太子がそんなことまでして私のことを探していた??
だけど、怒っているわけではないの?
「名前がクリスティーヌだとわかったから、この辺の貴族でクリスティーヌという名前の娘がいる家をしらみ潰しに回り、ここが最後の一軒だったのだ」
「そういうことでしたら、私がクリスティーヌ様にお取次ぎします。でも今はここにいらっしゃらないのです」
「そうか。ではこの手紙を渡してもらえぬか?」
使者は懐から手紙を取り出した。
「あ……。わ、わかりましたわ!」
「ああ、ようやく見つかった! 感謝する。しかしなぜここの奥方は娘のことを隠そうとしたのだ?」
「そ、それは……。訳あってクリスティーヌお嬢様はあの日奥様に内緒でお出掛けになられていたのです」
「ははあ、なるほど。妙齢の令嬢だ、そんなこともあろう。それではその手紙しかと届けてくれ」
「かしこまりました」
そして使者は帰っていった。私の手元には王太子からの手紙が残された。
◇
王太子からの手紙はこうだった。
”親愛なる黄金色の髪の乙女へ
舞踏会で君との出会いに運命を感じた。
できることならばもう一度会いたい。
◯月◯日の午後二時城にて茶会の用意をして待つ。
王太子 アルフォンス・ド・ロワリエ”
これを読んだ私の気持ちは千地に乱れた。
――嬉しい! だけど行けるわけがない。
絶対に行きたい! でもお義母様に許されない。
こんな機会は一生来ないわ! けれど私なんかがお城のお茶会に行くなんておこがましい。
自室でこの手紙を胸に抱えたまま私はベッドの上で天井を睨んでいた。気づくと窓から差す日は傾いていた。
私はベッドからむくりと起き上がり、三通の手紙をしたためた。
一つは王太子への返事。
もう一つは美容師モモ宛の手紙。
そして最後はお針子のマリアンヌへの手紙だ。
そして翌朝、街に用事を足しに行くエミリーに頼んで手紙を届けてもらった。
賽は投げられたのだ。
舞踏会に黙って行って、散々な目にあって帰ってきた私だったけれど、王太子はお怒りではないという。
それどころか私と会いたいと――?
お茶会ってどういう話をしたらいいのかしら。
「絵本には……そこまで書いていないわ!」
どの絵本を読み返しても王子様とお姫様はお互い一目惚れして、キスをして、結婚する。
それしか書かれていない。
――一体どんな話をして、恋するふたりは盛り上がったのかしら?
私はこれまで友達もいなかったし、日がな一日家にいるしかなかった。趣味らしい趣味といえば、本を読むことくらい。
「はぁ……。お茶会に行くって返事してしまったけれど大丈夫かしら」
それに、会話の内容についてはともかく、そもそも時間に間に合うように行けるかが問題だ。
またお義母様の目を盗んで出ていかなければならない。しかも、お城に二時に間に合うようにとなるとかなり早い時間に出て、髪の毛と服装をなんとかしなければ――。
ドレスは前回のものは舞踏会用で派手すぎて日中の茶会にはふさわしくない。今、マリアンヌにそれ相応のものを大急ぎで用意してもらっているところだ。
髪の毛は前回手触りを良くする溶液で一度綺麗にしてもらったから、ちゃんと櫛を通せばすぐに結うことができるはずだ。家でもこっそり夜に部屋で寝る前だけ髪をとかして毛の流れを整えている。
モモに分けて貰った香油も数日おきに毛先になじませて保湿までしているのだ。
――女の子ってやることがたくさんあって大変だけど、きれいになるために努力するのって楽しいものね。
不安ももちろんあったけれど、私は当日までをウキウキしながら過ごした。
◇
そして当日、運の良いことに継母は持病の薬をもらいに行くといって午前中から出掛けていった。本当はまた具合が悪いと言って部屋にこもるつもりだったが、その手間が省けた。
とはいえ、帰ってきたときに出迎えられないためそのときの対応はエミリーに任せてあった。
私は深呼吸すると、裏口から馬車に乗った。
また中央広場の噴水近くで降り、そこから今日は番地を見ずに迷わずモモのお店に到着した。
「お待ちしておりました、クリスティーヌ様」
今日も巻き毛の黒服美女が迎えてくれた。
「こんにちは。今日もよろしくお願いね」
「はい、ではこちらへ」
そしてまた奥の鏡のある席に座る。
ほどなくしてモモが現れた。相変わらず明るい表情で挨拶してくれる。
「クリスティーヌ様こんにちは! また来ていただけて嬉しいです!」
「こんにちは、モモ。今日も頼むわね」
「お任せ下さいませ! 聞きましたよ。王太子直々にお茶会に招待してくださったとか」
「そうなの。なんだか夢を見ているようで…」
「やっぱり私が申し上げたとおりでしたでしょう? クリスティーヌ様のお美しさはこの国の王族お墨付きということですわね!」
「いやね、からかわないでちょうだい。さあ、このぼさぼさ頭をどうにか見られるようにお願いするわね」
「はい! ではまたほぐして行きますね~。ケープを失礼します」
私にケープをかけると、モモはまた手慣れた仕草で私の鳥の巣のような髪の毛を解した。一旦綺麗になでつけて真っ直ぐツヤツヤにし、熱した棒状のコテでくるくると巻いて波打たせる。
そして器用にピンをいくつも使って、どんどん髪をねじりあげ、頭頂部にボリュームを持たせた今どきのスタイルに仕上げてくれた。
前回は全てアップにしてくれたが、今回はお茶会で昼間なので、ハーフアップのスタイルだ。最後に白い花のコサージュを付けてくれた。
「ドレスのお色がわからなかったので、白いお花にいたしました」
「ありがとう! 実は私もドレスが何色なのかまだ知らないのよ」
「おまかせにされてるのですか。よほど信頼の置けるドレスメーカーをご存じですのね」
「ええ、マリアンヌって知ってるかしら? ここからそう遠くないドレスメーカーの――」
「ああ! マリアンヌおばさまのところでしたか。それでしたら納得ですわ」
どうやらマリアンヌはこの辺りで評判のお針子らしい。モモも親しいようで、私は勝手に嬉しくなるのだった。
ここ最近、新しい友人ができて幸せな気持ちでいっぱいだ。
髪型が整ったので、今度はドレスを合わせてもらう番だ。私はモモにお礼を言ってお店を後にした。
◇
私はマリアンヌのお店に来ていた。そして私のためにあつらえられたドレスを見て感嘆のため息を漏らす。
「なんて素敵なの……!」
「さあさあ、ため息ついてないでちゃっちゃと着てみておくれ! 直しが必要かもしれないからね」
「ええ、わかったわ」
そして私はドレスを着てみた。色はミントブルー。舞踏会の時のドレスは左右に大きく広がるタイプだったけど、今回はスカートの後ろ――腰の部分にだけボリュームがあるバッスルスタイルだ。腰当てで膨らませてあり、後ろから見たときにドレープが美しい。全体にフリルをたっぷりと使ってあるデザインだった。
スカートと同じ生地でリボンも作ってくれていたので、モモが付けてくれたお花と共にリボンも結んでもらう。
「ふむ、大体ぴったりだね! やっぱりウエストがちょっと大きいからそこだけ直してあげるよ。すぐにできるからそこで待っていてちょうだい」
マリアンヌは針でさっとサイズの目印をつけると私にドレスを脱ぐよう言った。ドレスを脱いだ私は椅子に座ってマリアンヌの作業を見守る。
「しかしびっくりしましたよぉ。王太子の使いだって人が突然現れてねえ」
マリアンヌは針を動かしながら言う。
「先日の舞踏会に来ていた貴族のご令嬢を探しているから、心当たりがあれば教えろって言われてね。ドレスの色や形を聞いてああ、あんたのことだなってわたしゃピンときたわけさ。それで名前を教えちまったんだけど」
「そういうことだったのね。私、実は王太子に面と向かって名前を聞かれて恐ろしくなって名乗らずに逃げてしまったのよ……」
「なんだって、王太子に名前を聞かれて答えずに逃げただって!? あっははははは! そりゃ傑作だね。街中のご令嬢が王太子に話しかけられるのを今か今かと心待ちにしているっていうのにさ。王太子とお近づきになるのが目当てでなけりゃ、クリスティーヌ様は一体なんで舞踏会なんかにおいでになったんだい?」
「それは――私、舞踏会というものに出たことがなかったからちょっとだけ様子を見てみたかったのよ。まさか王太子様とお話しするようなことは想像もしていなくて……」
「まあまあ、それは欲のないことで。だけど王太子様もわざわざこうやって使いを出してまであんたのことをお探しになるとは、相当お熱と見たね。だってこれまで何度舞踏会を開いてもお眼鏡に適う相手がいなかったお人だからね」
「お熱ですって? そういうことではないと思うわ――。私、失礼なことを申し上げてしまったし。きちんと謝らないと」
「失礼なこと?」
「ええ、私、王太子様のことを遠目に見ていてあまりにも素敵だったから独り言を……。目が綺麗だとかなんだとか気づかないうちに声に出していて、ハッとしたときには王太子様が目の前にいらして……」
「あ~らあらあら。それはまあ。お互い一目惚れっていうのかねぇ」
「からかうのはやめて頂戴、マリアンヌ。とても恥ずかしかったのよ」
「ふふふ、このマリアンヌは若いお二人の行く末を影から見守らせてもらうとしましょうかね。さーて! ドレスが仕上がりましたよお嬢様。」
「ありがとう!」
そして私は身体にぴったりになったドレス――今回は詰め物をしなくても胸元もぴったりだ――を着てお城へと向かったのだった。
馬車でお城に着くと、年配の侍従が出迎えて私を王太子の元へ案内してくれた。連れてこられた先は大層立派なオランジュリーだった。オランジュリーとはガラス張りの温室のことで、名前の通りオレンジやレモンなど柑橘系の植物を育てている。冬でも温かく保たれ、植物はこの中で越冬するのだ。
王宮のオランジュリーではオレンジの他に珍しい東方の植物を育てていることでも有名だった。
「なんて素晴らしい――本で読んだことはあったけれどまさか本物を見ることができるなんて! 見たことがない植物がたくさんあるわ……」
キョロキョロ見回しながら歩いていると、その奥にあるサロンスペースにお茶の支度ができていた。
こんなに素敵な空間でお茶会ができるなんて、夢みたいだわ!
◇
豪華なティーセットが並ぶ席に着いてしばらく待っていると、王太子が侍従と共に現れた。私は立ち上がって背筋を伸ばし、片足を後ろに引きカーテシーで挨拶をする。
「本日はお招きいただき光栄に存じます」
「よく来てくれたな」
緊張して体がカチコチだったけれど、何とかご挨拶は噛まずに言えた。
「さあ、掛けて。ジョゼフ、始めてくれ」
侍従があらかじめ温めてあった二人のカップにお茶を注ぐ。私は辺りを見回した。
「……あの、王太子様。他のお客様方は?」
「他の客? いいや、今日はそなた以外呼んでいない。問題があるか?」
「え! い、いえ。めっそうもございませんわ」
私は引きつった顔で微笑みを浮かべた。
――問題大ありです……。まさか二人きりだなんて! 会話がもつか、本当に心配になってきたわ。
ティーカップを見ると東方の見慣れない花の絵が描かれている。王太子に尋ねると『桃』という実のなる花だそうだ。
もしかして私の友人モモの国にもこの花が咲いているのだろうか?
この国では現在、東の果てにある見たこともない国からもたらされる芸術や文化を取り入れることが流行していた。特に、陶磁器のデザインに関して東方の繊細な絵付けは王侯貴族を虜にし、コレクションする者が後を絶たなかった。
私の家にも、父が人付き合いの話の種になると言って購入したいくつかの陶器や置物が飾ってある。
「このカップの絵柄はとてもエキゾチックで、このオランジェリーの雰囲気にぴったりですわね」
私は周りの様々な植物とカップを見比べて嘆息した。
「ああ、私も東方の美しい意匠にはいつも心を動かされる」
「私、モモという名前の東方から来た黒い髪の女性と最近お友達になりましたの」
「なんだって、それは興味深いね」
「とても素敵な女性ですのよ」
そうして私がモモの話をすると、王太子は今度私と一緒にモモもお城にお茶をしに来るようにと言われた。王太子はとても東方に興味がおありのようだった。
「さあ、そろそろこの前の舞踏会で君が名乗らず逃げた理由を聞かせてもらおうかな」
「あっ!」
そうだった。そのことを謝りたかったのに、場の雰囲気に流されてすっかり失念していた。しばらく話して慣れてきたと思ったところにこのような質問をされ、また頬が熱くなる。
「私ったら……。今日は王太子様にそのことを謝らないとと思っていましたの。失礼なことをして大変申し訳ございませんでした」
私はすっかり萎縮してしまう。
「別に失礼なことなどないさ。ただ、名も名乗らずに消えたのには驚いたよ」
「本当になんとお詫びしてよいか。私、名前を名乗ったら、きっと父に迷惑がかかるんじゃないかって……。そう思ったら怖くなって逃げてしまいましたの」
「なんとも親思いなお嬢さんだな」
「いいえ、そんなことは……」
私はうつむいた。
「あのときはそなたの名前を聞いて話をしてみたかったのだが、逃げられて悲しかったよ」
王太子は冗談めかして言うと気さくに笑った。
「申し訳ございません」
「それで、クリスティーヌ? 私のことはアルと呼んでかまわない。私もクリスティーヌと呼ばせてもらおう」
「ええっ!? そのようにお呼びするなど恐れ多いことでございます!」
「気にせずともよい。堅苦しいのは苦手なんだ」
「ですが……。それではアルフォンス様、と呼ばせてくださいませ」
「ふむ、まあ最初はそれでよいか」
急に胸がドキドキしてきた。
――王太子様、いきなり距離感が近い……! 王族の方を愛称で呼ぶなんて、罰が当たるわ。
「ところでクリスティーヌはいつも何をして過ごしている? 趣味はなんだ?」
「いつも何を……。趣味、でございますか……?」
――どうしよう。普通の貴族の娘って何をしているのかしら。友達もいないからわからないわ。変に嘘をついてもあとからばれてしまうわよね。
「私――恥ずかしながらいつもはお掃除をしたり、庭の手入れをしていますわ」
「なに? 掃除や庭の手入れを自分でするのか?」
「ええ、そうです」
「クリスティーヌの家に召使いはいないのか?」
「いえ、おりますわ。でも、することがないので……。自分でもやっていますの」
「変わった娘だな」
王太子は目を丸くして首を傾げている。
「あとは本を読んで過ごしています」
「本か。一体何を読んでいる? ご令嬢ならば今流行りの恋愛ものだろう?」
アルフォンス王子は肘をついてこちらをあの美しい瞳で見つめた。
「いいえ、そういうのはあまり得意じゃありません。父の書斎にあるものばかりですので、最近読んだのは地動説と天動説についての本ですわ。あとは地誌学の本も面白く読みました」
「何!? クリスティーヌは若い身でそんな本を読めるのか?」
「あの、もちろん全て理解できるというわけではありませんのよ」
私は手のひらを彼に向けて振った。
「いや、これは驚いたな。私もそういう本を読むのは好きなんだ。だが、女性にそういう話をしてもいつも全く通じないのだ。恋愛小説の話ばかりされてどうも噛み合わないなと思っていたが――君のような女性がいるとは!」
そう言って王太子は私の手を取った。
「やはり私の直感に間違いはなかった。クリスティーヌ。どうか私と結婚してほしい」
王太子の言葉に耳を疑う。
「え……? い、いきなりなんの冗談ですの??」
「正直、両親の勧めてくる婚約者候補の令嬢たちには毎回うんざりしていたんだ。見た目は美しいが、考えていることといったら宝石や、恋愛小説や、演劇や、くだらない噂のことばかりでね。少し話しただけで頭痛がしてくる始末さ。でも君といるととても楽しい。それに心が落ち着くんだ」
「ですが私達、先日初めてお話ししたばかりですのよ?」
――いくらなんでも一国の王太子がこんな私と少し話しただけで結婚を決めるだなんて何かの間違いよ。
「いや、私にはわかる! 君とならきっとうまくいく」
――その自信はどこから……? 王太子様って結構思い込みの激しい方なのかしら。
たしかに絵本の世界では王子様はお姫様にいきなりプロポーズしてすぐに結婚するけれど――。
「アルフォンス様。お気持ちは嬉しいのですが、あまりに急なことですので、もっとよくお考え下さいませ。第一、私のような者が王太子様と婚約など身分不相応です。もっとふさわしい方がいらっしゃるかと」
「ああ、クリスティーヌ。何が問題だ? お願いだから断るなんて言わないでくれ」
王太子はあの、美しい湖のようなキラキラした瞳で見つめてくる。私はまた間近でこの瞳を見ることができてこの上ない歓びを感じる。
――感じるけれど、私なんかが王太子と結婚?……絶対無理よ。お母様がなんと言うか。絶対お許しになるはずがないわ。
「ごめんなさいアルフォンス様。やっぱりいけませんわ」
「なぜなんだ? クリスティーヌ。私のことが嫌いなのか?」
「いいえ、とんでもありませんわ。アルフォンス様はとても素敵な方です。私も一緒にお話ししていてとても心が弾みますわ。でも……。どうしてもダメなのです」
「そんな! わけを話してくれ。どんなことでも私がなんとかするから」
私は力無く首を振る。
「いくら王太子様でも……」
――いえ、そうかしら? 私は以前から、結婚して家を出ればお母様にとっても好都合だと考えていたんじゃない?
そうよ。家を出る。それよ! 十七歳になったときに心に決めたじゃない。もう、なんでも一人でやってみるんだって。
「アルフォンス様。そこまでおっしゃるなら私の複雑な身の上話を聞いていただけますか?」
「もちろんだ。なんだって聞くよ。君は一体何を抱えているんだ?」
「これを聞いて私に幻滅したら、そのときは遠慮なく先程の結婚の話はお忘れになって頂いて構いませんので」
「いや、何を聞いても私の気持ちはきっと変わらないよ」
――残念ながらこの世に変わらぬものなど無いのですわ、王太子様。
そう思ったが口には出さなかった。
私は意を決して身の上話を始めた。こんなこと誰にも話したことはなかったのに――。会ったばかりの、しかも王太子に話すことになるとは。
「実は私の本当の母は早くに亡くなってしまって、私はその後父が再婚した継母に育てられたのです。そして……」
かなり長くなったが、私は継母に育てられたこと。その継母に疎まれ、髪の毛で顔を隠すよう言われてきたこと。
外に出して貰えず、友達もいなかったこと。そして庭の花たちや、書斎の本が友人代わりだったこと。
いつもはごく質素な服を着ていて、他の貴族の令嬢のようなおしゃれはしたことがなかったこと。十七歳になって初めて勇気を出してお洒落をして舞踏会に参列したのだというところまでを話した。
「ですから、今日もお母様には内緒でこっそり家を抜け出してきたんですの」
「なんという……。なんということだ。おお、クリスティーヌ……! なんと可哀想に。では私の使いが家に押しかけたときは君に迷惑をかけたのだな」
「いいえ、迷惑だなんて思っていませんわ。お母様が舞踏会に行くような娘はいないって突っぱねてましたし。私もびっくりしましたけれど、こうしてお茶に誘っていただいてとても嬉しかったのです」
「そうだったのか。しかし、君の継母はいったいなぜそんなに君に辛く当たるのだ?」
「わかりませんわ……」
「クリスティーヌ。やはり私達は結婚すべきだ。君のことをそんな家に置いておくことはでない!」
「え……。私に幻滅しないでくださるのですか?」
「幻滅などとんでもない。それを聞いてもっと君を大切にしたいという思いがこみ上げている」
「まぁ、アルフォンス様」
「そして、君の継母に対する怒りで私は震えている……!」
アルフォンス王子は澄み切った瞳を輝かせ、眉間に皺を寄せて険しい表情をしている。
「そんな、お母様は悪い人ではないのです。ただ、ちょっと神経痛を患っているものですからイライラするんだと思いますわ」
「そんなことは言い訳にならないよ。こんなひどい仕打ちを許すことはできない。さあ、クリスティーヌ。私のプロポーズに頷いてくれ。ただそれだけでいいんだ。君を必ず幸せにするから」
「アルフォンス様……。私、なんと言ったらよいのか」
「言葉は不要だ。私と結婚してくれるね?」
私はただ呆然としながらも――静かに頷いた。その仕草を見て相好を崩した王太子が私の手を両手で包み込む。
「ありがとう。それではこれからのことを考えなければ」
「あ! いやだ、もうこんな時間!? すぐに帰らないとお母様に気づかれてしまいますわ」
「それはいけない。じゃあまた追って知らせをやるから。もちろん君の継母に気づかれない方法をとるので安心してくれ」
「わかりましたわ。それでは、慌ただしくて申し訳ありませんが失礼しますわ。今日はお招きいただいて……」
「クリスティーヌ。そんな他人行儀な口上は不要だ。さあ、行きなさい」
そう言って王太子は侍従に案内するように言いつけた。私は王太子が用意してくれた馬車で家まで帰った。
◇
屋敷に帰るとすぐにドレスを脱いで、いつもの灰色のワンピースに袖を通した。色鮮やかなドレスや靴は、母に見つからないようにクローゼットの奥の奥にしまい込む。髪の毛も手でぐしゃぐしゃに乱し、顔を覆った。
そして私はベッドに倒れ込む。天井を見つめて今日のお茶会のことを思い返してみた。
――夢なら覚めないで欲しい。これは現実なのよね……?
私が、王太子に求愛されたですって? こんなこと誰に言っても信じないわ!
私だって信じられないんだもの。まるで天に登るような心地――。
私は先程まで会っていた素敵な男性を思って口に出して呼んでみた。
「アルフォンス様……」
なんだか胸が温かくなるような、ほっと心が安らぐような感じがした。この私が、王太子様を名前でお呼びする日が来るなんて――。
しかも私の境遇を慮って、これから色々と手配をしてくれるとおっしゃった。本当にそんなことができるのかしら?
――きっとできるわ。だってアルフォンス様はこの国の王太子なのですもの!
私は起き上がった。
これからはこの家を離れて、自分の生き方を見つけよう。今まで行けなかった場所へ行ったり、新しい友人をつくりたい。顔を上げて、胸を張って生きていきたい。
――でもまだ、今はこのまましばらくお母様には内緒で準備をするのよ。
私は乱れた髪に覆われた顔で頷いた。そして、お母様との夕食のために部屋を出た。
「クリスティーヌ。今日も具合が悪かったそうね」
「え、ええ。お母様、そうですの。ちょっとお腹が痛くて」
「あなた最近そういうことが多いわね? まさか何か隠し事なんてしていないわよね?」
「そんな、隠し事なんて何もございませんわ」
「そう」
そんなふうに言われてドキッとした。私の体調を心配しているわけでもなさそうだ。
――お母様は何かに勘付いているのかしら? いままでより一層、家の中での行動に気をつけなければいけないわ。そして一刻も早くここを出なければ。
王太子のお茶会から一週間が過ぎた。この間に、王太子から二度手紙が届けられた。他の誰にも見つからないように、エミリーに直接渡してもらうよう予め伝えておいたのだ。
エミリーには帰ってからすぐに事情を話してあった。
「いつか素敵な旦那さまがクリスティーヌお嬢様を迎えにきてくれないかと願っていましたが、まさかお相手が王太子様とは」
彼女はそう言って目をうるませ喜んでくれた。
さて、王太子の考えによると、私が家を出る方法は単純明快だ。
まず私は事前に必要な荷物を揃えてひとまとめにしておく。どうせ持ち物などほとんど無いからこれはすぐに終わる。
そして王太子側の準備が整い次第、王太子から父宛に書状が送られることになっている。それには、王太子が我が家にお見えになり両親と話をしたいという旨が記されている。
両親はきっと驚くだろう。突然王太子様が直々に会いに来て、娘を連れて行くと言うのだ。
そのまま私は、王宮の空き部屋に居候をさせてもらえることになっている。名目上は『友人』ということにしてくれるそうだ。
追って国王にも紹介する――と王太子様の手紙に書かれていた。私にとっては陛下にお目通りすることが何よりも心配だった。
それから更に一週間が経ったある日のこと。クリスティーヌの住む屋敷は驚愕の声と共にざわめいていた。
王太子からの書面が届いたのだ。
「どうしたのですか? お母様」
「ああ、クリスティーヌ。あなたには関係の無いことよ」
「おい、この日はクリスティーヌの姿が目に触れぬようにしないといけないぞ。こんなみすぼらしい姿で王太子の前に出すわけにはいかん」
「ええ、そうですわね。クリスティーヌ。明後日の午後にどういうわけか、王太子が私達夫婦に話があってお見えになると突然知らせが入ったの。あなたは、くれぐれも王太子の目に触れないように部屋に引っ込んでなさいね」
「わかりましたわ、お父様、お母様」
これはちょうどよい。部屋にこもっているふりをして、せめて髪の毛だけでも整えてしまおう。
そしてとうとうその日がやって来た。
◇
当日、約束の時間に王太子が数名の侍従を連れて屋敷にやってきた。王太子の乗った王室専用の馬車が遠くに見えると、私は部屋に籠もっているように言われ追い払われた。
私はもちろんいつもの黒い地味なワンピース姿だったが、父と母は精一杯豪奢な衣服に身を包んで王太子を迎えた。
屋敷の中には普段物置にしまわれていた置物が飾られている。私が午前中に継母に申し付けられて庭から切り取った花も生けられていた。
「これはこれは、このような狭苦しいところへようこそおいでくださいました王太子殿下」
「突然の訪問なのに対応ご苦労だったな」
「お気遣いいたみいります。何やらお話しがあるとか。早速どうぞこちらへ……みすぼらしい屋敷でお恥ずかしいですが」
父は日頃から人付き合いの多い人だったから、口がうまくてペラペラと喋っている。私はそれを物陰からこっそりと見ていた。
「さあ、これからどうなるのかしら……?」
両親と王太子が応接間に入ったのを見届けて、私は一度部屋に戻り髪型を整えた。そして以前買った口紅を塗る。ドレスを着たときには遠く及ばないものの、幸せで健康な普通の若い娘に見えた。
「この部屋ともお別れね……」
生まれてから十七年間過ごした自室を眺める。
質素な木の椅子。古ぼけたベッド。シーツはところどころほころびていて、何度も繕って使っている。洋服に限らず、女の子が喜ぶような物は私には一切与えられなかった。嫌なことばかりだった――それでもここは我が家だった。
なんとなくしんみりした気持ちになる。
そうやって感傷に浸っていると、部屋のドアをノックする音がした。
「お嬢様。エミリーでございます。王太子様がお呼びです!」
私は意を決して立ち上がり、唇を引き結んだ。
「わかりました。エミリー、私……」
「クリスティーヌ様。大丈夫です。全てうまくいきますわ! どうか、神のご加護を」
「ありがとう」
私は階段を降り、王太子が待つ応接室に入った。
室内は異様な空気に包まれ、誰もが無言だった。
「ああ、クリスティーヌ。君はこちらへ来たまえ」
私が入室したのを見て王太子は立ち上がって手招きした。指先が痺れそうなほど緊張している。でも、王太子の目は優しかった。
――きっと大丈夫。
「王太子様、ご機嫌よう」
そう言って膝を折って挨拶した。息の詰まるような緊張感の中、私は王太子の横に並んだ。
父と母は私の方を見て目を見張っている。
「クリスティーヌ……? どういうことなの、あなた……」
「いったいこれはどうなっているんだ? 説明しなさいクリスティーヌ!」
二人は私を責めるような目で見てくる。そこで王太子が口を開いた。
「私が全て説明しよう、バルビエ伯爵。私はクリスティーヌの友人として、そなた達のしてきたことを全て聞いた。そなた達は今日は随分と着飾っているが、クリスティーヌだけはごく質素な洋服を着ているな?」
「そ、それは……。王太子様の御前に出るのは私達夫婦だけだと思っておりましたゆえ……」
父は焦って弁明する。
「ほう。それにしても、貴族の娘が日頃から着るような服では無いように見えるが? これは召使いの着る服だ。ちがうか?」
「ええ、その、たしかにおっしゃる通りですわ。王太子様。でも、クリスティーヌは堅実な子でして。華美な服装は好まず地味な服装を自ら選んでいますのよ」
継母はそう答えた。――もちろん真っ赤な嘘だ。私は聞いていて悲しくなってくる。
――私はいつだってもっと華やかなドレスを着たいと思っていたのに……!
何も言い返せない私の代わりに王太子が続けた。
「普段は髪の毛で顔を隠すように言われていたと聞いている。それはどうだ?」
「えっ! そ、それは……。そんな、滅相もございません。何かの間違いですわ。そんなこと私は言いませんわ。ねえ、クリスティーヌ?」
そう聞かれて私は返答にに窮した。ここで否定すれば母に激怒されるだろう。
――でも、私は前に進まないといけない……!
「いいえ、お母様。それは嘘ですわ。私はこんな服を着たいと思ったこともありませんし、髪の毛はいつも顔を隠すようにお母様に言われていました」
「クリスティーヌ!なんてことを言うの! お前はここまで育ててもらった恩を忘れたの!?」
継母は血相を変えて叫んだ。
「大体、王太子様にこのような告げ口をするなど、伯爵家の恥だとなぜわからないのです! え!? 何かお言い!」
いきなり怒鳴りつけられて私は咄嗟に言い返すことができなかった。
「ほうら、何も言い返せないじゃないの。王太子様。今のは全部嘘ですのよ。この子ったら虚言癖がありますの。それに――」
怒鳴っていたと思ったら、急に継母は王太子に対して猫なで声で媚び始める。
それを聞いた王太子は低い声で継母の発言を遮った。
「もうよい、たくさんだ」
継母はビクッとして顔を引きつらせた。
「違うんです、王太子様! 本当に違うんです。私はそのようなことは一度も……」
「エミリーを呼んでこい」
王太子は侍従に申し付ける。すると、すぐにエミリーがやってきた。そして今王太子が指摘した私の服装や髪型について日頃からどうだったかを尋ねる。
「クリスティーヌがいつも召使いと同じような服を着せられ、髪の毛で顔を覆うように言われていたのは本当か?」
「はい、まちがいありません。今の奥様がいらしてから、これまでずっとでございます」
エミリーはきっぱりと言い切った。継母は金切り声を上げて立ち上がろうとする。
「エミリー!!」
それを隣りに座っていた父が押し止めた。
「それを指示したのは母親のニナ・バルビエで間違いないか?」
「はい。そのとおりでございます」
「エミリー! お前、よくも! こんなことをして、ただで済むと思っているの!?」
父の制止を振り切らんばかりに継母は憤っていた。
「どうやらクリスティーヌの言い分は本当のようだな。バルビエ伯爵。そなたも異論はないな?」
「あ、は、はい……。申し開きのしようもありません……!」
家庭の事情をよく知りもしない父はだらだらと汗を流すばかり。
「それでは、沙汰を言い渡す。クロード・バルビエ!」
「はい!」
父が名前を呼ばれてビクッと首をすくめる。
「バルビエ家からは本日を持って爵位を剥奪する! 追って書面にて通達するので覚悟しておけ」
父の顔がみるみる蒼白になり、これ以上ないくらいに目が見開かれた。愕然とした表情で彼は王太子に許しを乞う。
「そ…そんな! 私は何もしておりません。この愚妻めが勝手にしたことでございます。謝らせますから、どうか爵位剥奪だけは何卒お許しを……っ」
「ならぬ。これは国王に既に話が通っている決定事項だ!」
「――は、はいぃ……」
父は聞いたこともないような情けない声で返事をするとがっくりうなだれた。汗なのか涙なのかわからないもので顔がびしょ濡れだった。こうして両親は自分たちの行いに対する報いを受けた――そう思った時、継母がまた暴れだした。
「この疫病神めぇ! お前のような娘がいるから! バルビエ家がこのようなことにっ!」
口汚く罵りながら私めがけて飛びかかってこようとするお母様に私はびっくりして硬直してしまう。しかし王太子は冷静で、「誰か、その者を取り押さえよ」と王太子が言うと、侍従と我が家の下男が継母の肩を押さえつけた。
「バルビエ夫人、よく聞け。親というものは自分の娘の幸せを願い、健やかに育てることが一番の目的ではないのか? 自分の都合で娘の人生を台無しにして、胸が痛まないのか? このような心根の優しく聡明な女性をいじめぬいた罪、償ってもらうぞ。この屋敷は爵位剥奪後国が差し押さえる!」
「な……! なんと!?」
父が真っ青な顔でぶるぶる震えながら王太子に言い募る。
「そんな、それでは私達家族は路頭に迷ってしまいます。一体どうしたら良いというのです……? あまりにも横暴がすぎます!」
「家族か、ふむ。その家族とやらにクリスティーヌも含まれるのか?」
「はい、もちろんでございます」
「お前は父親としてクリスティーヌの幸せを願ったことがあるか?」
父の視線が泳ぐ。
「もちろん……常にそう願っております」
「では、親がどうなろうと、せめて子供だけでも安らかで平和な暮らしをしてほしいと望むか?」
「……ええ、もちろんそう望みますとも。しかし、どういう意味です?」
父は首をひねった。そこへ王太子が畳み掛けるように答えた。
「私はクリスティーヌと婚約する。今日をもってクリスティーヌの身は私が責任を持って預からせてもらおう」
「な、なんですと!? そんな……婚約? まさか……!」
父は汗だくになりながら必死で状況を理解しようとしていた。そして継母はそれを聞いてとうとう気が触れたように笑いだした。
「あはは……あははは! なぁにそんなこと、アハハハ! クリスティーヌが王太子と婚約ぅ!? そんな馬鹿な。そんなことがあるわけないじゃないっ! あははは!」
「お、お母様……?」
母の豹変ぶりにおびえて震えていると、王太子が私の手をそっと握ってくれた。
「このあばずれ女はいつの間に王太子様をたぶらかしたっていうのよ? アハハハ! ああおかしい。だからお前は顔を隠しておけと何度も何度も言ったのよ!」
――お母様…なんてこと……。
母のやり方は厳しかったし、若い娘にとってはつらいものだった。それでも、その奥には彼女なりの教育理念があるのだと思ってずっと耐えてきた。
だけどそうではなかったのか。
――彼女は、私のことをあばずれだなんて思っていたの……?
父は憔悴しきった顔で王太子に尋ねた。
「それで……、クリスティーヌはお城に行くとして、私達夫婦はこの先屋敷を失ってどうしたらよいのでしょう」
「そのことなら安心しろ、そなたたち夫婦の行き先はもう決まっている。北の山の麓にある教会に住み込んで働いてもらう」
「き、教会……ですか……?」
「そうだ。お前たちはあまりにも自分勝手で自分の子どもを不幸にしかけた。その罪を神の前で懺悔して暮らすのだ。清貧と神への服従の心でせいぜい許しを請うことだな」
「教会……懺悔……。神に懺悔……。ああ、教会ですか。ええ、そうです、そうですね。全くだ……」
父はぶつぶつ言いながら呆然と床にへたり込んでしまった。
◇
あの日、父と母に別れを告げて家を出た私は王太子と共に馬車でお城へ向かった。私の家からは、エミリーを侍女として連れて行くことを許された。
新しい住まいでの生活に不安はあったが、昔馴染みのエミリーがいれば心強い。
馬車に揺られながら、生家が遠ざかるのを見つめる。
「本当にあの家を出られた……」
私は思わず呟いた。
隣りにいる王太子が私の肩にそっと手を置く。
「クリスティーヌ。辛かっただろう。本当に今までよく我慢したね」
「今日は本当にありがとうございました。王太子様……アルフォンス様でなければこのように家を出ることなどできはしませんでした」
「そうだね。思っていたよりなかなか強烈なご両親だったな」
「お恥ずかしいです。でももうあまり深く考えるのはよしますわ」
「そうだよ。これからは楽しいことがたくさん待っている。まずは君を私の両親に紹介しないと! それから婚約お披露目パーティを開こう。きっと君に会いたいという貴族たちがたくさん押しかけるから毎日お茶会や舞踏会続きになる。そしてもちろん結婚式も盛大にあげないとね」
そうやって王太子は先々のことをあれこれと想像して話してくれる。
「まぁ、アルフォンス様! あまりに気が早いですわ。だって、もしかしすると私が国王陛下のお気に召さないってこともございますのよ?」
「あはは! そんな心配をしているのか? 全く可愛い人だな君は。いくら父や母がせっついても婚約者がなかなか決まらなかった私が選んだ人だぞ? 異論などあるわけが無いさ」
そう笑った王太子の言う通り、国王陛下も王妃殿下も初めて対面した私を快く迎えてくださった。
「ああ、クリスティーヌ。あなたのお話しは息子からよくよく聞かされていましたのよ。それにしても、なんて可愛らしいお嬢さんなの! 聞いて想像した以上だわ。アルフォンスはなかなか難しい性格で、私達の選んだ女性では気に入ってもらえず……。もうこのまま一生独り身なんじゃないかとハラハラしていましたのよ」
妃殿下がそう仰った。それに陛下も頷く。
「本当にな。私ももうこれは近親者からアルフォンスの養子を選んで迎えてやらねばならんと考えるほどだった」
いやあ良かった良かったと、陛下は王太子とよく似た目元を細めて微笑んだ。
こうして無事両陛下のお許しを得て私達は婚約を発表した。
あの誕生日の日に私が逃げ出した大広間で婚約パーティーが開かれた。
私はまた髪の毛をモモに頼み、ドレスはマリアンヌが腕によりをかけて仕上げた一点物を着た。品のある赤いダマスク織の絹のドレスで、身体にぴったりと沿う身ごろに、高い襟が付いている。
ウエスト周りにはフリルがあしらわれて、長い袖の手首は見事なレースで縁取られていた。
髪の毛はきつめに巻いて頭上に高く結い上げ、襟元には縦に巻いた髪がゆるく垂れる形にしてくれた。
真っ青な絹のモアレ生地に金の縁飾りが美しいコートを纏った王太子と並ぶと、絵に描いたような美男美女だと皆が感嘆した。
私は誰にも顔を知られていなかったので「あの綺麗な娘はどこの令嬢か」と暫くの間街では噂が絶えなかったとマリアンヌに聞かされた。
そして貴族たちはこぞって「クリスティーヌ様とお近づきになりたい」と言ってきた。そんなわけで、お城のオランジュリーでは毎日のようにお茶会が開かれたのであった。
「クリスティーヌ、毎日こんな調子で疲れないかい?」
王太子はいつだって私を気遣ってくれる。私は今まで家に引きこもってばかりだったので、生活の変化に驚いてはいた。しかしそれは嬉しい変化だった。
「いいえ、アルフォンス様。私、色んな方々とお話しができてとっても楽しいんですの! 今まで話し相手といったらエミリーしかいませんでしたから」
エミリーは私の横でティーセットの片付けをしながら微笑む。
「そうですね。お嬢様は十七年間誰とも会話しなかった分、たくさんお話ししませんと!」
エミリーも最近はすっかりお城での生活に慣れたようで、以前より快活になった。
『お嬢様が元気でいらっしゃるのが私の幸せでございます』というのが彼女の最近の口癖だ。
「そうか。それはよかった。忙しいこと続きで悪いが、結婚式を挙げたら今度は国外の貴族たちの相手もしなければいけなくなるだろう。そのときもよろしく頼むよ」
「まあ、国外の? それはさぞかし、色々なお話しが聞けるでしょうね。今から楽しみですわ!」
王太子と私は手を取り合った。
私は自分の世界がどんどん広がっていく興奮で胸いっぱいだった。
横には優しい王太子がいて、エミリーも居る。もう何も怖いことなどなかった。
END
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【後日談】2人の結婚式
あれから数ヶ月が経ち、結婚式の日取も決まった。
私はずっと迷っていた。これまで継母とは色々あって、悲しい思いをたくさんしてきた。
だけど、それでも十七年間育ててくれた両親にも結婚式を見てもらいたい――。
王太子様にも相談して、教会で暮らす両親に招待状を送ることにした。
来てくれるかはわからない。だけど、見に来てほしいという意志だけは伝えておきたかった。
王太子ははじめは驚いて反対していた。だけど、これまでの私の想いを汲んでくれて最後は両親が臨席するための衣装を一緒に送り届けるとまで約束してくれた。
妻のことを心から想って大切にしてくれる素敵な人――私はとても幸せだった。
◇
私はニナ・バルビエ。
以前はバルビエ伯爵夫人として街外れの屋敷に住んでいた。しかし、重大な罪を犯したため今はここ、北の教会に住み込んで働いている。
朝は早くから教会の清掃。昼間は、この教会に併設されている病棟で体の不自由な人や慢性疾患の患者の世話を手伝っている。そして夜はこの教会に来て宿泊する巡礼者、極貧者などの世話をする。
辛いかと言われれば、辛い。
元々貴族の生まれで、このような下働きなど一度もしたことがなかったからだ。
傷一つ無かった手は、今は洗い物や掃除のせいでひび割れて赤くなっている。早朝の冷えた空気の中で手に息を吹きかける。吐いた息は白くなった。
私はそれを見て十七歳になった義理の娘に思いを馳せる。
貴族の娘でありながら、あの娘は私の言いつけを守ってよく掃除や庭の手入れをしていた。きっと今の私のような手をしていたにちがいない。
しかし、それすら目を向けようと思ったこともなかったのだ。
あの屋敷にいる間、それほど贅沢三昧をしていたわけではないが、とにかく娘には辛く当たってしまった。今ここで神に懺悔と祈りを繰り返しながら生活をしてみて、心は不思議と穏やかになっていった。
思い返すほどに、なぜ娘に優しくできなかったのかと悔やまれる。
何が私をあのような奇行に走らせたのか?
それを説明するには私がバルビエ伯爵と結婚する前まで遡る必要がある。
私はバルビエ伯爵が前妻イレーヌ――クリスティーヌの実母――と結婚する前からバルビエ伯爵のことを知っていた。いえ、それどころか、恋い慕っていた。
彼は社交的で、気さくで、魅力的だった。対して私はそれほど美人でもなく、頭がいいわけでもない平凡な貴族の娘だった。
彼とは一度舞踏会でダンスしたことがあった。その時落としたハンカチを拾って後日届けてくれた。ただそれだけで、私は恋に落ちた。
でも、それだけで何もせずに彼のことを想うばかりだった。
そして彼は数カ月後、イレーヌと結婚した。イレーヌは街でも評判の美人だったから、私はショックを受けた。自分が彼に好かれるなんて思いもしなかったしきっといつか誰かと結婚してしまうだろうとはわかっていた。だけどまさかあのイレーヌが――と妬ましい気持ちでいっぱいになった。
しかし、イレーヌは病弱で子どもをひとり産むとすぐに亡くなってしまった。
そして図らずも私にチャンスが巡ってきた。
なんと、彼の父と私の父が元々知り合いだったので私に縁談が転がり込んできたのだ。再婚であることを彼の父は気にしていたが、私は二つ返事で了承した。
私は嬉しさと期待でいっぱいになりながらバルビエ家に嫁いだ。だが、彼の家にはイレーヌにそっくりな美しい一人娘のクリスティーヌが待ち受けていた。
そして彼は私を顧みず常に外に出掛けていき、私と彼の間に子どもはできなかった。
私は敗北感に打ちのめされた。
こんなことを言い訳にはできないが、クリスティーヌの顔を見るのも嫌になった私は、あの子に酷い仕打ちをするようになった。
彼が家を空ければ空けるほど、私は焦りからクリスティーヌに当たり散らしてしまうのだった。
十年以上もそんな生活を続け、あの子の人生をダメにしてしまった。
いいえ、それでもあの子は自分で未来を切り開いた。結局私はイレーヌにもイレーヌの娘にも全く叶わないただの惨めな女だ。
だからここでこうしてこれまでのことを懺悔しながら神に赦しを請うのがお似合いだ。
私は一生ここで静かに暮らしていく。国外追放となってもおかしくはなかったのに、王太子の計らいで居場所まで用意してもらえたのだ。
夫であるバルビエ元伯爵もここで下男として働いている。元来の気さくな性格で、他の使用人とも仲良くやっているようだ。
こうして静かな暮らしを送る私達夫婦に一通の手紙が届いた。
上質な紙を使用した分厚い封筒には王室の封蝋が施してあった。
この質素な暮らしに不似合いなその手紙を封切る。
中には招待状が入っていた。
義理の娘クリスティーヌと王太子の結婚式の招待状だった。
◇
「あ~、そのレースをもうちょっと左に。そう! それでいいよ」
私はマリアンヌにドレスの着付けをチェックしてもらっていた。
今日は結婚式の当日だ。もう随分前にドレスは仕上がっていたが、当日までに少しでも体型が変わっていたら直す必要があるのでマリアンヌにお城まで出向いてもらっている。
今は侍女たちが着せてくれたドレスの細かい部分を微調整しているところだ。
「ああ、これでいい。完璧だよ! お姫様」
「嫌だわ、お姫様だなんて」
「王太子様のお妃になるんだ、お姫様って言ったっていいじゃないかい」
「いくら王太子様と結婚するといっても私、お姫様なんて柄じゃないんだもの」
私は笑ってしまった。
マリアンヌは何を言っているのやら――と呆れて首を振っている。
「さーて、最後にモモにティアラを付けてもらっておくれ」
そう言ってマリアンヌは私ににこっと微笑みかけた。モモがやってきて感嘆する。
「クリスティーヌ様、とっても素敵なドレスでお似合いですわ」
ウェディングドレスはもちろんマリアンヌにお願いした特注品だ。
二千個のパールが縫い付けられた繊細な花模様の身ごろ。ハイウエストでボリュームのあるスカート。背中から流れて床に広がる花柄総レースのロングトレーン。
そしてモモにセットしてもらった髪の毛にダイヤの散りばめられたティアラを装着してもらう。ネックレスとイヤリングもティアラとお揃いのデザインだ。
「さあ、そろそろ時間だね、行ってらっしゃいクリスティーヌ様」
私はこの日、両親が来てくれるかもしれないと胸を高鳴らせていた。
しかし、挙式が行われた大聖堂に両親の姿は無かった。私は少しがっかりしたけれど、このような場に出てくるのは両親も精神的に負担だろう。爵位を剥奪された身で、一時期はその噂で街中持ちきりだったくらいだ。
気持ちを切り替え、お城に戻る馬車に乗り王太子と共に街道を埋め尽くした民衆に手を振る。大聖堂からお城まで、パレードが行われるのが王室の結婚式の伝統なのだ。
黒い軍服に赤いサッシュを肩から斜めがけにしたアルフォンス王太子はいつもに増して凛々しく、隣に座る私ですら見とれてしまいそうなほどだった。私達が乗った馬車が通ると、その場にいた民衆は熱狂した。
手を振って左右をゆっくりと見ながら馬車に揺られていると、ふと居並ぶ民衆の後ろの方に目がとまった。
「あら……?」
「どうしたクリスティーヌ」
「今、私の両親がそこに……」
「何? おお、あれは私が贈った服だ! 間違いない。君のご両親だ」
――来てくれないものだと思っていたけれど、式場には現れずに遠くから見に来てくれたんだわ……!
馬車ですぐに通り過ぎてしまったが、確かにあれは両親だった。王太子が肩にそっと手を置いてくれる。私はその手に自分の手を重ね、喜びを噛み締めた。
◇
見ることは不可能だと思っていた娘の晴れ姿をこの目で見ることができた。王太子の隣に腰掛けた輝くばかりに美しいあの娘に対して自分のしてきたことを思い出し、恥ずかしさで身が焼かれる思いだった。
しかし神よ、感謝致します。私は罪の意識を忘れることなくこれからも誠心誠意神に仕えます。
娘にこれまでの人生以上の最大の幸福が訪れますように。
北の教会はこの日、王太子殿下の結婚祝いとして配られた菓子を頬張る人の笑顔で溢れていた。
END




