日常(1)
青い空の下で二人の少女がキャッキャウフフと、楽しそうにお茶会をしている。もう一人は……少女とは確実に言えないが……。
赤髪の少女と白い髪の少女は仲良しだ。今日は、平和に楽しく、数日前の騒動なんて忘れてしまったかのように話している。
「グゼちゃんはどのお菓子が好き?」
「え〜。……どれも美味しいから特段コレッていうのは無いなー。そんなカミーアさんはなにが好き? 」
「私はグゼちゃんが笑う顔が好きだよ〜。えへへ~……。」
すー……ちょっと気持ち悪いか。
にまにましつつ喋るのは良くないな……グゼちゃん可愛い。
まぁ……私だ。カミーアだ。悲願のミーア呼びは未だ達成されていない。残念だ。果たして何時達成されるのか。いつか「ミーア〜一緒に遊ぼー。ミーアちゃん大好き〜」って絶対言われるんだ。
それまではなんとしてもこの日常を続けなければならない。コーヒーを呷りながら思う。あ〜結構苦い。魔術で舌の苦味を消す。コーヒーを飲まなかったことにした。グゼちゃんに格好悪いところは見せられんからな。ただし笑顔は良いものとする。溢れる笑みが止まらないからだ。アハッハッハハ……。
数日前の緊迫した様子はどこにやらといった感じだが。奴ら……魔術研究会は人類の為だとか言ったけど本質は研究がしたいだけ。新しい技術を創り出した私に嫉妬してグゼちゃんを欲しがっているだけだ。ただの大義名分だ。それに数十人程の彼らの意見が全人類に通用するかと言えばしないだろう。
殆どの人類は人と交流しない。何故か? 創作物について語り合ったりしても趣味について語り合っても、何をしても話すことがなくなるからだ。
それでも人間は生きることを中々やめられない。生物としての本能に依るものだ。魔術を扱い神と他種族に言われる程になっても生物であることは変わりない。皮肉だ。大抵の人類の最期はこの世界に飽きたことが原因だ。それもまた……。
話が脱線した。……そう魔術研究会について大して警戒する必要は無いのだ。場所さえバレなければこの惑星を見つけることは出来ない。魔術をどれだけ上手く扱えたとしても出来ないことはあるのだ。
だから今こうして平和に楽しくお話出来ているわけだ。人と交流するときはお互いに楽しく話せる相手に限る。
魔術研究会の連中とはもう話したくはないわね。
「カミーアさんは魔術とか使えますけど、普通の機械とかって、使えるんですか? 私は凄いの作りましたよ。」
グゼちゃんは機械を作るのが得意だ。何となくで目的の物を作れる。私にはそんなこと出来ない。
古代技術程度の機械なら作れるが、グゼちゃんが作るような物は私には再現出来ない物もある。それにしっかり用途とそれにあった形状と仕組みを考えてからじゃないと作ることは出来ない。
「私は使えはするけどグゼちゃんみたいな感じの機械を作ることは出来ないな〜。それで凄いのって何?」
「こっちに来てください。カミーアさん!」
席を立って倉庫の方へと歩むグゼちゃんに付いていく。
最近こうして外で話してはグゼちゃんの機械を見ている。機械の大半は魔術と同等の性能を誇る。
推測だが、魔力が原因と思っている。
まぁそんなことは今はどうでもいい。
今日はどんな機械なのかな。
私がそう思いつつ、スキップなんてして付いていくと。黒い人型のフレームだけの機械があった。
それは倉庫の側に屈していた。
剥き出しの3対の青いカメラアイがこちらを見る。7メートル程の機械だ。自律しているのか。
「今回はなんと乗れます! 見てて下さいね」
グゼちゃんがそう言うと、機械が手をさし出す。
ひょいっと差し出された手に乗った彼女が腕を伝って機械の開いた胸部に収まる。
胸部が閉じると……跳躍した。かなり高い。だが別に驚くことじゃない。まだ何かしらあるハズ。
「グゼちゃん……他には何か無いのー?」
「今からぁーするから待ってて〜!」
彼女がそういうと機械が増えた。7つに増えた機械が更に宙に浮き、陣を組むと機械がバラバラになる。……えっ。コックピット無くなったけど大丈夫なのか?
別に落ちても回収出来るからいいけどさ。不安になるよね。
バラバラになったフレームが不思議な模様を青空に描く。特に変なことはまだ起きてないな、これからだ。
模様に赤い線が走る。フレームから飛び出した赤い線は黒色の模様を上書きするようにかさなっていく。
全ての線が重なった。まだだ、もうそろそろだな。赤い線が激しく光る。
赤い閃光が雷のように空に走っている。音はない。無規則に走る閃光が次第に定まり巨大な人の形を結んで行く。もう倉庫より遥かに大きく、見上げる首の角度が大きい。
赤い光に黒いフレームが纏わりつき、染み出した赤い液体が筋肉のように全身のシルエットを形作る。青い目が集まり一つの単眼ができる。巨大な黒と赤のロボットが血のような液体をしたたらせ、こちらを見ている。
……グロいな。だが、まだだな。
赤い水たまりに機械が手を突っ込むと赤黒い剣が出てき、それを振るった。剣の軌跡には黒い墨を紙にぶちまけたかのような次元の裂け目が現れる。
それからは無数の歪な翼の生えた生物が溢れ出てくる。
何あれ。見たことない。あんなのが次元の裂け目から出てきたのを見るのは初めてだ。魔術より先の領域に辿り着くとは……びっくりだな。
機械は変な生物を剣でなぞり裂いていく。
生物はこの世のものとは思えない悲鳴をあげ、魔力に変わり霧散していく。
何かやべー。絶対良くないのだ。
グゼちゃん何したんだ。本当に分からない。
魔術じゃあんなこと出来ない。
…………グゼちゃんも次元の裂け目から出てきたし、最近何かおかしい?
機械が筋肉をどろどろに溶かしながらフレームが一つに纏まっていき赤い液体の飛沫からもとの機械が現れる。
赤い液体はどうやら消えないらしく残留している。辺り一面が真っ赤に染まり物凄い光景だ。
スカスカの機械から降りてきたグゼちゃんが言う。
「何か変なの出てきたけどどうでしたか? 凄いでしょう。カミーアさんみたいにすぐ次元の裂け目を開いたりはまだ出来ないですけどね。」
「そっ、そうなんだ~。凄いねグゼちゃん。」
やばい。もうすぐ抜かれる。実力とか色々。
そうなったら、宇宙とか行って、「カミーアさん有難うございました〜!!」って言って用済みになってしまうかも。
流石に無いかな。いや、普通にもとの世界に帰っちゃうとかそんなパターンもあるかな。
この日常が続かないかもしれない。いやでも、もとの世界に返すとか何とか私言ってたしな。
今更になってそんなこと言うのは良くないな。
私利私欲のために人を自分の都合の良いようにすることは駄目だ。
そうならないことを願いつつ、この日常が終わるまでこの幸せを噛み締めていよう。後悔のないようにお話しながら。
さて、そろそろ晩ごはんの時間かな。
「グゼちゃん晩ごはんだよ〜。」
「今日もゲル状のやつですか〜。」
「今回はなんと! 普通の固形物だよー。美味しいか分からんけど。」
「やったー。ついに違和感がなくなるんですねー! ところで美味しいか分からないというのは?」
「まっ、まあ取り敢えず食べてみよう。ね!」
倉庫に向かいグゼちゃんの室内でご飯を食べる。別に私は食べなくても良いのだが、一緒に食べると美味しい。私は普段取らない食事を最近はグゼちゃんと取ることでその事実に気づいたのだ。
うっ……。不味い、恐ろしく不味い。流石にもとの味は誤魔化せなかった。
グ、グゼちゃんは……。
「あばばば……」
き、気絶してる!