対魔術士戦2
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惑星内部――
熱い。流石に魔術を完全には使えない状態で惑星内部の環境を擬似的に再現した場所は人間には堪え難い。吹く風も熱風でちっとも涼しくはない。
魔法が乱れている。
グゼちゃんの身体は魔力を弾く。
その性質を研究し、創り出した対魔術士用兵器。面倒なヤツが来たら面倒くさいな〜と思い作った。タイミングがバッチリだ。来てほしくはなかったが。何故こんなものをワザワザ用意したのか?
魔術士どうしのいざこざが長引くのはお互いが極限の域に達した魔術を使えるからだ。
ならば魔術を使えなくすればいい。
通常は相手が魔術を使えないようにしても大抵は相手も魔術を使いそれを防いでくる。
相手が魔術をあまり使わないなどで熟練度が低いなどの理由があればそうはならないが。
まぁ、魔力によって魔法は構成されている。
魔術は魔法を操って行使する。
今惑星内部には魔力がほとんどない。つまり魔術は使えない。
この惑星の核たる光炉とそれを覆う偽の外殻のせいだ。
偽の外殻は魔力を完全ではないが弾く。
今まで誰も気付かなかった。おかしいよね。
魔力を多く含まない物質は魔力に抵抗をもつからだ。
きっとグゼちゃんが現れなければ誰も気付かなかっだろう。私は運がいい。
ちなみにグゼちゃんは全く魔力がない。
そんな物質は未だ作り出せていない。
生成過程でどうしても魔力に露出するからだ。
精々、元の半分程度が限界だ。それで十分だが。
光炉はもともとただの研究施設兼魔力収集所だ。本来の用途は魔力収集所という面だ。
今回はその面を活かし、惑星内部の魔力を惑星外に排出している。ただし肝心の排出機構が魔術によって行われているので少し魔力が漏れてくる。だが魔術を使うには足りない。
男は光炉に向かって落ちていく。私もだ。さっきからずっと落ちてた。男は何か言いたげだが熱すぎて喋れないようだ。
髪がチリチリしている。燃えそう。
男のフードはもう燃えている。
何でどっちも死んでないと思う?
実はねー。周囲に魔力がなくても魔術は扱えるのですわ。
体内に存在する魔力が魔法を構成し、自身の体内にのみ魔術を行使出来る。高熱の環境下で体を維持できているのはそのおかげだ。
まぁできることは少ないし、魔力はなるべく均一になるように遷移する。つまり体外にどんどん魔力は漏出していってる。
その内、体も維持できなくなる。
ここは敵も私も同じだ。
ではどうやって差をつけるのか、答えは明快だ。
魔術を使わなければいいのだ。
昔の人類は魔術を使わなかったらしい。
科学技術なるものを使い発展していたらしいが、母星が属する恒星の重力圏内までは支配したところで行き詰まったそうだ。
だが魔術を見つけた人類は飛躍的に発展した。それが私達の先祖だ。結構大変だったらしいよ。魔術を使うのにデッカイ機械使わないといけなかったんだってね。面倒だ。
まぁ科学技術、今では古代技術呼ばわりされているが全く使えないわけではない。魔術の利便性には遥かに劣るけど。だからこそそんなものを使う人類は中々いない。
私は落ちながら翻るスカートの中に隠した装置を取り出す。グリップをつけて握りやすくしている。
照準を男に合わせる。撃つ。命中。男が消える。
惑星外に退出して頂いた。
殺しはしないそこまでじゃないし手間だ。
私も自身にそれを撃つ。
魔術協会本部に向かう。あの男は多分、デーダリックの手下だ。
追跡の魔術がかかってからこの惑星に来たこと。
秘匿の魔術をかけて位置を知らなければ来れないこの惑星にきたこと。
そんくらいしか情報はないが、十分だ。
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魔術研究会本部――
いた。デーダリックだ。和室の隅で腕を組んでいる。私が来るのを待っていたのかな。タイミングが良すぎる。私は腕を組んで壁にもたれかかった。
「デーダリック、お前が仕掛けたのか?」
「うん?君が自ら来るとは……うむ、そうだ。私が仕向けた。あれを独り占めするのはどうかと思うぞ。」
「気持ちは分からなくもない。が理解はできない。人を攫うのもどうかと思うが。」
「そんな段階にはないのだ。旧人類のように宇宙外に領域を拡げられない人類には新技術が必要だ。」
確かにそうだ。人類の個体数は全盛期は数十兆はあったが、今では数億人程度だ。広大な宇宙に対しては少なすぎるな。
現在も減少しているが、長大な寿命で誤魔化しているだけだ。やがて滅ぶ。どうでもいいが。
デーダリックが言う。
「君の考えは私には分からないが、私はそう思う。人類は好きに自由に生活してきた。勿論君の考えも正しい。」
筋が通っている。反論し難い。だけど彼女にとってこの世界で安心できる人物は私だけだ。
いきなり、記憶を失って見知らぬ世界に来て世界の発展のために利用される。
そんな人物はいてはならない。だから。
「私の考えも正しいとお前は言ったな。その通りに行動しても文句は言わないだろうな。行くぞ!」
世界は救われる彼女を代償に。
この世界の人間ですらない彼女を代償に。
あり得ない。
グゼちゃんはちょっと早とちりなところはあるが普通の少女だ。元の世界に返さなければならない。
光炉と接続。魔力を私の体内に送る。
魔法の影響が強まる。魔術によって実現できることは魔力によって変わる。
魔法が物を言う。物理法則が力で抑えつけられる、魔法を操作し使う魔術の威力は更に上がる。
体が軋む。魔術を使い体の崩壊を防ぐ。
戒律魔術、対象の範囲に制限をかける。
それだけだが、魔力さえあれば抜群の汎用性を誇る基本的な魔術だ。つまり何でもできる。
待て。記憶を消せばいい。消去する必要はない。
「何故記憶がない。君のせいか。魔力密度が異常だ。戒律か忘却だな。何を忘れさせた?」
記憶を忘れさせたとしても人類は頭が回る。焦りすぎて忘れていた。
根本的な解決をしなければイタチごっこだ。
すぐにまた気付かれる。終わらない。
ではどうするべきか。
鏖殺するにも、私だけじゃ無理だ。それにしたくない。
お話するしかない。恒久的な解決をするにはこれしかない。
そもそも、誘拐しようとしただけで、彼らがグゼちゃんをどう扱うか不明だ。
人類の寿命は長い。
研究する暇はいくらでもあるはずだ。
相手も話せば納得してくれる筈。きっと。
「デーダリックもとい、魔術研究会は彼女をどう扱うつもりなんだ? そこさえ噛み合えば何も言う事はないが。」
「あれの寿命はおそらく有限で我々に比べるととても短い。研究サンプルたるものが唯一であることや魔術が効かないことから詳細な研究は難航するだろう。最も君が協力してくれれば早いと思うが。待遇は良いものとは言えないだろうな。仕方のないことだ。」
心を読まれた。戒律と体の維持に全てを使っていたせいだ。
魔術で心を読む際、脳から溢れた電磁波を魔術で変換して心を読む。
私は心をこいつに読まれるのは嫌なのでここに来るときは心を読まれないように電磁波を消している。
うっかりだ。良くない。次は注意しよう。
まぁ奴は私とは相容れなさそうだとは思う。
仕方が無いとは、何だよそんなのおかしい。
だが相手は組織だ。まともに立ち向かってはこちらが負ける。そうなったとき、彼女の安全を私は保証できない。
ハァ。今まで独りで活動してきたせいだ。
同じような意見を持った人と親交しておけば、こういったときに協力してくれるかもしれない。
2億年程生きてきて、初めて心の底から後悔した。どうしようか。取り敢えず帰ろう。
魔術協会本部を爆散させ、彼女の元に戻る。
多分、目眩ましくらいにしかならないだろう。転移。
朝時だった。液体の上に放置していたグゼちゃんを降ろして話す。
「もうここにはいられない。惑星ごと転移する。倉庫の中で待ってて。グゼちゃんは悪い人に狙われている。後でゆっくりと話すよ」
「えっ。どういうことですか? カミーアさ……」
彼女は寝た。よほど眠かったようだ。
倉庫にグゼちゃんを運ぶ。
さて惑星の転移を開始。終わった。
これからどうしようか…………