対魔術士戦
私の名前はグゼ。数日前そういうことになった。カミーアという人につけてもらった名前だ。最初は訝しんだものの良い人だ。何回か会話してそう思った。
明るく元気でこの世界について色々なことを知っている。
今日は倉庫で鼻歌交じりに機械いじりをしている。
機械と言ってもカミーアさんが使うようなものではない。あれは魔術機械と言って私には使えない。
ギキッガコン。
機械が私の手の平で自律して動く。
車輪を撥条にためた弾性エネルギーで動かすだけのものだ。動きがだんだん遅くなり停止する。
カミーアさんが最近あまり倉庫に来ない。
何かしらの作業をしているらしく呼ぶのもなんだかなー、と思っているので独りで機械を作って暇つぶしをしている。
何かカミーアさんみたいに魔術とかは全然使えないし、魔力?とかいうのが私にはないらしい。
でも記憶が無い筈何だけど私は一般常識はある程度はあるんだよね。不思議だ。
大体そんな感じで機械は作れるんだよ。
まあそれでもね、結構まともに動かない失敗作がたくさんあるんだけど、全く出来ない訳じゃない。
失敗は成功の元、そんな感じでなんとか一つだけ大きく運動する機械ができた。
他にも機械はあるが一番の傑作はこの倉庫の外にある。私はできた機械を持って作業台から離れ倉庫の外に向かう。
それは私よりも少し大きいくらいの黒い金属質な立方体だ。メタリック
カミーアさんに貰った素材で作った。
さっきのぜんまい仕掛けのものもね。
紹介しよう!
一人だけど……。この機械の真価は情報解析能力にある。
私がこの機械に手を触れるとそこの部分が四角く凹み、そこにぜんまい仕掛けの機械を入れ、手を触れたままにしておくと手が機械に沈み、脳に情報が流れてくる。
おぉー。我ながらよく出来ていると思う。
ぜんまい仕掛けの機械の組成や重量、体積など色々な情報が流れてくる。
その中で最も興味深いのは物理法則の脆弱さを表す数値の変動だ。時たま重力が変わったり、エネルギーが増減したりする。
不思議に思い、後日居合わせたカミーアさんに聞いたところ魔法?の影響が強いところだと、魔力を多く持たない物質はそうなるそうだ。カミーアさんも最近知ったらしい。
魔法が無理やり力を加えてそう見せかけて来るらしい。何でかは謎だそうだ。
だったら私も何か変わっているのかもしれない。体感何も変化はないがちょっと怖いかも。
というか魔法とか魔力とか何なんだろう。
私の一般常識には入っていないらしく私には分からない。記憶喪失の私が言えることでは無いがここの世界はなんかおかしい気がする。
それとも私がおかしいのかな?
そんな感じで暇つぶしをして、知的好奇心を満たしていると日が落ちる。
この場所はどっかの惑星上らしく公転と自転をしていて日が落ちたり登ったりする。
地平線の向こうに恒星が沈むように見え、空と陸は茜色に染まりながらもう一方では暗く染まっていき、やがて天上は星々の光以外には暗黒に染まる。
ここに来てからは毎日見ている光景だ。
自然の力は合理的であり、美しく一切のエラーを許さない。
だからこそ私は部分的ではあるがこの世界の法でありながら人の手によって、魔術によって制限をくらう魔法の存在に疑問を呈さずにはいられない。
この世界は美しく、不思議で不器用である。
私はそう思う。
そんなポエミーなことを夕日の沈んだほうを向きながらひとりごつ。結構いい出来だと思う。
いや……でも何か情緒がなくてメッセージ性がないかなー。うーん。私……文才は無いかな……。
「こんばんは。あなたが異世界からの来訪者ですか? 確かに魔法と魔術、親と子のような関係で魔法による干渉は不思議で、愛情を感じながらも不器用と思う面もありますね。」
いやー、あなたもそう思いますか。
うんうん。そうだよね。実はこの世界の構造を現した名作かも知れないな。
やっぱり、私才能あるのかもなー!
あれ聞き慣れない声だな。異世界からの来訪者? うーん? えっ誰? いつからいた? 男?
私は疑問符だらけの思考を片付け、後方から声が聞こえたので、反転し距離を取る。
いない? 見当たらない。どこだ。
私は急に動いたせいで崩れた体勢を立て直す。
「怪しいものではないですよ。落ち着いて下さい。急に話しかけられてビックリしたんでしよう? カミーアはここにいるのですか? 彼女に用があります。」
いない。私はそう答えた。声が高いくらいしか情報がない男が言う。風が吹き出した。
「そうですか。では貴女を直接貰いましょう」
男がそう言い出してから、吹いた風が強くなり、私の周囲で風が吹き荒ぶ。
私の体は空中に持ち上がる。身動きが取れない。どんどん私の体は持ち上がり高度は増していく。こえーな。
やっぱり、知らない人は信用するべきじゃ無い。だけどこの世界唯一の知人であり、頼れる人はあの人だ。
だがこの状況で助けを呼ばないのは愚かだ。
なにをされるか分からない。
私は叫んだ。
「カミーアさあぁーん、助けてえぇー!」
前にカミーアさんは呼べば来るよ、とか何とかいっていたのだ。きっと来るはずだ。
だが帰ってきたのは男の言葉だった。
「奴はここにいないんだろう。助けを呼んでも無駄だ。ふっ、私のもとに大人しく来れば良いのに。」
男がそう言うと、男は姿を現した。真上にいる。結構遠くだ。暗いのもあってよく見えない。
……ん? 消えた。いや違う
紅い液体が男を吹き飛ばした。
あれ、わたしおちてる。
えっ、やばい? あぶない?
急に語彙力が落ちた私が落ちる。どっちも落ちてるわ。うー、ヤバい。どうしよう。
止まった。ほっ……助かった。紅い液体が体を受け止めたようだ。
ちょっと粘着質で絶えず流動している。
こっちはこっちで怖いな。ゾワッとするし恥ずかしい。落ちて粉砕されるよりましだが。
「グゼちゃーん。ミーアって呼んでって言ったじゃーん! 次からはそう呼んでね。今回は危なかったから特別だよー!」
カミーアさんの声が聞こえた。ちょっと安心した。助けに来てくれたらしい。よくよく見たらこの液体、研究室っぽいところからここに来たときに私が飲み込まれたものと一緒だ。だったら落ちた私を助けたのはカミーアさんか。明るさが違って、すぐに気付かなかった。
ふぅ安堵した、やっと落ち着けるよ。もう遅いし眠くなってきちゃった。
私はうとうとと意識を落とし眠りに付く。
…………否、こんな場所では疲れてても怖くて眠れんし液体が服の下でもぞもぞして気持ち悪いのには変わらない。
助けて貰ったはいいが、まだ空中にいるし、カミーアさんは声だけが聞こえてどこにいるのか分からない。
……結局は液体の上で一夜を過ごすことになった。
一睡もすることは出来なかった。眠い。
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惑星内部――
「私は生物を解剖したことがある。殺してな。
だが生きた人間を殺すのは初めてだ。そうならないことを願う」
誰なんだ?こいつは私の友達のグゼちゃんを誘拐しようとした奴だ。取り敢えず脅してみたが……グゼちゃんと話す間を惜しんで作業していた私は今、苛立っている。
どう出る? よほど死にたいらしいが……。
白いフードを深く被った男が言う。
「ほお…………この惑星の内部ですか?ここは。とても美しいですね。通常、惑星の中は満たされている筈だが空洞になっており、星の核は本物ではなく光炉だ。柔らかい光ですね。外殻に乱反射した光が綺麗だ。いや、この星は実験施設か?とこ…… 」
結構当たっている。だが全貌は把握しかねたようだ。敵地に乗り込むときは下調べを十全にこなしてから来るべきだ。男は蒸発した。
だが人類はこの程度では死なない。
ただの威嚇だ。再生した男が喋る。
「何故? 怒っているのですか? 貴女も似たようなことを彼女にしたのでは? 」
私はグゼちゃんを誘拐というより、看病したが近いと思う。
だが奴は本人に了解の意を取らなかった。そこは明確に分けて欲しい。
まあ経緯なんて知らないだろうから仕方はないが。
だが癪に障る言い方だ。私は最近グゼちゃんと話すことで人との接し方が良くなったと思う。聞かれたからには答える。変に誤魔化すと良くない。私は言う。
「お前は彼女に了解を取ったか? 取っていないだろう。助けを呼ばれたというのはそういうことだ。お前と私じゃ状況が違うし、第一に私に話を通してからにしろ。彼女は物じゃなくて人間だ。 いきなり話しかけられてもこの世界の人間じゃないし、状況を把握しかねる。」
男は喋る。
「そうですね。良くは有りませんでした。ですがあなたが悪いのでは? 一人の人間を惑星上に閉じ込めるのは監禁と言っても差し支えないのでは?」
賢しくない。見苦しい。ああ言えばこう言う。
どうやって魔術を使えない人類が宇宙を移動できると思うのか。分からない。実は私をイライラさせるために来たんじゃないのか。
うんざりしてきた。
根気強く話すべきなのは分かっているが、私も人間である以上情緒がある。結構短気かもしれないが。
デーダリックより、私を苛つかせる方がいるなんて驚いたわ。私が言う。
「お前にはここから、ご退室願おう。」
光炉の光が強まり、惑星内部の魔法が乱れる。
魔術は魔法なしでは成り立たない。
親がいなければ子が産まれないように。
さぁ、対魔術士用の兵器にお前はどう抗う?