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終末魔術文明のグゼ  作者: 黒幕スライム(作者名に意味はない)
異なる世界 異なる法則
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とある魔術士の珍しい一日

 


私はカミーア、2億歳ほどの平凡な魔術士だ。

 人と話したことがほぼなく、その内訳は親と数回会話しただけだった。

 そのせいか、はたまた生来の性分か幼い頃からひとりで自然を観察することが好きだった。人見知りとも言うかも。

 今では宇宙中を飛び周り、気になることがあれば調べるために研究室に篭もっている。

 私の生き甲斐は宇宙の神秘を自らの手で解き明かすことだ。先人が為したことをなぞるだけの趣味でもある。

 いつもひとりで行動し他人とは関わらない。それで今まで満足して過ごせたのだからこのままでいいと思っていた。

 そんな私の気持ちは変わったがやはり人と話すのは苦手らしい。


「貴様と話すことはない。お引取り願えるかな?」


私が彼にそう言うと。

彼は……

 




――――――――――――――――――――――

とある魔術士の回想――


 ある日のこと私は時空間異常を起こしてそれを観察していた。

 私はつい最近形成されたばかりの惑星上で汎化と戒律の魔術を使い空間と時間の因果を破壊し時空間異常を引き起こした。起こしたそれが消えぬよう私は異常の位置を惑星の動きに合わせ、それに見あった規模で異常を認めない魔法の修正力を弱める。

 温室の中で育った異常は次元の裂け目を伴いつつ大きくなっていく。

 ここまではなにも異常という言葉は出てこそいるが常識的なありふれた現象だった。

 しかし次元の裂け目から人型の物体が出てきた。

驚いた私はそれを間近で観察しようと企て、転送魔術で近くに寄せようとする。

 だが私の意に反して物体は送られてこない。再度魔術を使ってみる。が結局のところ全て失敗に終わった。

 仕方なく異常の維持を止めて物体のもとに向かう。

すくすくと育っていた異常は魔法の修正力に晒され、まるで最初からなかったかのように跡形も残さず一瞬で消えた。儚いね。そんなことを思いつつ私は物体に近寄り持ち上げる。

脈があり呼吸をしている。本当に人なのか確かめるべく、鑑査魔術で調べる。失敗した。だが魔法が不自然な挙動をしている。

何故だろうか。

 取り敢えず魔術による確認は諦め、声をかけてみる。こんなことあるのか?

 


「あなたは誰?……意識が無い? 魔法の乱れを検知したが……まさか関係がある? しかしそんなことは有り得ないはず。世界の基礎たる魔法を弱めることは出来るが乱すことはできない筈だが」


 返事はなかった。が、脈も呼吸もあった。

 彼女は意識を失ったままでいつ起きるか分からなかった。なので私は彼女を運び研究所の付属空間へ運び様子を見ることにした。

 数日たっても目覚める気配はなく様々な魔術を使い起きるようにしたが意味はなかった。

 栄養剤を彼女の体内に入れる。餓死しないよう。

魔術こそ効かないが物理的干渉は有効だ。それが彼女に対して分かった唯一その時の私が気づいたことだった。それに気づいた私は大昔の原始的な魔術を使わない方法で彼女を起こした。

 棺桶のような緑の箱に彼女を収め、タッチパネルを操作する。古臭いというか化石みたいな物だし、操作するのも初めてで不安だったが、彼女は起きた。

 タッチパネルにはいくつかの情報が表示されていた。


【人間 女性 1■歳 健康状態:良好 情報 

 記憶喪失 身元不明 名称=    】


 私はそれを見て驚いた。

神の域にまで達したと言われる人類の魔術を使い分からなかったことを大昔の機械が暴いたからだ。

物理的干渉しか行わない機械といえど、万能とも言われる魔術で出来ないことをしたのだ。

 私は緑の箱から【起床まで後50秒です。内容物を取り出して下さい】と言われると、彼女を箱から出し私の稀にしか使わない寝室の寝具に置く。

 50秒がたっても起きず不安を口にしていると彼女が起きた。

 起きた彼女を研究室に連れ込み、私は彼女を緑の箱を参考にして作った機械で調べる。緑の箱と同じ情報が流れてくる。私は興奮した。

 この機械自体は魔術によって動いている。

だが肝心の彼女に対する干渉を行う部分は全て物理的なものだ。よって私は未だ誰も知り得ない技術を獲得したのだ。

 私はその事実に人生で最も興奮した。誰がなにを為したかは魔術を使えば一瞬で確かめることが出来る。だが私が調べても何百回と調べてもそんなことは誰もなし得ていなかった。

まぁ全部魔術でしたほうが効率が良いからだろうが。

 なんちゃって研究者として他人が発見したことを楽しいからと言って自分で調べてきた。

 

 うれしい。

 未知のものを初めて見て、誰も作ったことのないものを作り、まだ未知が残っていることが。

 私は彼女をもっと知りたいと思った。

 彼女と話したいと思った。

 だったら名前がいる。彼女には名前がない。

 私は考えた。思いついた。魔術言語で異常の意をもつ言葉であり、遥か昔の宗教に正式に存在こそしないが確かにいたらしい神の名でもある言葉。 

彼女の名前はグゼにする。彼女が起きるまでにもう既に考えてたんだ。後付けの理由も含めて気に入ってくれるかな?




――――――――――――――――――――――――



魔術研究会本部――


畳をひいた和室で私と机を挟んで座っている男。 

もとい私の楽しい時間をブチ壊した男が言う。


「よく来てくれた、カミーアよ。先の時空間異常についてお聞かせ願えるかな?」



老年の紳士風の男。その形容がよく似合う男だ。

こいつの名前はデーダリック。魔術研究会とかいうよくわからん組織の創始者だ。

 今更魔術を研究したところで先人が解き明かしたことをなぞるだけで趣味でやるなら組織を立ち上げる必要はない。

 考えてもついさっき会ったばかりの人間の人間性はわかりかねる。

 人が楽しくお話しようとしたときに人を無理やり呼んで遠回しに時間をかけて要件を伝えてくる。

 さっさと言いたいことを言えば良いのに。

私がそう言うと彼は答えた。



「うーむ、そうだな。君の言う通りにしよう。君はあそこで何をした。魔法がおかしくなることはない。だが君が時空間異常を起こしたあの場所で確かに君以外誰もいなかった。何か知っているんじゃないかな?」



 はぁ。何故私が起こしたのだと伝えなかったのだろうか。いい加減にしてほしい。私は一刻も早くグゼちゃんの元に向かいたいのだ。

 時間を止めて話せばいいのに何故か止めないでほしいと言い出すし。

 魔術の腕は私と同じくらいだから無理やり逃げることは難しい。たしか同じ程度の魔術士が争うと互いの足を引っ張り合う泥沼になると見たことがある。

だとすると逃げるのは悪手でさっさと話を終わらせるべき。そう思った私は言う。



「私は時空間異常を起こし観察しただけです。魔法の乱れはおそらくそれが原因でしょう。ですが一瞬程度の乱れでありましたし、私にはよく分からないです。研究したいならあなたが勝手にその組織でやれば良いのではなくって? 私はこれ以上なにも知りません。帰ってもよろしい?」



 彼は私の話をきいて黙り込んだ。

 思考なんて一瞬で終わるくせに。

 彼が言う。



 「そうか。残念だな。本当に何か他に知っていることはないか? 是非とも情報があれば我々に提供してくれ。最後に君は何をそんなに焦っているのだ? 何か用でもあるのか。もしかして魔法の乱れについて何か秘匿していることがあるのか? 

まあいい。帰ってくれていいぞ」


 彼は偉そうにそう言い、部屋から消える。

 追跡魔術、そのまんまの意味で対象の位置を追跡する魔術だ。デーダリックはさり際に私にそれをかけた。無論すぐ私にばれた。解除した。

 余りにも簡単だったので拍子抜けした。

 さぁ、グゼちゃんのところに帰りますか。時流の設定がこの部屋は外よりも早いことに気付いた私はすぐに帰った。

 私はこのとき浮き足だって、もう一つ巧妙に隠された魔術に気付かなかった。

 後で結構後悔した。面倒だった。ほんとうに二度と勘弁だ。




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