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終末魔術文明のグゼ  作者: 黒幕スライム(作者名に意味はない)
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見つめた先の?

  

 そう言われて駆け出したがやはり足が動かない。足を切り落とそうと刃物を手に取ったが言う事を聞かない部位が増えていきついには首から下は動かなくなってしまった。刃物を握る手も当然言う事を聞かなく足を切除しようにも不可能だった。

 


 私がそうして齷齪する間に体は徐々に固まり感覚は段々と下から消えていく。まるで自分が消えていくようだった。血が抜けていくのとも似ていた。


 …………どうしたらいいものか。私は半ば諦めたように空を見つめていた。その内首すらも固定されていった。最早壁を見つめる事くらいしか可能ではなかった。私が仕方なく壁を見る、すると肩を掴まれた。私はとても驚いたが私の体の大部分は既に固まり反応は取れなかった。取れた反応はせいぜい目を見開いた程度のものだった。両肩が掴まれた。その手は私の手と同じくらいの大きさだった。私を掴んだ手は私の首筋へと移動していく。体温が然程変わらぬ手が私の首から顎へ移る。

 耳元でくすぐる声が聞こえた。


「貴方はだーれ?」


 奇しくも私と同じ声だ。つまり…………声の主は視界の端から私の視界中央に入り込んだ私とそっくりのマリーだ。

 

 自分が自分の目の前にいることに物珍しさを感じて数秒私は止まった。硬直が解けた瞬間に私は走り出した。いつの間にか体の感覚は元通りになっていた。走ると私の足音に重なる音が聞こえる。


 その音は不規則で安定しないものだ。私のことだから分かる。足音の原因はマリーだろう。いや……そもそも私のすぐ後ろで聞こえる足音の発生源が此の場ではマリーくらいな物だから……別にそうでもないかも。私も培養槽から出た直後は歩きにくかったのでマリーも歩くのが下手なんだろう。私は振り返りマリーを抱え上げ走った。

あまりに遅くて嫌になったのだ。物理的に破壊もできないし。私は博士の元に歩み寄った。マリーが言った。


「この人は誰ですか博士?」


 そう言えば何故博士は私のグゼという名前を知っているのだろうか。普通に考えればこの世界の住人では知りようがない。もしくはこのマリー世界は結構凄い技術でもあるのだろうか。

考えても謎である。如何ともし難き。

博士が言った。


「……この人はグゼだ」


「へ〜。そうなんですね。よろしくねグゼ!」


自分に親交を望まれてしまった……。困りはしないが…………あっ忘れていた!


「よろしくね!」


 私はマリーを抱き上げたまま刃物を手に持った。其れをマリーに突き立て……おかしいなぁ。

更に鋭い刃物を私はマリーに刺……せないな。

マリーを降ろし手元の刃をみればボロボロに腐り切って刀身が消えた刃物があった。地面にはすっかり錆きり鉄屑とも言えぬ刃だったものが散らばっている。

 


 …………あぁ……どうしようか。私の今の能力値がマリー未満なせいで勝てない。マリーに。

私は試しにお菓子を作った。其れをマリーに投げつけるとお菓子は一瞬にして燃え尽き消えた。

 実証完了!


 私はこの世界ではマリーに勝てないのだ。

つまり私は暴力で全てを解決しする気だったのだけれどそれはついぞ叶わぬ夢と化してしまったのだ。

 私の能力は今や完全にマリーの下位互換に過ぎない。…………こんな調子では次に進もうとも何もできないのでは無いか……。私はそう思いつつ博士が手を振ると景色が崩れ落ちる様を見ていた。

 マリーが私に問いかけた。


「グゼは好きなものとかある?……私は自由が好きだなぁ。どう?」


 私はこんな人物だったのだろうか。今の私とマリーは本当に同じ人物なのか?そんな疑問が質問を聞いて思い浮かんだ。今の私は何をするにも……力不足で過去の思い出に縋って結局幸せになりたいだけだ。そうなら……はぁ。私は詰まる所私でしかない。きっと此れから何度死に人格を喪失しようと私の根源的な願望を解決せねば何も変われないのだろう。


 そう考えればマリーも私も目指す場所は違わぬと……思えない。私は誰かに幸せになって欲しいからと今は行動しているが過去の業を精算するまでもなく諦めてしまえばいいのだ。


 きっと今までの私と根源を同じとする者達を許せたら私は底抜けに安心出来る。だが無理だ。瞼の奥を見つめれば其処には記憶が見える。私はあらゆる世界を突き崩し己の願望の為に世界を破滅させた。そんな世界が幾千も見える。


 舞台は様々だけど必ずその世界は私によって例外なく滅亡していた。


 私には親しい人や友、家族もいたそうだ。その何れの人々の善意や思いやりを私は食い潰し飽きて死んだ。そして其れからも何度も異なる構造の感情を感じては飽きて捨てた。悲しみも何も感じれなかった。呆然と目標に向かって進むだけだった。



 記憶にはその感触が残っている。其れは小説を読んだみたいに私の感情を揺さぶる。だが記憶は有限でもう其処には戻れない。戻ったとしても私は部外者にしかなれない。私だったモノに成り切るとしてもそれは演技でしかない。もう戻れない。


 私が記憶を見るのを止めようと瞼を開けて見つめる先には虚無が広がっていた。黒ではなく白でもなく其処だけは何も無いところ。本当に何も無い。私はその中に自身の軌跡を重ねてしまった。怖かった。どれだけの人生を歩んでも……その世界にあった挙動のみが可能だった。要するに魂なんて物は無かったんだ。私はそれが嫌になって死ぬことも生きることも出来なくなった。生きてもない死んでもないだけの何かしら。

 そんな存在が私だった。





 今日私は復活する。

 私は私の真に望む物を今思い出した。

 今日からはその為に行動する。


 私はそう心に決め博士の下へ歩み寄った。

そして質問に答えた。


「マリー……私は。グゼは正常なものが嫌いだ。だから私は異常が大好きだ。さぁ!私を殺せマリー!」


「どういう事?」


「…………いや何でもない」 


変なことを言ってしまった。

両者の間に嫌な雰囲気が漂う。

私は黙って博士を見た。

長めの沈黙の後にに博士が言った。


「想定外だが儂のやることは変わらない。此方に来るんだ」


特にやることも今に限って出来ないので取り敢えずついていく。私の後ろにマリーが続く。


……博士は人類を裏切るとか言っていたし……職員の人たちは気付けば消えていたし何が起こっているのだろうか。


「ねぇねぇ!グゼは何か面白い話とか無いの?」


私はマリーの質問に答えた。


「無いよ」


話すのが面倒に思えてしょうが無かった。なので早く話を終わらせようと答えたが間違いだったらしい。


「そうなんだ……私はねー。面白い話知ってるよ

。一番面白かったのは蜥蜴とネズミが争う話。勿論聞かせてあげるから安心してね!」


そうマリーは言った。私は返事も了承素振りの一つも見せず真っ白な廊下を博士の後に続きながら歩いた。


「えーと……冒頭の触りはねぇ。……よしっ!始めるよ。あー、沼地に蜥蜴とネズミが住んでいました。彼らは仲が良く度々お互いの家で遊んでいました。そんな日常のある日沼地にうさぎがやってきました。」


私はそれを耳に入れながら淡々と歩いた。


「うさぎは彼らよりとても大きく彼らはうさぎに怯えました。彼らがウサギを物陰から眺めていると突如甲高い声が聴こえました。驚いた蜥蜴とネズミが身体を寄せ合うとうさぎが空を飛びました。」



私は歩いた。次第に景色は変わる。


「うさぎはそのままフワリと宙に浮き飛んでいきました。蜥蜴とネズミが飛ぶうさぎを見ればうさぎには大きな鳥のような翼と嘴が生えて居ました。ですが地面の向こうに飛ぶうさぎを見つめていると何と大きな鳥がうさぎを掴んでいたのです!」


あれ?……此処は。


「蜥蜴とネズミは更に怯え家に閉じ籠もりました。そうして何年かが経ちました。すると彼らはこう思いました。『もし私の家を知る友が鳥に私の家を教えれば私は死んでしまう』と。そう思った彼らは家を変えました。」


 一面に広がる草原と青空。

私の目の前には赤髪の背が高い人がいる。博士は見当たらない。


「彼らは家を変えるときにふと……大沼に立ち寄りました。すると彼らは久方振りに再会しました。すると彼らの頭上を鳥の甲高い鳴き声が通りました!彼らはあの日を思い出します。彼らは言いました。限りなく大きな声で『此処に餌がいるぞー!』と。」



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