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終末魔術文明のグゼ  作者: 黒幕スライム(作者名に意味はない)
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Marie’s revolving recollection


暗がりの門を潜ると其処はいつかの研究所だった。


横たわる肉体を起こしお目当ての物体へ駆け寄る。


培養槽の中に眠る私、マリーがいる。

分厚い硝子に手をあて顔を覗き込んだ。

薄緑色に染まった身体を浮かせて目を閉じている。

懐かしい…………最も私に近く、何なら私と物理的には同一人物である存在。

同じ見た目の存在。白い髪に十字の目。

身体つきは幼くは無いが身長は低い。

凡そ中身は人間とは別物よ。生きてはいない。出自はいつまでも人ではなかった。

機械か人工物。そのどちらかが大半だった。


今回、いや全ての殺戮においてこれからあらゆる私を破滅させることになる。

目的は世界の修正。自身が歪めた法則を過去を再現した記憶の中で治し現実に上書きすることで元のあるべき姿に戻す。

それだけ……やる意味は無い。だがあれ程の記憶を見ても平然とはしていられても何もしないことは出来るだろうか。


よく……幸福なんて物に縋れたのか分からない。分かりはするがそうは出来ないし諦めたい。

自身の起源と始祖が其れを強く望んでいた。それでも操り人形だとしても。


だが培養槽が硬すぎて破壊できない。

自力での破壊は諦めて博士たちに開けてもらおう。



私は培養槽から離れ、見たことの無い景色を見る。

培養槽からの視界はV字型なのであまり外の様子は見えなかった。今ではすっかり無感動に其れ等を見ることができる。

冷たい金属の床と壁が昔の視界から見渡せる景色と同じ世界を作り出していた。埃は一つもなく、生物的な痕跡は見当たらない。

冥界のように綺麗で潔い場所だ。

窓はなく研究室と培養槽を隔てるドアに少し透明な板が嵌め込められているのみ。

研究室から漏れ出した光がこの小部屋を薄暗くしている。



信じられない。

記憶の中なのに此処は現実のようだ。景色も何かしらも……。

本当に私は……世界そのものなのだろうか。全てが一人芝居だったのだろうか。正解は知りたくない。

永遠に無知の儘でいられるのなら幸せなんだろう。そう言う問い掛けを思い出してしょうがない。いつか私では無い私が読んだ小説の一節。

この言葉が語られたのがどんな状況でどんな流れだったかは分からない。

けれど今の私に意味が分かる。

正しいかは分からない。間違えても解釈を歪めはしない。所詮は憐憫される程度のものなのだから。儚さは決して美しくない。

全ての存在は不滅であり瞬間でしかないのだ。

知性体の言葉に意味は無い。後付の世界にどれだけ意義を求めても敗北するしかない。あるのは究極的に合理化された価値のない仕組みだけ。

あらゆる自然が奴隷なのかもしれない。きっと主はいないのだ。居たとすれども虚構に過ぎない後付の主人なのだろう。


私もそうでしかない。極論どれだけの高位な、上位の存在に成り上がったしても其れは変えられないだろう。出自が落ちて行く世界なのだから。


そんなことはどうでも良くて……とドアノブに手を掛ける。

記憶の世界といえど……実際は現実と何ら遜色ないセカイだ。大元の私が規格外の化け物だからな。

実在の博士と同質の誰かが居るはずだ。

今の私は…………グゼでもあるが半ばマリーと化している面もある。なのでこう……恥ずかしいというかなんというか…………ね?


先ず服装が良くないかと。

あんな風に二人にカッコつけてきたのに白のワンピースだからな。下にドロワーズを履いてはいるが人に会いに行く時の格好ではない。

礼儀とか正直世界によって完全に異なるのでマリー世界ではどうしたら良いのか分からない。

まぁ……スーツでも着る?ビシッと決めて別人のように振る舞おう。


幸い服程度なら虚から創り出せる。此処では私はある程度なら本来の力を行使できる。記憶というものの用意されているのは演算された結果のみではなく過程もあるからな。制限がかかっているが明晰夢のように少しは事実を捻じ曲げられる。

現実のグゼみたいに巫山戯た機械はつくれない。だがより本質に即した能力を扱える。

でも雑魚いぃ……。正直天使とかには無力だ。

会いたくないな。この世界は絶賛天使襲来中なんだろう。だったらあの時の…………ルシフェル!


 ルシフェル……あのときの怪物は彼奴か。記憶を取り戻している癖に今更すぎる気もするがちゃんと確かめないと気付けないこともあるんだ。

 まぁ、どうしようも無いから……こう?なんともおもわない。だって今はネロイズムに服している感じだからこれくらいなら平気……?


そういや……スーツが創れない。能力が使えないとかでは無くって分からない。形が。明確なイメージが湧かない。

…………スーツって何だったけ。

黒かった気がする、いや……白かった気も…………。

そもそも服なのか?

スーツ……適当に作るか。


所々黒くて白くて首にリボンをつけていた気がする。ボタンで服は留められて前は閉じていた。裁断された生地が服の形を保って其れは布ではなく服だった。



創り出した鏡を眺める。

私の全身が映っていて仄暗い服が見える。 

ズボンと簡略化した外套。長袖。肌は手と頭以外には見えない。 

胸元が白く他は暗黒。白い首に夥しい数の緑のリボンが巻き付いている。


「ほぅー。かなり良いのではないかな」


センスがいい。自画自賛ではあるが格好いいぞ。これなら大丈夫だ。根拠は無いがワンピース一枚よりはマシだと。


鏡を消し今度こそドアを開ける。

微小な熱量ながら重いノブを回す。


…………そんなことだろうとは思っていた。正直世界は殘酷で醜いと信じていた。だから記憶を注がれても平然としていられた。人間なら廃人になること間違いなしだろう。

私は美しく綺麗な物が嫌いだ。

其れを好んでは本能のマリオネットではないか。人であることを求めはしたが歪な自身の欲求に吐き気がした。其れすらも模造物尚且つ本能的と知って絶望すらできなくなった。


其処には博士と他の職員、研究者がいた。

私には気付いていなく一方的な干渉だけが可能かのかと思ったが違った。彼らは世界を救う研究、言ってしまえば無謀なことを行っていた。

私の目を持ってしてみればこの部屋の資料は全て閲覧できた。


資料によると…………

私、マリーは兵器であり救世主たることを求められる。彼らは其れを叶えるべくこの社会の頂点、ニュークリアスと言う存在に指示され其れを執り行なう。従えばある程度のこの世界における最高の安全保障が得られるが叶うまで生涯を此処で過ごさなければならない。


そうだったのか……別に構いはしない。

愛し……生きている彼らが生物として形状の保存を理念に行動することは許容範囲内だ。

重要なのは彼らが私をどう思っていたか……だ。


中に入りドアの前で立ち尽くす。六人いる。

 

如何にもな研究室、時々出入りする職員のおかげで垣間見た研究室。机と椅子が複数あり幾つかには人間がいる。博士と研究者が複数名。

見知った顔がいる。


話をしているようだ。気付かれていないのを良いことにして盗み聞きすることにした。

博士の声が聞こえた。



「我々の計画は破綻し尽くし最早人類すらも生物モデルが崩壊した。汎化された基盤を下に永らえるも長くは持たない」


「博士……わたし達は開発を止めるべきでは……」


「僕は……彼女が余りにも可哀想だと思います。イスラフェライさん。貴女はこの部署に最も於いて聡明だ。故、貴女は心を死なせている。そうで……そうなんでしょう?」


「レーデル君は黙っていて、私は博士と話している。解るか?」


「…………」


「君達はよく喋る。あまり好ましくはないが人間性を保つには最適解の行為でもある。そして儂は人類を裏切る。」


「「「「……!!!」」」」


四人の研究者達が唖然として黙りこくっている。ふふっ! 初めて見たわ!

いつも飄々としてドジは踏むけれど落ち着いて威厳のあった彼らがぁ!

こんなにも自由ではなかったのか……。

培養槽の中の私は自由を望んでいた。其れは此処から逃げ出したいなんて事ではない。もっと寄り添えるなら彼らと手を繋ぎ抱き締め合いより深い愛情を育めると信じていたから。


今では自由でなくて良かったのだと思う。

きっと私にとって夢があったほうが幸せだったのだろうから。




 








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