日常(2)
自身の部屋に戻ってきた。
私の部屋は机と椅子と寝具以外には何も無い。
硬い床の上に其れ等を置いただけ。最初は色々な家具があったが全てカミーアさんに退けてもらった。家具が沢山あれども気が散るだけであるし機械を置くスペースが欲しかったので要らないものは退けた。
シンプルイズベストでは無いが不要な物は不要なのだから要らないと思う。
「はぁ……」
部屋の中央から隅に寄って椅子に腰掛ける。体温と椅子の温度の差が大きくって腹を下しそうだ。
待ち受けに外を眺めているとヒューと風が通った。
冷たい。湿り気のない空気が唇を乾かし冷える。素足に気持ちのいい感触が伝わる。
薄暗い。
「朝か……」
一瞬はためいたカーテンからはっきりとした外が見える。此処を発ったときは夜だったかな。どうだったっけ。憶えていないな。
朝だったような夜だったような……思い出せない。
明るく暗い光が窓枠に掛けている布から漏れ出す。幻想的で美しい。柔らかな光が部屋に浮かぶ塵や埃を照らしていた。
青く白く美しい。
ちりちらと舞い、落ちて行く。
風が吹いては巻き上がりまた落ちていく。
茫然と其れを見た。心が満たされた気がした。
気の所為だったらしい。胸が苦しい。心臓が痛い。不整脈とは違う痛み。というか私には心臓が無いが心臓が破裂しそうだ。なんか……体の中で何かしらが暴れているかのような感覚だ。不快である。
どうすることも出来ず蹲っていると胸に別の違和感が現れた。液体が伝うみたいな……冷ややかで生温い蛞蝓が胸を這うように。
気持ち悪い。胸辺りの服を掴む。
血が滲む。
吐血はしない。胸の胸骨あたりからじんわりと生暖かい赤い血が滲む。
「あ」
服が汚れてしまった。
赤い染みがついている。お洒落に見えないことも無いが気に入らない。服を脱いで機械に放り込む。元素くらいに分割され再構成された服が元の姿を取り戻し機械から出る。それを手に取り着る。
暑い。だが寒いので構わない。むしろ有り難い。服に包まれた体がポカポカとしている。暖かい。
血の染みは完全に消えたが未だに血は滲んでいる。胸からではなく手先や足先から。
滲み出した血の色が赤から緑へと変わっていく。血は止まらない。明らかに私の体積以上の液体が出ている。沼のように拡がる私であるはずの物はどんどん大きくなっていく。
これもまた汚い。掃除用の機械で片付ける。
綺麗にはなるのだが私から溢れる液体が止まらないせいで汚れが消えない。
「どうしようか……」
首を傾げて周りと自分の手を見つめる。表皮からトクトクと液体が湧き出す。洗っても一向に湧出が収まる気配はない。
…………
……
何故緑の液体が止まらないのだろうか。根本を解決しよう。そうしないと解決出来ない気がする。掃除しても一時的に片付いただけだったしね。
手を握ってみる。水を含んだ雑巾を搾るように強く。それを意に介さない液体が淡々と湧き出す。握る手の中と握られた手の中に何かが蠢いた。ギュルギュルと皮膚と肉の狭間を彷徨う。
摘出してみるか……
「試しに……ぅ」
手を軽く刃物で開く。血は出ない。
表皮のみを削ったのでピンク色の私が見える。
刃物を緑の液体が湧き出すところに刺す。
肉が細長く蠢く。とても気持ちが悪い。
「ぅうッ……」
痛い……が今までのに比べたら大した物ではない。刃物を抜く。血が出た。体内で血流を操作しているので多くはない。
手の中に手を突っ込む。
居る…………掴まえた。
強く握り締めて手を抜き、瞬時に剔った方の手を治す。
手を軽く開き見る。
寄生虫? 半透明の細長い暗緑色の何かしらがビタビタと私の手の中で暴れている。
手の付け根から中指までくらいの大きさ。
逃げたら面倒な気がするので瓶に詰める。
跳ねては落ち着いてを繰り返している。
やがて死んだのかそれは止まった。
ゆっくりと緩やかに動きは遅くなり少しだけ溶けて。
液体が私から漏れなくなった。
「ふふっ!」
さてと何をしようかな……。直ぐには思い付かない。手を振ったり握ったりしながら布団に座り込む。
「手の調子は良いな……足は」
問題なさそうだ。ゆっくりと指を開いては閉じた。
ふと、……。
……?
病が満たされた。赤き印のなき床されど神秘こそは
赤い紙が私の布団にあったもので思考が止まった。裏には何も無い。
「待て……寄生虫は?!」
瓶を見る。
………いない! 何処だ!
瓶は閉じた侭にしておき、索敵機械を起動する。
起動。
索敵対象を私の手より少し大きいサイズ以下にし星全ての領域を探索する。
……動いているものは98億個くらいか……絞り込みを質量を追加し再探索する。
いた。
丁度私の後ろだ。
「死ねっ!」
私とて雑魚ではない。この星くらいなら消せる。多分。私の放った音速に加速された肉塊が翔び立つ。部屋の中はエネルギー障壁で保護している。ある程度のエネルギー以下では無傷だ。私の即席攻撃手段では壁は超えられない。
やっと振り向いた首で敵を見る。私に寄生したならば問答無用で敵だ。せめて話でもしろ。そもそも不快である。
緑。
「ワたしダよ??…!」
私?確かに似てはいるが偽物だろうな。
身体を削り取る。びちゃびちゃと半透明の体が吹き飛ぶ。損傷は大きくない。かなり丈夫だな。
組成は……この世界の物質では無いが大体同じか?物理法則が通用するようだし戦術はこのままでよろしいようだ。
「コロサなイでぇ、、!」
敵が髪を弾き飛ばす。屈み、避ける。前転し距離を詰め自身の足を削る。自己暗示、催眠。意識を抑え込み過程を除きとる。
機械作制。
創り出した機械を相手の足に突き立てる。下から突き裂かれた相手の足が面白いほどにぐじゃぐじゃに弾ける。
「爆燃」
「あいし?」
周囲と化合した敵が別の物質へと変わる。余剰エネルギーが溢れ出し辺りを覆い尽くす。
……障壁は破れていない。手で床を触れば分かる。凸凹が無く綺麗だ。本来の物理耐久と熱量が対抗すれば此処らは消し飛んでいる筈だから。
散った自信を掻き集め復元した眼球で敵を見据える。白黒の視界が陽炎で揺らめいて何も識別できぬ。見え……見える。
……まだ生きてる!
緑の液体が人型に戻ろうと蠢いた。気持ち悪い。
「今度こそ消えろ!」
即座にそこら辺に転がっていた知らない機械を再加工し相手を構成している残存物質を消滅させる工程を作る。
異空間に穴を空けこちらとつなげる。
黒い孔がお空に大きく拡がる。
「失敗作だな」
大きすぎ。こんなには大きくなくていいが彼奴を殺すのが先決だ。
異空間に穴を開ける作業は普通なら自信を納得させるのに何日かかかるが今はい……良いな。危機的状況において覚醒したとかでいい。
短縮には嘘で塗り固められた機械を作るのが一般的。
今回は要らない。
超能力とかいう未観測現象かオカルトな事象をそこらの土塊で作成した機械で起こす。
「私ダよぉ……グッ」
「墜ちろッ!」
サイコなキネシスで持ち上げられ墜ちるように孔に入れられるアレ。異空間から情報が漏出してきた。景色が異世界のそれに変わっていく。
「早くッッ……帰れ!」
孔に完全に入ったアレがこちらに来れないよう敵の自己を崩壊させる。いや……自我が正しいか?……今はそんなことはどうでもいい。
対象の思想に調律した理論を思考野に送りつける。漏れなく知性、情報処理能力があれば発狂もしくは自壊し死ぬ。
私の本質は機械を作ることには無い。故に何でも出来る。理論上はね。実現は厳しいというか……したくないのだ。
制限があればいける。今はそうだ。
相手の体内に超能力で干渉し記号的な情報と暗号解読文を作成し解かせる。
もういいかな?
孔を閉じる。華麗に、美麗に美しく。
綺麗に跡形もなく孔を閉じる。
そうしないと歪で世界が潰れる。
そう云うセカイなのでね。
危ない。
「控えめに言ってやべーな……」
後遺症と言えば分かり易いかな。
吹き曝した情報が辺りを汚染している。
ファンタジーな感じとかなら問題ないのだがどう見ても重大な損壊。メコメコ地面が盛り上がる。
空気が光る。ふわ~っと一部が暗黒に包まれる。
謎の非合理的な形の生物がヨチヨチ歩く。
「ああ~。もう諦めようかな……」
もう止めだ。私には無理ですね。
別世界の法則を修整して此方に合わせるのは無理。出来るとしてもめんどくさい。
汚染が悪化しても更に困るだけなので隔離。
転移装置を取りに歩きに行く。
……アレは異世界の物質。
間違いなくルシフェルの……。
考えるのはよそう。事態が悪化するだけだ。
魔力とかいうのがあるせいで。
自己中心的な欲望は良い。だがそれが無秩序に叶えば世界は滅亡する。だがそれを棄て去っては人間として生きていけるのだろうか。
だからこそ死んでしまうんだ。
愛されたい。自分以外に……。
見つけて欲しい。私を。
何を書いたらいいのかなぁ




