もしかして?
この拙作を楽しんでくださると嬉しいです。
カミーアが消えてからかなりの時間が経っていた。手持無沙汰だった私は部屋を調べ始めた。
私が調べたところ辺り一帯白一色、機械に刻まれた怪しく蒼く光る文様が無彩色の視界に僅かな彩りを与えてくれる。機械は多分機械だろうなってくらいで実際そうかは分からなかった。でもそれっぽいので便宜上機械と呼ぶ。
大半の機械は私が触れても動かなかった。そもそもどうやって起動するのかすら分からないが。だが一つだけ私が触れると起動する機械があった。全ての機械に触れた訳では無いのでただ一つかどうかは分からない。宙に浮いている機械なんてどう操作するのだろうか。
私が触れると起動した機械は文様の光を今までずっと蒼から赤へ、赤から緑へ次々に色を変え続けている。起動したとは言ったがまともに動くとは言っていないんだよな。
結局のところ私は何も操作することは出来なかったのだ。出口も探しはしたものの見当たらない。
「はぁ……どうしようか」
思わずそんな言葉が出た。実際部屋から出れないのでこの部屋にて消えたカミーアが戻ってくるのを待つしかないし。信用に足る人物かはまだ分からない。なんとなく悪い人ではないと思うけどね。お話しようと言ったのに消えたのは急用でもあったのだろうか。
そう思っていると壁面に穴が空いた。
ひとりでに、私が部屋をぐるぐる回りながら思考しているときだった。ピコーンという音が穴が空いた方からきこえたのですぐに気がついた。音のした方を見れば穴が開いているのが一目でわかったからな。
勿論、私は穴を見つけたときは、驚きつつも喜び、直ぐに穴を潜った。
結論から言うが、穴の向こうには出れたものの動ける場所が増えただけだった。
詳しく解説すると……私が穴を潜ると少し開けたところに出た。
意味もなくルンルン気分でスキップしてそこら辺を探索して大体全部見終わったかなーと思っていると近づいた途端に開く壁を見つけた。
自動ドアだ。シュパッ。
そうだとしたら、この先に何かあるはず。
そう思い至った私は四角に開いた壁を通り白い回廊に出た。
回廊には蒼く光る文様が幾何学的な模様を随時描き、それは消えて行く。気になった私がそれに触れると模様が消え、私の手に模様が刻まれていく。私はそれを見てさっと手を引いた。結局のところ模様は時間が経つと剥がれ落ちた。剝がれ落ちるまではかなり焦ったが。
そんなこともあったが回廊を何度かぐるぐるまわりながら私は座り込む。
「もしかして……出口ないのか?」
そして今に至る。期待した分落胆は大きかった。あと、転移して来たときの地面には何もなかった。最初の部屋に戻って見た。ちょっと期待した。残念だった。
私が機械のある部屋でそんなことを思い返していると、浮遊している機械群が一斉に部屋の壁面へと整列する。
何事かと思いつつ観察していると、機械が除けられたことで空いたスペースに空中からいきなり現れた紅い液体が球状に集まる。
私はその様子を眺めつつ、ふと思うのだ。
どうしようと。
その間に紅い液体は発光しできた紅球はますます大きくなり空間を占有していき地面に設置された機械を飲み込んでいく。内部から凄まじい音を立てて。
このまま紅球が大きくなれば液体に飲み込まれる。そうなればどうなるか分からない。未知の物には細心の注意を払うべきだ。怖いし。
最悪の場合は液体だから溺死若しくは身体の融解による絶命などが考えられるが、なんか音からして圧縮されそうだ。意外だなぁ。
善は急げ、私はそう思い至った。瞬間私は部屋の穴へと全速力で機械を避けながら向かう。機械の合間を縫って走る。素足に冷たい床の感触が伝わる。結構穴までの距離は近かった。いや私が速かったと言うべきか!
あと少し。私は手を伸ばし穴に入ろうとした。だが直ぐ後ろでは急激に膨張したであろう紅球が機械を呑み込む音が聞こえる。
心臓の鼓動があり得ないくらい高鳴っている。
何もかもが遅く見えた。私は命の危機に瀕し集中状態に入ったのかも。
今の私なら絶対に間に合う!そう確信した瞬間私はあっさりと紅球に呑み込まれる。
紅球は私を優しく内部にネチョっとした感覚で受け入れ、中心にある黒いまるで降着円盤を無くしたブラックホールのような何かに誘う。
機械が続々と小さくなっては黒いのに音を立てて吸い込まれて行く。私も例外ではないようだ。
「えぇえっ!まじで死ぬっ!やばい溺死とか融けるとかそんなレベルじゃねぇぇぇぇ!!」
叫んでも意味はなく黒い何かと私の距離は近付いていく。
畢竟するに私の抵抗虚しく、黒い何かに足が呑み込まれた。最早腰まで収納されている。
時間の問題。もうすぐ完全に呑み込まれる。
こうなったらもうなんでもいいから助けてくれ。
私はそんなことを叫びながら呑み込まれる。
ついに死んだか。そう思わずにはいられない。だって自分より硬い機械が凄まじき音を立てて呑み込まれていったのに自分が押し潰されてないわけがない。死ぬ時は多分一瞬だったので気づかなかったんだろう。ラッキー?
「ふーん」
私はクルッと回って周囲を見渡す。
辺りは一面の青々しい草原と白い雲が混じった晴天だ。美しい、楽園という言葉が似合いそうだ。もし私が死んだとすれば天国だけどね。
いやぁ怖い体験をしたよ。吸い込まれた部位の感覚が消えていくのは恐ろしかった。痛く無かったのはまぁ……?
まあ、全然記憶がないけど、私は多分天国に行けるような人間だったのだろう。
カミーアさんにはお世話になった?けど、いきなり消えられたらお礼も言えないし、そのくらいはいいよね。うん。
私がそう思っていると空から人が……えぇ本当に?
私が目を凝らして人を見ていると、声が聞こえた。
「グゼちゃーん待ーたせて、ごめんねぇー!」
カミーアさん?赤い髪だし同じ声だしな。ついでに機械が私の頭上に降ってくる。
もしやここ天国じゃない……そしたら私まだ死んでない?
「やったー! 私まだ死ん……痛っ」
声を出して私は喜ぶ。痛いが生きてるって素晴らしい。カミーアさんが赤い巻き毛の燃えるような長髪を風であそばせてこちらに飛んでくる。
「そんなに喜んでどうしたの? 取り敢えず……待たせてごめんね。他の人とさ、会ってきたんだ。中々失礼な方でね。私自身も人と話し慣れてないせいなのか長びいてね。まあ今となっては過ぎたことよ。こっちに来て」
カミーアさんは地面に降り立ち、凛々しい感じで歩いている。まあ、取り敢えず付いていく。行く宛もないしな、悪い人じゃ無さそうだし。根拠は無いが。
スタスタスタ。てちてちてち。
前者がカミーアさんで後者が私だ。どっちも歩いているが、私は足が上手く動かない。何か抑えつけられてるような。
それにしてもカミーアさん速い。というか私の全速力より速い。走ってクタクタになって置いていかれそうな私が言う。
「カミーアさん……はぁはぁ待って速すぎて……はぁ追い付けない。私と歩く速度を合わせてくれない?」
「だったらこうした方が速いよ。後……強制はしないけどミーアって呼んでくれたら嬉しいなぁ」
カミーアさんは私に近づきそう言うと、スッと私を持ち上げ物凄い速度で空中を飛んでゆく。景色が移るのが速すぎてブレて見える。
今度は速すぎる。私の心を呼んだのかカミーアさんは速度を緩める。
だが急に速度を緩めたせいか頭がクラクラする。暫くすると自然に治ったが、急に止まると怖いなと思っていると、どうやらついたらしい。
カミーアさんが地面に降り立ち言う。
「ついたよ。グゼちゃんにはここで生活してもらいます。後……別にミーアって呼んでもいいのよ……敬称もつけなくていいから」
またしても心を読まれている。
催促がちょっと悲しげだが、何か馴染まないのでカミーアさんと呼ぶことにした。
辺り一面草っぱらの景色の中、ぽつんとした感じで周囲の景色から浮いているごつい洋風の倉庫が建っている。
えっ、私何から何までお世話になっているけど倉庫に住むの?
まあ中を見ないことには……失礼にも程がある。
カミーアさんが言う。
「ええ。もうカミーアさんでいいよ……まあ見た目は倉庫だし中も倉庫だけど、グゼちゃん魔力がないから魔術機械使えないし、魔力も弾くから、物理的なものしか扱えないのよ。だから一旦は此処で暮らしてもらうわ。ごめんね急ごしらえで、これくらいしか古代建築の設計図が無かったのよ」
まあ理由があるなら……偉くものを言える立場にも無いし甘んじて受け入れるしかないか。
別に雨風は防げるだろうし別にいいんじゃないかな。そう思って自分を納得させる。
もしかしたらまじでただの倉庫で研究材料として仕舞われるかもしれんが、それだとしたらさっさと監禁されているだろうし多分大丈夫だろう。
カミーアさんが倉庫に向かって歩きながら言う。
「中には簡単な家具があって仕切りで囲っているから実質部屋だし大丈夫! 何の心配もいらないわよ。雰囲気で飾ってあるものがたくさんあるけど気にしないでね。何かあればミーア〜って叫べは来るから安心してね。」
催促はまだ続いていた。
ゆくゆくは自然とミーアと呼ばせたいのだろう。何故拘るのだろうか。不思議だ。雰囲気で飾ってあるものと言うのが怖いが……まぁ多分大丈夫そう思うことにした。
私は倉庫に入った。
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あれから十日ほどが経つ。
倉庫に飾ってあるものは怖くて見ていないが倉庫の中は綺麗だ。
というか毎日カミーアさんが作り替えている。理由は聞いてもよく分からなかったが魔術をあまり使っていないので安定しないとかそんなことを言われた。
そういえば魔術ってなんだろうか。どうせ考えても分からないと思う。分かっていることが少なすぎて。気になるんだけどな。
まあそれはいいとして、結局監禁されたりはしなかった。
ご飯は何かゲル状の魚みたいなのが出てきて戸惑ったが、空腹に堪えきれず食べてみると普通の魚の味と食感がした。凄い違和感があったが味は美味しかった。
家具も普通で生活には困りはしない。毎日カミーアさんが作り替えてるけど。
そして今日私はカミーアさんについに質問した。
「魔術とはいったい何なのですか?」
カミーアさんが答えた。
「えっ……使えないのは知ってたけど、どんなものかも知らないの? グゼちゃんってもしかして?」
カミーアは困惑した様子で言った。
その後説明を聴いたが、不思議すぎて?しか浮かばなかった。