今度こそ戦う
毎日投稿って難しいね。
約束事ほど直前になって気が滅入るものはあまり多くはないだろう。約束を極めたばかりの頃はまだ意気揚々とそれを敢行するつもりではあるが次第に着々と期日が迫るほどに面倒という気持ちが強まる。
私はアレと遊びに行きたくない。
よく考えてみよう。
作業をしていたところ突如現れた知らない人。
その人は何やらおかしな事を言って、いきなり怪物に変身した。
それだけなら魔術が使えるこの世界の人類なら許容範囲内かもしれない。
まぁ、初見の人に知り合いみたいな態度で迫られたのは少し怖かったが、未だに名前も知らないあの私を攫おうとした人に比べればマシではある。ふぅん、その程度ね。といったような。そんなものだ。
それで、問題はここからだ。
アレは謎の能力を使った。
それは異常なことだ。この世界において私が知っている限りではあるものの主な能力……正確には技術は三つある。
一つ目は魔術だ。カミーアさんなどのこの世界の人類の間では最もオーソドックスな技術だ。簡単に仕組みを説明すると現実改変が最も近しい表現だ。未だによく分からないが。
二つ目は古代技術だ。この世界で二番目にオーソドックスな技術。現生人類でこれを使うものはいないと言っても嘘ではないほどに使われていない。無駄に難解な割に操作難易度が魔術と変わらないからだそうだ。効率が悪すぎるとのこと。別名科学技術。
三つ目は私が作成する機械。正しくは私自身だ。私でもよく分からないが別の技術というかなんというか……謎だ。
つまりだ。アレの能力も謎、私の能力も謎。
ということは……もしかしてアレと私は同類のナニカなのでは?
目も同じように瞳が十字に裂けている。それにまるで知り合いかのように私に接してきた。
まぁそれを確定するには情報は全然足りはしない。それでも……いやそれだけでも会いたくない。
私は中途半端な記憶喪失だ。微妙に喪失前の記憶を思い出すが実体験的な記憶は無く情報ばかりを思い出す。天使とかが最たる例だな。
もしもアレ、自称天使が記憶喪失前の私の知り合いだとしたら途轍も無く面倒だ。
相手は私のことを知人として扱うが私は相手を他人としてしか扱えないのだ。これは会話や意思疎通に重大な齟齬をもたらすだろう。これは単純に話しづらいし気まずい。とても嫌である。
実例としても先程も相手は私と会話が少し噛み合っていないように見えた。次回も説明を十全に行わなければまたそうなるだろう。
次に逢ったときには私が記憶喪失だという旨をきちんと伝えておかなければ。そうしないとまたもや前回のようになってしまう。
それだけは最低でも避けておきたいところだ。反省を活かさぬは恥だ。其れができる場合に限り。
そも、どう伝えるのがベストだろうか。伝え方にしても色々ある。適当に言ったとしても相手は冗談と思って信じないかもしれない。真面目な口調で言ったとしても相手はやっぱり信じないかも。
というか人違いと言っても信じなかったのだから記憶喪失でも…………流石に信じるかなぁ。でも何の確証も持てない。行きたくない……
かと言って約束を反故にするのは良くない。特に相手が知らない人で事情を説明しなければならないし、可哀想だ。私はカミーアさんだとしてもある日突然記憶喪失になって私のことを忘れてしまったら嫌な気分になる。相手も漸く見つけた知り合いが記憶喪失なら悲しいんじゃないかな。知らないままでいるよりかはしっかり知ったほうが良いのか……なぁ。いや伝えた方が良い。それは……知らないと駄目だから。
……何と言えば良いだろうか。それは物事についてはっきりと知りたい欲求というか、詳らかにしないと落ち着かない、信じられないといったような、ものなのかな。
記憶喪失前の私とはゲーム仲間みたいな感じで仲が良さそうだったし? 尚更伝えないと行けなくては!
私は自身の情に則り面倒な約束事を守らねばと決意した。
密室を出て歩いていく。
夕暮れ時だった。
素足にみずみずしい青草が心地よい。足の指で気まぐれに冷たいそれを掴み歩いていく。歩きにくいけど。
照らす夕日が依然眩しくて謎の郷愁を覚えて不可思議な気持ちになった。落ちる方を見てみると橙色の星が美しく輝いて世界を焼いていた。夕焼けね。
其れが眩しすぎて網膜に光が少し焼き付いてしまったけど。
後ろからそよぐ風がありもしない記憶を思い起こさせる。冷たい風は冬の冷たい、寒い夜に誰かと何処かで一夜を過ごしたような何とも言えぬ、正に筆舌に尽くしがたき情景を思い起こさせた。薄着の私には寒すぎてお腹を下しそうだけど。
私は夕日に向かって進み行く。
そして疑問に思った。
「待ち合わせ場所は何処に?」
………………。
私は夕日を見て明るさに目を背けて振り返った。密室や倉庫が見えた。橙に暗い藍色に染まっていた。
さして距離は離れていなかった。
行きがトボトボと歩いていたおかげで直ぐに倉庫についた。照明のついていない自室は暗く、普段は此処にいる名無しのがいないせいか哀愁が満ちていた。
私は照明をつけ着替えた。
倉庫を出ると窓から飛び出た光がすっかり日が落ちて暗い風になった辺りを照らしていた。
私はその光と星明りを頼りにして野外に放置していた機械を回収しようと珍しく靴を履いて歩んだ。
今日はカミーアさんと名無しのは旅行に出掛けている。名無しのが外の世界を見たいと言ったので私からカミーアさんに伝えておいたのだ。気付いたらいなくなってた。気付いたのは朝だった。正確に言うならば昼前といったところが。
私は機械をコロコロと転がしながら想起した。
そう、朝起きたときいつもならカミーアさんか名無しのが先に起きていて料理を作ってくれている。でも実質私の機械が料理を作っているので私が作っているようなものだけどな。
それで……今朝は誰も料理を作っていなかった。
別に然程違和感なく起きてご飯を私は食べた。
思えば今となっては此時にも気付くことは出来たと思う。
まぁ、でも段々と違和感が現れてきた。
具体的に言うならば何処にも居ないのだ。
カミーアや名無しのが。いつもなら一日に沢山見かけるのに。それは三歩歩けばどちらかと会うほどに。
だが今日は何歩歩もうと二人に会わなかったのだ。でもその時の私は今日は珍しい日なのだなと思ってあまりは気にしなかった。全く気にならなかっと言えば嘘にはなるが。
私が決定的に二人が何処かに行ったというのを確信したのは自室に置かれた置き手紙であった。機械の整備で汚れた手を洗おうとして自室に帰ったとき使ったことがない机の上にそれは置かれていた。私は手を洗い、乾かしそれを手に取った。それにはこう書かれていた。
グゼちゃん、私達カミーアと名無しのは旅行に行きました。グゼちゃんの申し上げでそれを名無しのに折り返したところとても良い結果を得られたので行きました。ばいばい☆
行き先は座標ajmt_1589966887abnの星です。
そちらの時間で三日ほどで帰ってくるので待っててね!
そう確かに書かれていた。
私は目を見開いた表現し難い音を喉から鳴らした。驚嘆した。まさかカミーアさんが私を誘わずにそんなことをするとは思わなかったからだ。でも割とどうでも良くてその時はそれを読んだあとに机に置いて外に出た。
「おや」
どうやら向こうが迎えに来てくれたようだ。
「私の名前はルシフェル・ルアルクシス。神を褒め称えるのに飽きた熾天使だ。職務怠慢と同僚によく言われた。気に入らないので殺したが神はまた同じものを作った。面倒くなってゲームに嵌まった。自己紹介終わり!
早速ゲームしようぜ!!」
戦うはずだった。プロットでは




