決戦!灼星の熾天使
「久し振りだね〜! 元気?」
私が外にて服を作る機械を作っていると後ろから声が聞こえた。声量からして随分離れているのかと思ったのだが……私が機会を作る手を止め振り返ると女性が直ぐ側に立っていた。
私は気まずい雰囲気で居た堪れなく聞いた。
「お前は誰だ?」
女性は心外なのだろうか目を見開いた。目の中にはギョロギョロといくつもの瞳が別々に蠢いていた。気持ち悪いし恐ろしい。
やがて落ち着いたのか一つにまとまる。瞳孔は十字に裂けていた。私とお揃いだな。こんな人外とは嫌だけど。
彼女は大きく笑って喋った。
「おかしいなー。ふふっ、君に手折られた天使だよ。覚えてない?」
天使?
とても記憶にあるそれとは何もかもが違うけれど。少なくとも人型の天使はいなかった。基本的には獣や幾何学的な形をしていた。だが私の目の前に立つ自称天使の女性はどうみても人型だ。
彼女が嘘をついているのか私の記憶が完全では無いのかのどちらかだが……何れにせよ危険な人物であることに変わりはない。要注意だな。
私は警戒しつつ相手が変な気を起こさぬように振る舞った。
彼女はきっと口を結びパチッと指を鳴らした。
「疑ってるの? じゃあ本当の姿を見せてあげるよ」
そう彼女が言うと地面に垂れる程長い髪から巨大な蛇が出てくる。彼女は段々とその蛇に取り込まれ蛇は生物としては破綻した形へと変化していく。
口はなく、顎は宙を舞い、裂けた腹からは水晶のような骨が飛び出し内蔵の類が一切見えない。ただただ爛爛とした十三の裂けた瞳と翼のみが力強く存在感を発している。蛇が直接は繋がっていない翼を音もなくはためかせた。
風が起こりもしなかったのに草が伏した。
空からは雲が消えた。
急速に夜の帳が下りて、宇宙の星は溶けた飴のように崩れ落ちていく。
「そういやなんだけど人間態は見てないんだったね。すまんすまん。でもこの姿! ほら思い出せない?」
何を言っているのだ。私はこんな怪物を見た覚えはない。私は訝しんで考えた。
此奴をどうにかするのに使える機械は……
「申し訳ないんですけど人違いだと思います。他を尋ねてください」
すると蛇は人型に戻り此方に近付いてくる。
世界は元に戻った。あっさりとね!
彼女の目は怪しく煌めき言い知れぬ活力を感じさせる。笑みは不自然な程までに深まり、頬は赤く紅潮しとても機嫌が良さそうだ。深い笑みから覗ける彼女の歯列から彼女が人間ではないことが分かる。その歯は完璧に整列しているが犬歯のみが蛇の牙かのように細長い。
それしても何故こんなにも彼女は興奮している様子なのだろうか。興奮した奴は危ない。
それに知らない人物は何をしでかすか分からない。私がそう思い手を腰につけている転移用の機械に回すと彼女は口を開いた。
「人違いではない。君は間違いなくあのときの神性を持った存在だ。私は君が異世界転移した際の痕跡を辿ってこの世界についた。君がどこにいるのか調べるために部下をこの世界に何度か派遣して見つけたんだ。……」
私は話を聞くフリをして転移用の機械を起動した。行き先は……倉庫の機械だ。
私が機械を起動すると周囲が眩い光に包まれ陽炎のように世界が歪んでいく。
彼女はあっと驚いた顔をしている。
世界が渦巻き捩じ切れる寸前にニヤリとした彼女の顔が見えた。
「これはこれは趣向を変えてきたか。久し振りに楽しめそうだ! やはり主様と――」
私はそんな言葉を小耳に挟みつつ、いつの日か使った機械に乗る。時間が無い。急がないと。
改修に改修を重ね当初とはかけ離れた見た目になった黒いフレームの機械に思いを馳せる。
(思えば…………積もる思い出はないな。便利なのには違いないが大きすぎてな……)
私は特に思い出がない事実に何とも思わず、普段使いの不便さを考えながらコックピットに乗り込む。
一概にコックピットと言ってもその実態は異空間への転送装置だ。私が中に入り起動トリガーを指で格好つけてパチンと弾くと異空間に体が転移し、操作UIが表示される。
その前に一旦処理機構が開始される。
続々と入れ替わるウィンドウと共に機械音声が共振フレームから紡がれる。
【ARCANA__SYSTEM!】
【起動中……魂の認証、完了】
【神経接続を開始します。意識の所在にご注意を……完了しました。外枠展開形態を入力してください】
外枠展開形態はどういった形態をとるかを一々決めずにある程度省略するためのものだ。
フレームエキスパンションフォームだ。
これを決めるのには入力コードがいる。
それはかっこいいからそうした。と言うのは冗談で本当はどの形態がどんな物か分かり易くするための認識コードのようなものだ。
例えば前回の入力コードは【GIGANT】だった。大きい人型ならこの名前だろ!ということでこのコードにしたのだった。そのまんま巨人って意味だね。見ると大きい人なんだろうなと分かるよね。……わかる筈。
それで今回のコードは【BLOOD】。そのまんまの意味で血だ。前回同様に名は体を表す。つまりこの形態は血のようなものだ。常に脈動し蠢き決まった形は持たない。ただただ管を押されるがままに死ぬまで宿命が所為に進み続けるだけ。
そんな感じだ。いや……結構違うかもどんなのだったけ。思い出せぬ……やはり只の格好つけだったか……
そもそもではあるが、この機械はフレームと赤い液体、もとい超微細構造連結機械によって大半の部分を構成されている。
このフレームは特別製で物理的な丈夫さはあまりないが周囲のエネルギーを奪いそれによって自身の形態を復元し続けるため壊れることは多分ない。
要するにどんな圧力や熱が加わろうと意味はないのだ。つまり無敵! 多分!
でもそのせいで不用意に乗り込むときに機械が起動中だとうっかり触ると触れた部位が安定しようとしてその弾みで死ぬ。怖いね。
で……超微細構造連結機械は……長いので赤い奴と呼称するがこの機会の主動力である。非起動時は異空間に収納してある。嵩張って邪魔だからね。それで赤い奴に特定の刺激を与えると動く。元々は動くスライムを作ろうとか考えた結果に出来た産物であった。あったのだが出来たスライムがペターっとし過ぎてイメージと違ってお蔵入りになるかと思ったが動力に使うと大変便利だったので今は一つ残らず機械の動力と化している。
刺激を与えると動くという話だったが、この機械の動作機構はこれが刺激を受け取ったときの収縮、膨張を利用して筋肉のように駆動している。
動かす為の情報を伝達する際はフレームから出力される赤い光、実際は光では無いのだが此処で説明するのは面倒なので光としておくが、それによる九十七パターンの刺激とフレームから随時流れる電気の強弱を判別してどの程度の力を出すかなどを決めている。
更に赤い奴は宙に浮いているので無理な挙動さえしなければその巨体に見合わぬ動作も可能である。
とても高く跳躍したり、頑張れば空も飛べる。
そしてこのコード【BLOOD】は赤い奴の操作と増産に特化している。全然、血みたいな挙動はしなかった。
その証左として今、私の脳に投影されている視界からはフレームが赤い奴を絶え間なく吐き出し続ける様子が見える。
既に変形したフレームは巨大な骨髄で出来た蜈蚣の形をしている。本来の蜈蚣であれば呼吸を行う気門である穴からは赤い奴がなみなみと大地に注がれている。私が少し動くだけで赤い海はうねり渦巻き底の世界を削り取る。
赤い奴は地平の先までをも埋め尽くし、全てを赤く赤く染めている。
筈なのだがちょうど私の視界の中央に居座る蛇、とは言い難き怪物だけが純白を保っていた。
【aaaaiiiii.これは本気を出せるかも!】
怪物は私よりも遥かに小さくはあるがその存在感は此の場では何者よりも明らかだった。
興奮しているのかボトボトと落ちゆく目玉がグツグツと赤い海を煮え滾らせる。落ちた目玉は煙を引き連れて宙を舞い留めなく忙しなく動いている。
私はその間に赤い奴を増産しこの身に纏わせ中身を埋めこの機械の蜈蚣を強化していく。次第に蜈蚣の脚や牙、触覚は赤く染まり、厚くフレームで構成された背板すらもほんのりと赤く染まっていた。全身へと行き渡ったそれは増えた分を又入れようと全身の微細なありとあらゆる隙間から旧いものから順に赤い奴を血飛沫のよう激しく噴出している。
私は溢れた赤い奴を束ねて無数の武器を作り怪物に差し向けつつ、ゆっくりと赤い海の淵と其処らから赤い柱を天蓋へと至らせる。無数の赤い竜巻が空へと駆け上る。
ちょうど空がさんざめく陽光が赤さにより阻まれ黄昏時のような光に包まれた頃に怪物が止まった。波紋が広がった。凪いだ。
怪物は言った。
【神性開放:智慧の実の代償】
瞬間世界が歪んでいく。
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