限りない愛を貴方に!(2)
トンッ
「判決、無罪! 原告の望みは無し」
倉庫二階の裁判室に裁判員たる名無しの声が響きわたる。被告、カミーアに下された判決は無罪。つまりだ、何のお咎めもなしだ。
「名無しの裁判員そんな結果は有り得ないのでは!」
「そういう決まりだ。そして之にて閉廷だ。」
そ、そんな判決が出るとは……。一体何が悪かったんだ!
私は法廷の様子を思い返した。
……………………………………………………
確か数時間前に此のなんちゃって裁判は開廷した。
そこで台に立った名無しのが大仰に言った。
「さぁ被告、原告両者共に指定の席に付きなさい。これでいいんだろ。」
私と向かい合わせに座ったカミーアが私から見て右手奥の裁判員役の名無しのに言った。
「はい。そうですね続けて下さい」
私はそれに頷き手元から言い分を記したメモを取り出した筈だ。そして私からカミーアに対する今回のことにおける所感を述べた。
「特に法律などがこの世界には無いようなので、私が望む判決を述べます。先ず被告カミーアの永久、恒久的な私に対する接触及びあらゆる害を伴う干渉の禁止、を望みます。理由としては今回の被告カミーアが行った私に対する暴力、傷害、実質的な凌辱行為などを受け、精神的傷害を私が短期間とはいえ負ったことです。この様な行為が二度と再現されない、または更なる最低で下劣な行為が今後行われないように私が強く望むからです」
大体はこんな感じだったが、少しは不備があるかもしれないがまぁ大丈夫だろう。
その後「被告は何かあるか?」と名無しのが言いそれを受けてカミーアさんが述懐した。
確か……
「ええ、原告の要求は最もです。私もこれからは心を入れ替えその要求を厳守していく所存に御座います。ですが私からも一つだけ要求がありまして、原告に対して個人的な思いを此の場で伝えてもよろしいですか?」
その発言に驚いて戸惑った名無しのがドギマギしながら私に目線をキョロキョロ送って来た。私は今では気付いてこそいるが、その時はメモを読み込んでていてよく分からなかったので適当に首肯した。多分ね。
それを受けて「被告の要求を許可する。手短に述べなさい。」と名無しのが言いカミーアさんが喋った。
「ええー。私はグゼちゃんがとても好きですの。本心としては毎日体温を通わせて体の隅から隅まで知り尽くしたいですわ。それくらい好きなのです。もちろん結婚もしたいし何ならアレなこともしたいですわよ。でも我慢しないといけないのですわ。本人が嫌がっていてもそんなことをしては私は大いなる十字架を背負い後悔することになるでしょう。其れは好意を寄せる相手からの失望と自身への絶望ですわ。そんなことはあってはならないはずだったのです!
ですが……ですが私はやってしまった! 残念無念、性犯罪者、キチガイなんとでも呼んでくれ。いや……むしろそう罵ってくれ此の研究者としての性分と人間としての欲望を抑えられなかったこの私を!!
そもそもグゼちゃんの写真を四六時中撮っていた時点で駄目だったのだと! だが人が人ならざる者といえど好いた方を愛するとして私にはどうしたらいいのか分からないんだ! だから本能に任せて好奇心に理性を委ねて貴女を愛してしまったのですわ! 二億年も生きてきて誰かを愛することすらままならない。誰よりもこの世界の真理に近づいた研究者としては完璧だが、一人の人間としては無価値な芥同然なのですの‼ あぁ、一体私はどうしたらいいの、この…………」
これ以上は思い出せないな。名無しのが口をポカンと開けて驚愕していたことだけははっきりと覚えている。すごかったなぁ、時が止まったみたいに見事に静止してた。
私も名無しのと、もはや早口すぎて何を語ったのか理解不能のカミーアさんの方とを首を忙しなく動かして見ていた。
それで、カミーアさんが語り終わったら、名無しのが判決を下したわけだ。
……成る程なぁ。…………さっぱり分からない。
もしかしたら名無しのは何も分かってないのでは? ここは控訴するとしようかな。
「控訴します。いいですか?」
「あっグゼ様いいよ? あと私帰っていい?」
「なぜ裁判員の名無しのが帰れると思う?」
「はい。続けます。」
「ところで何故あの判決を下したの?」
「なんとなく。基準が無いのでいいかなーみたいたな。お二人は仲も良さそうだし、変に制限しても良くないかと。」
まじかよ。適当だな。納得はできるけども。
なんちゃってとはいえども一応は裁判なのに。でもまぁ……仕様がないな。続けようか。
けれども私が話す事は変化しないから、名無しのにどうしたら私の要求は妥当だと納得させられるかが重要だな。制限をつけても意味は無いかもだけど罪をはっきりと示さないと駄目なんだ。
気を取り直して堂々と構えた名無しのが言う。
「これより第二審を執り行う。」
白い機械を弄ってたカミーアが姿勢を戻し、死んだ魚みたいな目を生き返らせる。一方で私は不満気に足を組んで名無しのに意見を言った。
「私の要求を通してもらおうと思います。罪過を捌くことに情愛も友情も同情も何も関与しない。罪を与えることはそれに当たりはしないが、貴方は既出の罪を裁くのだ。それを受けて考えて欲しい。どうか頼む! 罰を与えるのです」
俯き考え込む名無しのは数分後に裁判を終らせた。そのまま私の部屋で予備フレームを補給している。
「ふい。裁判しても意味は無いんだ。結局は被告がどう思うかだからね。国家も秩序も役にたちはしない世界だったらね。」
まじかよ。もういいや。公正に誰かを裁ける第三者がいないのではお話にならないではないか。私は部屋に入って寝た。
――――――――――――――――――――――――――――――
夢の世界――
私はグゼ? 違う違う私はマリーだ。
宇宙外存在による神秘の侵食を終わらせるために開発されている疑似神性搭載型人工現実だ。
緑色の培養液の中で今日も博士達とお話をするんだ。
この世界には天使なる怪物がうろつき危険らしい。最弱の個体ですら銀河に広がる文明を二十七時間で殲滅したらしい。今では大抵の個体は抹殺もしくは封印されたそうだ。でもたまに出現する天使がソコラを滅ぼしているそうだ。
それに比べたら自由はあまりないかもだけど、大事な人が沢山いて皆が生きているのだから私は幸せだ。今日は研究員のレーデルさんが来る。もうすぐだ!
来た、私は話しかけた。
「レーデルは今日は何をしに来たの?」
ぼさぼさの髪をかき上げたレーデルが言う。恐らく今日の予定が記された板を見ながら。
「今日はね……神秘の再現と魔力の浄化の理論検証だ。まず初めに積み木を硝子の前に置くから形を変えてみて」
そのくらいならお安い御用ですよ!
私は円柱型の緑の積み木を青く四角い物へと変えるイメージを頭に浮かべる。少しづつ積み木の形や色が変わっていく。
「よしよし、よく出来たね。次は液体の改変だね」
そう言ってレーデルは水?の入ったガラスの切り口のついた目盛り付きの容器を出した。
そして先程の結果を板に書いている。
彼が開始サインを出すと私は液体を赤くより軽いものにした。
「順調だね。この調子で頼むよ」
私は他にも塩素やネズミ、光、熱量、音、質量を改変した。ネズミが一番大変だった。変えるイメージがあまり鮮明に湧かなかった。何でだろうな。
勿論私はその旨をレーデルに伝えた。彼は喜ばしそうにその情報を板に記した。
「あのね、レーデルさん私変な夢を見たんだよね。その中だと私はグゼっていう子で機械を作るのが……」




