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終末魔術文明のグゼ  作者: 黒幕スライム(作者名に意味はない)
異なる世界 異なる法則
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明け星

 緑の虹彩に瞳を中心に十字に裂けた眼球。肩ほどまでの白髪に、貧弱な首元の僧帽筋のなんたる虚弱なこと。

そんな私の顔らへんを鏡の中に見たが……何なんだ。

 あのどちら様ですか?って言いたい。顔すら覚えていないなんて思ってなかったし、そもそも思い出してどうするのだ、という話になってしまうが。いや、記憶を取り戻すことを取り敢えず目標にしよう。もしかしたら、何か偉大な使命とか背負ってるかもしれないし!

だったら顔について考えても意味がないだろうか。どうだろうか。いや、あるだろう。うーん…………

 

 私が逡巡している内にカミーアは鏡と私を持ち上げたままさっきの寝室らしき部屋の扉を足で開き外に出た。外はこれまた洋風の渡り廊下を渡っていく。

 

 とことこ歩いた末に彼女は不思議な模様が床に刻まれた部屋に入る。今のところ、されるがままだが力が強い相手に逆らいたくない。最悪ぶっ殺される。カミーアの出方を伺いつつ大人しくしていよう、そうしよう。確証は持てないが多分大丈夫というか、そうするしかない。

 模様の中心に着くと、彼女は私を持ち上げたまま私をさらに強く抱き寄せ、鏡を大きく天井にかざした。

 

「あ、今から転移魔術を使う。 行き先は疑似魔法式魔術光炉(わたしの研究所)。」


 彼女がそう言ったあと床に描かれた文様がピカッと光り視界がグワンと歪む。光が強くて気持ち悪い。光の中に巨大な歪な生き物がチラッと見えた気がしたが気の所為だった。何だったのだ?


 少し経つと光が消えて視界の歪みが弱まる。

 正常な視界には何もかもが白い大部屋。その中に不思議な文様が刻まれた機械が所狭しと置かれている。空中にも機械が浮いてあって不思議な景色だ。今度は洋風でなく無機質な銀白色の金属室というか……そんな感じだ。

 だが景色が変わっても、私は彼女の片手で抱き上げられたままだ。一向に降ろしてくれそうにない。降ろしてくれないかな……そろそろ。

 視界は私の身長に対して分不相応に高く多分それとは関係ないが何かふらふらする。

 やばい。気持ち悪くて吐きそう。我慢できない。喉の奥に何かが迫り上がってくる感触がはっきりと感じられる。咄嗟に私は口を手で覆う。


「うぷっ……うっゔぉ……」


「あれ……吐きそうなの? 治すの忘れてた。大丈夫だよー」


 彼女がそう言うとすぐに吐き気が収まった。が、結局喉元まで上がっていたので出ると思ったが胃に何も入っていなかったらしく、ゴホコホとえずいただけだった。手には何もついていない。でも嫌な気分だ。

 えずいた喉の痛みを紛らわすためと暇潰しも兼ねて、運ばれたまま宙ぶらりんの足をぷらぷらさせる。いつの間に腕から降ろされていた。少し恥ずかしい。

 しかし恥ずかしさから熱を帯びた私の体と違い硬い地面はひんやりとして気持ち良かった。

 私はゴロゴロ転がって冷たさを全身で感じている。今はひたすらに恥を誤魔化したい。これはこれで恥ずかしい気もするが、まぁいい。やっているうちは行為以外に目がいかないものなのだ。少しだけ誤魔化していれば良い。

 私が部屋の中央からさらなる冷たさを求めて端から端へ転がっていると彼女が話しかけてきた。


「あ、君名前がないんだよね。今のところ記憶がないから。これじゃあ話すときに不便だ。だから私はさ、君が起きるまでに名前を考えたのよね。君の名前はグゼ。どうかな? 短くて呼びやすいし、意味は魔術言語で異常。世界そのものたる魔法が乱れた場所からあらわれた君にピッタリだと思うんだよね! 再度聞くけど、どうかな?」


 彼女は私を緑の半透明な壁を地面から手を翳して出して不思議な感じで囲いながら興奮した面持ちでそう言った。

 うんうんとよく分からないけどいい感じの名前だなーと首を振りながら私は困惑した。

 何故かって?私は床を四方八方へとごろごろしていただけなのに囲われて閉じ込められているからだ。全くもって不服だ。そして何故カミーアは私の記憶や名前が無いことを知ったのか?

言われてみれば、自分の名前も思い出せない。

カミーアに接触し続ければ他人の記憶を探るような技術があるわけだし、記憶を取り戻すこともできるかも。

  

 ところで……囲いの壁は叩けど叩けどびくともしない。どんどん狭くなってきた。箱に詰められた秋刀魚みたいな感じになっちゃった。ぴっちり詰められている。

壁は高くよじ登れもしない。まぁ、寝返りすらできないんだから低くても変わりは無いが。何処にも行けない私。ひんやりとした床は次第に体温により温くなる。私の体温と同化していく。必死になけなしのスペースで少しちじこまったり、跳ねたりするが限界が迫っている。

 

どうしようもなく、カミーアを見ているとカミーアは何かしらの機械を操作して私の頭上に小さな紅い球を放つ。なんだよそれは。それらは幾条かの光線を出し、私の体の表面をゆっくりとなぞる。次は小球が四つに分裂し円を描くような軌道で周囲を浮遊しつつ光条を差し向けてくる。暫くすると、小球が一つにまとまり機械に戻っていった。するとカミーアさんは何やら壁の外で虚空を見つめ興奮している。そんなに興奮することがあったのだろうか? 

 

 うーん。彼女は私が起きてから唯一あった人間だ。なので記憶がない私がこの世界の一般常識を履き違えている可能性もあるが……虚空を見つめて興奮するのは常識的か? 流石にそれは無いかな。だとしたら何故?

 さっき私の体を調べていたのかもしれない。そして集めたデータを一瞬だけ見て興奮していたのか。

 

 いや、それだと私は彼女にとって何かしらの研究材料なのかな? 

やることもないので妄想が捗る。

 さっきは光を当てられただけだったが、あの興奮の様子じゃ次は解剖されたりするんじゃないか。跳ね回って腕をブンブン振り回している。当たった機械が豆腐のように粉砕されているしというゴミみたいな理論の補強も手伝ってそんな考えが私の脳裏にふんわりと浮かぶ。

 


 私がなけなしのスペースを仕方なくごろごろしていると評価が私の中で危険な科学者(ヤバい人)に変わったカミーアがこちらに近付いてくる。

 それと同時に囲いが地面に仕舞われる。 

 ……逃げるか。

 そうすればまだ想像の範疇にしかないものの最悪の場合を防ぐことが可能だ。解剖はされたくないな。痛そうだし、大前提として死にたく無い。

 

思い立ったが吉日。諺を頭上に浮かべて私は壁が完全に消えたと同時に地面を蹴り、機械を避けながらカミーアの反対の方へと走る。

 私はカミーアが追ってきているか確認しようと後ろを振り向く。ここで相手がどう出るかは重要だ。立ち回りに影響が出る。 



「どうしたの!いきなり走ってさ、名前気に入ったグゼちゃん?」



 眼前にカミーアがいた。私は驚き腰を抜かした。声が出ない。悪い事をしたかのように感じる。

 彼女はまじまじと私の顔を見つめ、私の頬を撫でる。その様子に言いようのない恐怖を私は覚えた。

 彼女の声は優しく柔らかく見た目にあった声だ。

なのに私には何故か獲物を追い詰める狩人のように聞こえ、興奮を抑えられていないようにも感じた。恐ろしく執着を感じる。

 彼女が腰を抜かして呆然としている私を軽々と抱え上げて首を傾げる。


「グゼちゃんはどうして逃げたの? 理由を教えてよ。心が読めても分からないことがあると私は思うの。別に解剖とかしないから。 」 


 彼女は落ち着いた口調で話した。彼女は危険な科学者(ヤバい人)なのかどうか今はまだ分からない。だが今確かに解剖とかしないから、と言った。ひとまず安心か?

 それは証明しようが無いので置いとくとして、カミーアは心を読めるといった趣旨の発言をしたがそれは本当なのか?

 私がそんなことを考えている間に彼女は私を降ろして佇む。


いきなり立ったものだから少しふらつく。

 

 彼女は私の返事を待っているようだ。カミーアの赤い瞳がじっと私の目を見つめている。怖い。

それが私の全てを見透かしているように思えて落ち着かない。燃えているようなのも何か怖い。虹彩がホントにユラユラしてる。

揺らめき、揺らめいて……赤く赤く……

 私がそう思うと彼女はそっと目を私から逸らした。本当に心が読めているのかもしれない。

 さっきの言葉や今の行動からみてそう思っても良さそうだ。

さてそれなら逃げることはできなさそうだし、答えを出すしかないか。

 私は彼女をどう思っているのか?

 自分自身に問いかける。このまま黙っていても意味が無い。

 嘘を言っても相手は私の心を読むことが出来るなら良くない行為だ。

彼女がもしかしたらという可能性がある以上、危険は冒したくない。ならば私が彼女についてどういった考えを持っているのか考えた方が良いってことだ。

 印象は危険な科学者。だがソレを完全に肯定する根拠がないんだな。それに最後聞こえた声とカミーアさんの声は同じだ。

 もしや、私を救けてくれたのかもしれないし。でも研究材料として……。ん。


 よくよく考えてみると、知らない人なのは間違いないとして悪い人ではないのか? 

 だが無闇に信用はできないな。私はカミーアと目を合わせ言う。


「私はカミーアをヤバい人と思い研究材料にされて解剖されると思った。そして逃げた。訊かれてないけど、カミーアは完全に悪い人ではないと思ったよ。でも信用は出来ないから。」


 カミーアはこれをきいて頬を赤く染め、興奮しているようだ。目の揺らめきは激しく赫いている。うん? もしや? えっ。

 私の右手をカミーアは両手で包み、持ち上げ吐息がかかるほど近い距離で言った。


「……じゃあお話して信用を得るよ。嫌わなくてありがとうグゼちゃん!」



彼女はそう言ったあと私を軽々と持ち上げ……痛っ。あれどこに行った?…………消えた?


私は独り部屋に取り残された。

たちまち静寂が辺りを包んだ。


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