合意の上で遊んだとしても満足は出来ないこともある
「名無しの〜……。人生辛くないですか?」
「辛くない。」
うん。そう……か。
何か楽しい事が終わったときに寂寥を覚えることはあるか? 私はある。
たった今面白い小説を読み終わったところだ。そのせいか漠然とした感じで元気がなくなってしまったのだ。他の小説を読もうにもなんだか読む気が起きないし……。
……もう同じ小説を延々と書き続ける機械でも作ろうかな。
そしたら自分は読むだけでずっと楽しいじゃないか。割りと良いのでは?
あっ、でもカミーアさんがそれやっても至極つまらないって、前にご飯のときに言ってたし。
あの人は何だかんだで私より長く生きてるから実際そうなんだろうな。
まぁ、終わりがあるから物語が面白いし、ちゃんと面白く構成できるってことだろうね。
どれだけの題材をそれに詰め込んでも説明するのにかかる時間は短いからな……。
それはともかく今はこの落ちた気分を上げなければ、そういうこと……で。
「名無しのッ! 何でお前はつらくないのです
か?」
「友達といるとグゼ様が言う通り楽しいので。」
友達か。ふむ……名無しのとはまだ制作期間含めて五日しか共に過ごしてないし、私を殺そうとしてきたくらいしか主なイベントが無いから、名無しのに対しての友情とか私はないな。
あっちはこっちを友達と思ってるなら相互に同じ認識の方がいいよな。ズレがあると面倒だし。友達といるなら楽しいらしいし。
私も似たような事を言ったけどその場しのぎに言っただけだしなー。実際のところは分からないが。
ここはそれが本当か確かめるのついでに友達を作るか。
カミーアさんはさっきからずっと私の隣にいるけど、もう友達じゃなくてもっと深い間柄だからね。
だからね。ね、カミーアさん。
つ、潰さないでね!
「グゼちゃんのこと潰したりなんかしないよ。抱き締めてるだけだよ」
「そう。じゃあ良かった。ホッと……」
しな……。
カミーアさんがこちらを見る目が恐ろ……。
はっ、危な……。
よし。これなら安心……だな。
チラッ
「グゼちゃんどうしたの?」
……それにしても、どうやって相手を友達と思うのだろうか、日々の親愛の積み重ねとかかな。
まぁ、おそらくお互いに楽しく遊んでたら友達になれるだろう。うん。深く考えるのはやめよう。場当たり的に出来た方がいいよな。
私謹製の機械だから名無しの、の内部データを弄ればすぐに終わるけど、何かそれは違う。
そういやなんだけど名無しのの名前どうしようかなー。
いつ迄も名無しのッて読んでたら何かよろしくない気がする。
かと言って私には名付けのセンスがないからな。本人かカミーアさんに決めて貰おうか。
取り敢えずは本人に聞こう……。
「やいっ。名無しのッ。お前の名前は何がいいですか?」
「……。[名無しの]では?」
ん? 私の質問に対する返答としては不適切だな。最初からそうだが、エラーにしては挙動が良く出来すぎな感じだが……。
私が優秀なだけか。……そういうことにしておこう。
ところでだ。名無しのは自身の名前を名無しのと思っていたのか。じゃあもう名無しのので良いのでは? いや、でも……。
もう一回質問するか。この名前がいいかは結局聞けてないからな。
「名無しのは自身の名前についてどう思いますか? 良いか、悪いでお答えください」
「別に構わな……良い。」
ん。
そうなら……もう名無しのでいいか?
本人がそれで良いのだからな。
でもなー。うーん……。
漢字だと、って思うけど別に良いか。
「名無しの! 今日からお前の名前は[名無しの]です。わかりましたか?」
「はい。グゼ様。」
名前は決まったな。
ヨシ?……そういえば何の話してたんだっけ?
あっ…………………………! 友達ね!
どうやって友達になるかね!
その為に取り敢えずは遊んで見よう。
という話だった筈。いやちょっと違う気もするが……まッ、いいや。
友達になるには名無しのは私のことを友達と思ってるから、私が名無しのを友達と思うようにしないといけない。
だけど名無しのは見た目がフレームだけで遊んでも私が親しみを覚えにくいかも知れないな。そしたら友達とは思えないかもしれない。別にそんなことは関係しないとしても、人っぽい方がいいや。制作者だし、いいでしょ。
でも、調整室に入ろうと命令しても何故か聞いてくれなからな、理由を聞いても答えてくれなかったし私には如何ともしがたき。
つまりだ。
「カミーアさんお願いがあります」
「何?」
「名無しのの見た目を人間らしくしてください」
「ふ。良いよ」
魔術を使ったのか名無しのの見た目が変わった気がする。
何か私っぽい気がするけど多分……気の所為にしておこう。髪色は黒だし、私より体の凹凸が多いしね。顔は……スーッ、あー、うん。
私は鏡に映る自身の姿と名無しのを見比べた。これ絶対に私の体を雛形に使ってるな。
双子です。と言われたら信じちゃいそう。
実際私は名無しのの親みたいな物だし似てても……。
カミーアの方を見やると彼女は何時にも増して笑みを深くしていた。ふ、ふ! ふーん。成る程ね。そういうことね。
この場に居続けたら精神が汚染されそうな気がしますのでカミーアさん、名無しのと遊んで来ますね。
「私も混ぜてよ」
「全ッ然構わないよ!」
「良かった。グゼちゃんと名無しのは何がしたい?」
「私はグゼ様と遊べるなら良い。」
「そうなのね。グゼちゃんは?」
「あ……あ、何でもいいよ」
「そう。じゃあ……」
はっ、早く決めなくてはやば……。
どんな遊びをする羽目になるか分からない。
ここは無難に追いかけっこにしようか。
「お、追いかけっこがいい!」
「……うん? じゃあそうしよう」
ところで名無しのに追いかけっこの知識入れたかな。入れてないかもしれんな。一応確認ついでに教えとくか。
「名無しのは追いかけっこがどんな遊びかわかりますか?」
名無しのは鷹揚に言う。
「もちろん。」
そうか。ならいい。
まぁ最近は機械が異常を起こしてないか確認してばっかだったし、からだを動かすのも良いかもね。確認が終わっても小説読んでたしな。
ゴニョゴニョ
「じゃあ鬼はグゼちゃんで」
「グゼ様聞いてる?。」
「あ? 聞いてるよ、うん。それでいいけど」
「じゃあ十秒待ってね、名無しの逃げようね」
そう言ってカミーアさんも名無しのも草原の向こうへと私の目では追えない速さで逃げていった。速すぎでは? 遊びにならない段階にまで実力が離れている……。もうちょい相手のことを慮ったりすべきじゃあないの?
私は文句を考えるのは諦めてひたすらに二人を追った。
「グゼちゃん遅いね〜。ゆっくりにしようか〜」
カミーアさんの声が聞こえる。私は意地でも正攻法で二人を捕まえたいと思ったのだ。なので走る、走る走る。……気付けば何十日も経ち惑星を何周もしていた。意地を捨てれば楽になれるかもしれないが止められないな。
ボロボロの体を機械で修復しながら、私は秒速が千メートルを超える機械と瞬間移動出来る人間を追いかけた。
地上は逃げる側の足跡によって草は飛び散り、大地は抉られている。
私も何度も衝撃波に体を吹き飛ばされては、二人を追いかけた。
「ま、待てぇ……」
あぁまた遠ざかっていく。
体は……動く。だが脳味噌がもう限界だ。
私は倉庫の機械を出す。
これは使いたくなかったが止むをえん。
探査機器の一端として作ったはいいものの、武装を詰め込みすぎて使うのがとても面倒なので他の探査機器に需要を取られた機械。
名前は最強の探査機。
一見、何に見えるんだろうか?
豆腐? が一番似てるけど質感は岩みたいで違うけど白い直方体だしな。大体皆見たらそう喩えるのではないかな。
見た目とか拘ってたら完成しないし、外見がそう見えるのも致し方あるまい。自分の作品だが。
えーとところで、私は追いかけっこしてるんだよね。
今まではそうは見えなかったかもしれんが、この機械がちゃんと動いた日には立場が逆になるはずだ。多分。
起動!
さーて、設定始めるかー。
……? ここの値は何だっけ、確か十二じゃ……いや駄目か。なら八だったっけ。うん?
あっそもそもこんな項目必要無いじゃないか! チッ。
あ!そしたらあそこも駄目じゃん……はぁー。
丸々二日作業してまだ設定が九百は最低あるとかもう無理だ。二十しか終わってないし。
此れは私の持論だが意地とかは捨てた方がいい。追いかけっこであれば尚更に。
というわけで。
「降参です。許してください」
おやおや。心を読んでないのか、カミーアさん。探さないと行けないのか……。
もう面倒臭いな。
黙って帰ってもいいでしょ。うん。
私は直ぐ側の倉庫の中の自分の部屋に入った。
「あっグゼ様。ご無沙汰。」
「グゼちゃん来た!」
お菓子食べてる。二人で。
「あっ」
私は膝から崩れ落ち床に屈した。
私は二人に相手にされていなかったのか……。
あんなに頑張ったのに?
追いかけては体を崩されて不屈の思いで追いかけていたのに。
機械の精神を磨り減らす設定を二十個も終わらせたのにぃ。
「嘘だッ! 可笑しいよ! 私が馬鹿みたいじゃないかッ!」
平常のカミーアと明らかに動揺している名無しの。流石にカミーアは騙せないか……。
ゆっくりと私に近づいてくる名無しの。
これだから心が読めない奴は駄目なのだよ。
クックック。
こちらに近付いてくるがいい。
私は今地に屈して、四つん這いになっている。なので名無しのからは私の顔は見えない。
私は今もう笑いすぎて、涙が出てる。
「グゼ様大丈夫ですか?」
敬語なんて遣って、いつもの調子はどこにいったんだか。
さあさあもっと近くに!
私に近付きしゃがみこむ名無しの。
「ごめんなさいグゼ様。友達とし……」
「馬鹿めッ。まだ遊びは続いてるんだよぉぉ」
「て。?。元気だ。」
私が伸ばした手を紙一重で避け、足を踏み込む名無しの。手を動かしてもバリアでも貼っているかのように当たらない! 全部脅威的な速度で避けている。外の方へ体の正面を向ける名無しの。
私が手をブンブン振っても足を振り回しても体当たりしても。
当たらない。当たらない。当たらない。
名無しのの足が大地を蹴った。
地面が嘘みたいにぐずぐずに砕ける。
誰だよ、こんなにスペック盛ったの。
頭悪すぎだろ。
何事もやっていいことと悪いことがあるでしょ。私なんですけどね。
終わった……。
私は衝撃波に飲まれて……粉々になった。
またか……私何か、悪いことしたっけ……。
再生して立つ気力もなく仰向けの私を覗き込むカミーア。見つめ返す私。
「もう私の負けだよ。本当に降参だ」
カミーアは私に近付き手を取る。
「当たっちゃった! 私が鬼ね! いーち、に~、さーん、し〜」
えっ?




