お料理研究会
カタッ ウィィィン
機械の駆動音が室内に響く。
今私は料理をしている。
「グゼちゃん一緒に料理しよう!」
とカミーアさんに言われたからだ。
基本的に料理を作る際は魔術で物質を分解して目的の物に再構成して作るらしい。
でもそれだと私は料理出来ないので材料をカミーアさんが作りそれを私が調理している。
カミーアさんは形式を重視するらしくエプロンをドレスの上につけて食材を作っている。
彼女が物質を何処からか現しそれを一瞬で魚や野菜、謎の物質にしている。
私はそれらを調理している。食材は調理をしないと気絶するくらいには不味い。
反対に料理さえすれば美味しくはなるのだが、見た目が不味そうになる。大体はゲル状になり、次に多いのは綿状のふわふわしたやつだ。
稀にそのままな物はあるが調理しても不味いままという意味が無いものだ。
私が料理を食べると猛烈な違和感に襲われる。
カミーアさんはそうでもないらしいが、見た目と手触りは一致しているのに口内に入れると全く違う感触がするせいだ。
不味そうな見た目は問題ないが違和感が問題だ。
私はその違和感が嫌だった。今、私が料理をしているのはその旨をカミーアさんに伝えたせいもあるのかもしれないな。
そんなことを思案していると料理が出来た。
私はスープを作っていた筈だがそれはフワッフワのスカスカの綿状になっている。
少し掬って食べる。
美味い。
それとは別に見た目だけは良いスープを水で一万倍に希釈したものを少し飲む。
「ぉあッほ、げほぇほ。ゔっゔん」
不味い。これでも不味い。次、試すときは百万倍に希釈しよう。
何故不味いと分かっていて飲んだのか?
実はわたし、ただ言われるがままに料理を作っている訳では無いのだ。私には目標がある。
それは見た目も味も美味しい料理を作る事だ。
毎度食事の際にいつまで経っても慣れない違和感を抱くのは御免被るね。いつか本当に美味しい料理を食べるんだ。きっと上手く行くはず。
だが現実はそんなに甘くなかった。
どんな調理法を試しても、どんな食材を使っても、カミーアさんに魔術を使ってもらっても結局私の目標に届くものは作れなかった。
駄目だった。
だが私はまだ諦めきれていなかった!
いつか、いつか美味しいものを食べるんだ。
そう決心した。
―――――――――――――――――――――――――――――
どっかの惑星――
緑色の植物に構造が類似した生命体に身を潜め獲物の様子を覗う。ここらにもうすぐ来るはず。
いた。
パンッ
乾いた音が金属から鳴りこの世から一つの命が私の手によって消えた。
見た目は蛇っぽい骨格のある魚のような地味な色の生物。それを捌き成分を機械で調べる。
【3 6 4 2 7 5】
成分から計算された味の評価が表示される。
左から甘さ、苦味、辛さ、酸っぱさ、旨味、塩味だ。味に問題はなさそうだが未調理のまま私が食べると気絶する。
毒性はなし。そう機械から音声が流れる。そのまま食べずに加熱調理する。
運動組織によって締まっていたそれの死体は加熱され焼けていくとみるみるゲル状になっていく。
食べる。美味い。
やはり駄目だったか。
近くにいるカミーアさんはずっと私の髪を撫でている。ゾクッとする。心は読めている筈なのに依然としてやめない。別にいいが。
本題から逸れた。
やはり駄目だったかというのは半ば私が見た目と味を両立したものを作るのは不可能なのではと思っているからだ。
魔術で作り出した食材で試していたから駄目という可能性を考慮し、私が消化出来る天然物の食材を探しにこの惑星に来たが無駄骨に終わるようだ。
もしかしたらという淡い期待を天然物に寄せていたが、もうその気持ちは遥か彼方だ。
食べ切らずに捨てるのは勿体ないので圧縮機に入れ持ち帰る。
ゲル状のそれが四角い小さな箱に目の錯覚を疑うほどに小さくなり仕舞われる。私が今回の食材集めの為に作った機械だ。その中に無理矢理薄く切り延ばされた空間が入っている。
三次元物体ならそれが折り畳まれている場合は無限に収納出来る。
そんなことはどうでも良くて。
「カミーアさん転移してください」
「ほい」
周囲の景色が歪曲する。
―――――――――――――――――――――――――――――
惑星カーオス――
戻ってきた。この惑星の元の名前はカーオスというらしい。どうでもいいが。
周囲の景色が元に戻る。夕暮れ時か、朝に出たから結構時間がかかったな。
少し吐き気がするが問題ない。
私はまだ諦めない。
なんとしても絶対に美味しくて見た目が良いものを作るのだ!
そんな私の心を読んだらしくカミーアが言う。
「グゼちゃんもう諦めよう。これはどうしようもないんだよ。ね! 別に不味い料理しかない訳じゃあないでしょ」
確かにその通りではあるがそういうのじゃないんだよね。何ていうか、情熱とか浪漫とかそういう理屈ではないものなんだよ。
あっ。でも根底は美味しい料理を違和感なく食べたいだからな。理屈だ。
まあそれは仕方ないよ。うん。
兎にも角にも私は美味しいものを食べたいのだ。そのためには無謀とも言える事でも何でもするつもりだ。
そういうことで私の一人お料理研究会が始まった。
先ずは機械を作るのだ。以前研究が好きではないといったが、今回は特別だ。機械によって現実とシミュレーションで食材の調理過程のデータを取り、見た目や味についてのデータを収集するのだ。
それによって集められたデータを活かし、美味しい料理を作る計画だ。食材はカミーアさんが作ってくれるだろうからなんの問題もない。出来た料理は機械のエネルギーに変換するので勿体なくはない。有効活用ね。
そういうことで私の部屋でそれをやると手狭なので専用の部屋を作ります。
私は非力なのでね。機械で作ります。
出来た。完全密室だ。思っていたよりかなり早く出来てしまったな。
まだ設置する機械を全て作り終わっていなかったが。
完成しないよりは全然良いのだが。
出来た機械を随時搬入していく。
私は非力だが新しく機械を作らずに人にも頼らずに簡単に重い機械を運べる方法を思いついたのだ。それに意味があるとかじゃない。何かひとりで出来たらかっこいいじゃん。それだけだ。
圧縮機に機械を入れる。これだけだと圧縮機は体積以外は据え置きなので私の筋力では耐えられない。なので車輪で転がして運ぶ。
原始的だけど、これが一番手っ取り早いんだよね。そもそもが重いから車輪で動かすのも一苦労だけど自分一人でやるならこれが一番簡単だ。
専用の通路に車輪がついた圧縮機を私は何度もしゃがみながら少しずつ押していった。
新しく機械を作りそれが出来上がるたびに。
おかげで肩と腰がとても痛い。
どれくらい痛いかというと寝たきりになるくらい痛い。何故ここまでやってしまったのだろうか。軽く自分に失望した。
だがこんなこともあろうかと私は予め身体の不調に備え、機械を作っていたのだ。
流石です私。
でも痛くて取りに行けない。なので。
「カミーアさーん。あれ取ってきてー」
私がそういった瞬間カミーアさんが虚空から現れる。
「あれって何? 」
カミーアさんは心が読める。なので喋るより思い浮かべたほうが早い。
私がそれについて思念すると。
「あぁこれよね。」
カミーアさんの手の平に目的のブツが載っていた。
ナノマシーン。それが入った注射器だ。
元々こんな状況を見越せる訳が無いので実を言うと不味いものを食べた時に直ぐ復活出来るようにするために作ったのだ。今私は自力で自分に注射を射てないのでカミーアさんに頼るしかない。
カミーアさんそれを私に刺して。
違う違う、腹じゃなくて腕にね。そうそう骨の出っ張りと肩のあれを十字に見たところね。
深い深い。神経がやばいよ。もっと浅いところね。ぷすって感触がするから。
そうそう。それで良いよ。
何故か大分出血したし、それを舐めているカミーアさんに一番恐怖を覚えたが注射痕? と言われそうな傷口とボロボロの筋肉が治る。痛みはまだ少し引いているがかなりマシになった。
そういやそうだけどカミーアさんに機械を運んで貰えばいいよね。力強かったしね。かっこいいとかそういうのに釣られて実利を得ないのは良くないね。
お願いします。どうか。運んでください。
「グゼちゃん運び終わったよ。」
えっ。私が工夫しても一つ運ぶのに3時間はかかったあの作業、26回分をもう終わらせたの! 一体どれだけ力が強いの!
と思ったがカミーアさんは魔術を使ったのだろう。転移魔術を使えば一瞬で終わるだろう。
こういう時に思うが私も魔術が使えたらなー。機械をいっぱい作ればいい話ではあるけど作るの結構面倒だしなー。はぁーやってらんねーぜ。全く。
早速室内に入り機械の配置を確認し、試運転を始める為にカミーアさんに食材を要求する。
何処からともなく現れる色々な食材、既に調理されているかのように見えるものもあるが食うと気絶する。
私はそれらを私の傑作の後継機、黒い金属質の箱2の搬入口に投入する。我ながら自身のネーミングセンスについて懐疑的にならざるを得ない名前だが把握出来れば良いのだ。
黒い金属質の箱2が情報の解析を終えたようで見栄えを重視して透明にしたパイプに食材を輸送し調理機械にそれが運び込まれる。
そして出来上がるまでの過程とシミュレーションの結果を比較した結果を映すモニターに計算中の文字が現れる。
ヨシっ。全ては順調だ。




