神秘、それを暴いてはいけない
カミーアさんとシュ何とかさんが赤い物質を私が操作できない方の機械に入れ調べている。私はそれを部屋の隅で眺めている。
最初の方は、
「グゼちゃんも一緒にしよ」
とカミーアさんに言われて参加していたが、機械は操作できないし、よく分からない専門用語で指示を出されるから途中からヤケになって、離脱した。
意味を教えられても直ぐには分からないしあの二人が余りにもテキパキと作業を進めるので私は参加しなくてもいいかなとも思うし。
今はこうして部屋の隅で積み木をして遊んでいる。安定した形を組むために様々なパターンを試行錯誤している。割りと楽しい。
積み木の形によって相性がありそれを突き詰めていくとある程度のお決まりが散見される。それを考慮しある程度の高さまでは積み上げられるが、そこからは完全に僅かな位置のズレや置いた時の衝撃が結果を左右する。割りと楽しかった。
そんなこんなで色々試して飽きてしまった。
積み木から二人の方へと視線を移すと、未だに研究をしている。
研究ってそんなに楽しいのかな。
成果を出せたら楽しいと思うけど思うようには大抵ならないのに。私が機械を作るときに一番嫌いなのは素材がどういった挙動をするか確認して設計するときだ。
なんせこの星の上では私が作るものは基本的に少し狂った挙動をする。私がそのまま機械を作っても大体失敗する。
それだから何時間もかけてしまい本来の制作時間の十倍程の時間がかかる。
それは研究とほぼ同質のものだ。
でも人によって趣向は異なるし結果ではなくね、過程に意義を感じるのかもしれない。
そもそも楽しいからやってるのか私は知らないからな。いくら考えても自身で自身の啓蒙を深めて深淵を覗くことしか出来ないのだよ。
人の身は神の血肉によって形作られている。
この世のありとあらゆるもの全てがそうだ。
なぜならこの世界そのものを神と見ることが出来得るからだ。
実際そうかは知らないが神は人間の被造物にしか過ぎない。被造物は創造主の意に沿う行動を行う。
そう作られたから。
だから神はこの世にはいないのだ。
話が脱線事故を起こした。研究の話からどうなったら神の話になるのだろうか。
そういう話は神学者に任せておけばいいのだ。
ふと思い出したかのように二人をすっと見やると居なくなっていた。
どこにいったのだろう。
探さなくとも構わないのだが、気になるものは気になる。積み木を片付け、部屋を出る。
……見つからない。私がいるところは地面の下のカミーアさんの研究所だ。一回探索したので大体どんな構造かは頭に入っている。だがどこを探しても見つからない。周期的に開く通路をひと通り見て全ての部屋を隅々まで探したが見つからない。
こうなると私が見落としているか、地上の方にいったかのどちらかだ。地上にいるなら探せない。
私は魔術を使えない。そのため地上へ移動するための転移魔術とやらが使えないのだ。
ここに来る際はカミーアさんに使ってもらい移動したのだが。今ここには当たり前だがカミーアさんはいないのだ。つまりここで二人が帰って来るのを
待つしかない。
暇だ。やることがなくなってしまった。
私は部屋に戻り、二人が操作していた機械を見る。触ってみるとひんやりとしている。
赤い物質はない。どこかに持って行ったようだ。
私が作ったけど私は魔術がどうだとかあんまり分からなかったのでお話にならなかった。
作成者が分かっていないのは自分でもどうかと思うが、自分が使う分にはそれで十分なのでいいんじゃないかとも思う。
機械は魔術で操作するようでどれも同じような白い箱だ。
私には見分けがつかないがカミーアさんたちが器用にそれらを使っているのを見ると魔術で判別ができるのだろう。
何にせよ魔術が使えないようでは、どう頑張っても操作できない。
数時間後私は地上で変な生物を解剖していた。
あのまま暇で積み木なりなんなりをして暇潰しをしているとカミーアさんが戻ってきたので地上に連れてこられると歪な羽の生えた変な生物が地面に拘束されていた。
私の機械を使って出したのかと思ったが、どうやら違い普通に次元の裂け目を開いたら出てきたそうだ。
ビタビタガタガタと羽を地面に打ち付け変な生物が抵抗しているが、何かカミーアさんは余裕そうだし、束縛からは逃れられそうにない。
私のときは複数体出てきたが今は一体しかいない。
複数体はでなかったの? と私がカミーアさんに尋ねると、
「いつでも出せそうだから邪魔なのは処分した」
らしい。
何故私が変な生物を解剖するのか聞いてみると、
「どうなるのか気になった」
そうだ。それにしても解剖は気持ち悪い。
最初に見たときは上から見下ろすかたちで特に姿を見ても何も思わなかったが、近くで見ると結構グロテスクだ。
下半身が肥大化した魚の頭をツルツルしたカマキリの腹部のようなものが覆いクジラの鰭を細かく切って重ねたみたいな翼が背びれの位置から生えている。
仰向けになったそれの腹を開く、殺すと消えるので生きたままにしておかないといけないらしい。
ひぃ。う、動いた。搔っ捌いた腹から黄色の液体が噴水のように吹き出す。
もっと腹を大きく開く。私の二十倍くらいの大きさなので大変だ。
ピクピクしている。私の全身が黄色く染まっている。腹の中を見ると赤青黄紫緑のカラフルな内蔵が詰まっている。
とりわけ大きな肺のような腑を見る。
中に入りそれを引っ張る。手が滑り転んでしまった。気持ち悪い。ヌメヌメした内蔵が押してくる。そこから内蔵を押しのけ何とか這い上がる。はぁー。
そもそも解剖しろと言われたもののこのでかい奴の構造全部一人で調べるとか……無理。
そこのところどう思っているのか聞いてみると。
「大して変わらなかったからもういいよ〜」
と言われた。私の苦労は何だったのだろうか。
変な生物から離れて身体を見る。
未だ黄色い。ベチャベチャしているし千切れた内蔵が髪や身体にくっついている。多分他人から見ると全身がカラフルな人に見えるだろう。
服装が白のシャツとハーフパンツだから余計そう見えると思う。カラフルなのは嫌いではないが内蔵と血でそうなるのは勘弁だ。
臭いこそしないが見るだけで気持ち悪いし、服がピッタリ身体に張り付いているので動きづらい。ちまちま私が内蔵を地面に放り捨てていると後ろから黄色い液体がドバっと身体にかかった。もう全身真っ黄色だ。
何があったと振り向くとあれが潰れていた。それを中心に放射状に青草が黄色くなっている。潰れた本体は跡形もなく残っているのは地面のシミと化した色とりどりの内蔵だけだ。
死んだのか液体が霧散し始める。それと同時に私の汚れもとれた。
放り捨てた内蔵も消えている。カミーアさんとあの人が喋っている。
「身体構造は意味を為していないな。身体は魔力だけで出来ているわけだ。斯界深度が高いわけだ。シュライス君はどう思う?」
「僕は魔力の遷移が生存状態に置いて見られないことが気になります。」
「そうか。私はそれについて魔術を扱っているのではと思う。人類のそれとは異なる大系のな」
何を言っているのかさっぱりだがあの生物が魔力でできていることは分かった。死ぬと魔力になるらしいことも。あの生物が死ぬまでは実態があった。
つまり魔力にはいくつか形態があるのではそうすると私も魔術を扱えるかもしれない。
私の身体に魔力がないから使えないだけで、外付けでそれを行使出来るような機械を作ればいいのだ。見当も付かないが。
魔術と魔力を扱えればカミーアさんが使っている機械群を私も操作できるハズ。
そうなれば置いてけぼりにされることも無いのだ。ひとりで暇をつぶすのも楽しいがやることがなくなると希死念慮が何処からか現れてくるからな。人生は楽しい方が良いと思うわ。
それに私は記憶がないしこの世界の人間ではないらしい。だったらここで幸せに暮らすための努力をするべきなんじゃないか、そう思う。
機械を作っているのも暇つぶしという側面はあるが、紹介したときの反応とかその後のお話を目当てに作っているのもある。
生きることは何よりも良いことだと思う。死んでしまっては幸せになることは出来ないからな。
まぁっ、そういうことで解剖するのは人生において余り有意義ではない時間だったかもな。
会話に混じってもナンノコッチャって感じになるだろうし、機械でも作ろうか。
倉庫に作成途中の物があった筈。
あった。これだ……違う。こっちか? いや違うどこに置いたっけ。…………失くしたか。
ここにおいた筈って思ってもないときあるんだよね。大抵そのまま探し続けても見つからない。こういうときは落ち着いてまだ調べてないところを思い浮かべる。
奥か。倉庫は実は二階建てだ。1階と2階の部分が大半の空間を占めているが更に三角屋根の下に少しだけ空間がある。私の部屋は仕切りによって区切られている名ばかりの部屋だ。だから壁に立て掛けてある梯子を使って上に登ると仕切りの向こうの景色が丸見えになる。
今も何だか怖くて何があるかは見ていないのだが、梯子を登ると二階につく。更に梯子を登ると奥につく。そこに一度だけ気になって行ったのだ。仕切りの向こうは一度も行ったことがないし二階は何もない。とすると探す場所は屋根裏しかないのだ。
そんなこんなで屋根裏に入る。綺麗だが薄暗いせいで妙な雰囲気だ。
カチッカチッ
持って来たライトをつける。パッと照らされたところに機械があった。これだ。
拾って持ち帰る。
梯子を降りて自分の部屋に戻る。
その途中で私は見てしまった。
仕切りの向こうにびっしりと貼られた自分の写真に。そしてそれを眺めているカミーアさんを。
おー。私はそう言いながら降りてそれを見なかったことにした。結構アレな写真もあったので何とも言えない気持ちになった。




