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遅刻をしたからには一日が何か悪い方向へ傾いていくのかと身構えていたのだが別にそんなことはなさそうで、普段と変わったことといえば遅刻届を提出しに職員室へ歩いたことくらいだった。僕は職員室が苦手なので自分で言うのもなんだが丁度いい罰になったのではないだろうか。
こんなふうにして安心しきっていた午後の授業の終わり、僕は教師に名指しで呼ばれたのだった。名指しでご指名されたのだった。名指し指名。なにか面白そうな響きだなと感じていたが面白さに浸る時間はなく、
「遅刻したんだってな。手伝え」
罰とやらがあったらしい。
罰というのは端的に言うと花壇の掃除だった。これ以上端的な言い回しはないだろう。むしろ端的でない言い回しの方が難しいまである。しかしまぁ花壇というのは校舎を取り囲むように、いや、挟むように陳列するように存在するわけで、これを全て一人で綺麗にするというのはさすがに無理があるのではないか。そう思っていた矢先、というか刹那。花壇に生えた雑草を颯爽と抜いている女子の姿がそこにはあった。颯爽というのは何というか、手際が良すぎるためにそう表現したのだが...
「あっ信号無視...」
この声は、この何も考えてなさそうで間抜けなこの声は、なんと僕から発せられた声だった。自分の声だと気付くのにほんの少しだけ時間を費やした。つまりは声が反射的に出てしまったのだ。
「何よあなた。失礼ね」
そう言ってこちらを睨みつけるこの女は僕が朝目にした女だった。僕が渡ることを諦めた横断歩道の赤信号をこれもまた颯爽と渡っていった女。赤信号を『颯爽』と表現していいのかどうかは置いておくが。
「確かに私は今朝赤信号を渡ったけれど、だからといってあなたに信号無視呼ばわりされる筋合いはないわ。あなたと違って遅刻もしなかったし」
とっさの発言に言い返され、僕は少し考え述べる。
「っておい、何故僕が遅刻したことを知っている」
信号無視女は言う。
「ここに来た時先生に言われたのよ。後で遅刻した男子生徒も来るって」
なるほど。と納得していると信号無視女は言う。
「そんなことよりも私はなぜあなたが今朝信号無視を行ったことを知っているのかしら。もしかしてストーカー?あらあら珍しいものね高校生のうちから犯罪に手を染めるなんて」
「僕は今朝お前が渡った赤信号を渡らなかった清廉潔白な男子高校生だ。むしろ犯罪者はお前だ」
犯罪者と表現すると僕は今犯罪者と言い争っているふうに感じて少し面白かった。
「別にいいじゃない。私は信号無視をして遅刻を免れ、あなたは私が渡ったにもかかわらず信号を守る事で自己肯定感を上げたのだからうぃんうぃんじゃない」
「人を自己肯定感の怪物みたいに表現するな」
実際、『あいつは渡ったが僕は我慢した』みたいな事でも自己肯定感が上がるのは事実であったが。
そんなこんなで僕たちは雑草を抜き、無駄話をして、雑草と落ち葉で袋がいっぱいになるまで花壇の掃除をした。
袋を縛っているとある疑問が浮かんだ。
「そういえばお前はなんで罰を受けているんだよ。遅刻はしなかったんだろ?」
少し時間を追いて彼女は振り向いた。そして答えた。
「あぁ」
「職員室の壺を割ったのよ」




