宴の席
飯テロです。お腹すきました。
「体調は大丈夫か?」
「はい、何とか」
宴の会場に着けば、既に会場は祝賀ムード一色であった。
「あのっ」
私が会場の雰囲気に戸惑っていることに気が付いたのか、シュラさまが苦笑する。
「イールーは祭りや祝い事が好きだから。こういう場は、苦手か?」
「あ、いえ。貴族の茶会なんかは正直苦手ですけど、こういう雰囲気は悪くはないです」
おばあさまが仰っていた“団欒”と言うものなのだろうか。大勢で親戚や友人たちが集い、お座敷に座って一緒に料理やお酒を楽しむ。
貴族の舞踏会や茶会とは全く違う雰囲気である。
私はシュラさまに主役の席に案内され、傍にはユラが付いてくれる。シュラさまの方には、先ほどのオリーブグリーンの髪に銀色の切れ長な瞳の青年が控えている。
「紹介が遅れてしまったな。俺の従者のロダと言う」
そこでシュラさまがロダさまを紹介してくれて、ロダさまがぺこりと頭を下げた。
「因みに、私の夫です」
と、横からこっそりユラが教えてくれた。えっ、そうだったの!?ユラがにこりと微笑むと、ロダさまが照れたように視線を外す。何だろう。クールに見えて割と照れ性?
そして私が宴会場に着いたことで、シュラさまが改めて乾杯の音頭を取ってくれて、私も盃を上に掲げる。
―――しかし。
「それは俺が飲むよ」
「えっ、でも」
せっかく乾杯した盃なのだし、私が飲まなければ失礼になるのでは?そうも思ったのだが。
「夫婦なのだから問題ない」
そう言って、私の盃を受け取ったシュラさまは、それを飲み干し、自分の分も飲み干せば。周囲から歓声があがる。
「あのっ」
ユラを見やれば。
「みんながみんな、得意なわけじゃないですから。いいんですよ。飲みたくなければ旦那に飲ませておけば」
いや、ユラったら。女傑みたいな活躍をしておいて。割と心の中は腹黒い?
「ユラは、どうなの?」
ちょっと気になった。
「旦那を潰れさせるくらいには」
うわっ、さすがは女傑。半端ない。
※お酒は飲みすぎ注意!ほどほどが肝心です
「あの、そう言えばシュラさま」
「ん?」
「あの迎えの時の怒涛の狩りシーンは何だったのでしょうか」
そう言えばあれ、何だったのだろう。
「あぁ、あれは辺境伯からの依頼があってな」
この、西方の国境地帯は西方を治める辺境伯領の中にある。辺境伯はこの国境地帯の守りをイールーに任せているのだ。尤も、辺境の国境と言っても広いのでイールーが守る国境以外は、辺境伯家が守っており、もしもの時はお互いに協力し合うのだと聞いている。
「本来、こちらに来てもらうための街道と迂回路に魔獣が出て通行不能になったから、行きにその魔獣を駆除して、帰りに迂回路で駆除をしたんだよ」
うおぉ。お出迎えついでの魔獣討伐っ!!
「うん、急な予定だったけど。早くイェディカを迎えられてよかったよ」
「その、私もお会い出来て、嬉しかったです」
何か照れるなぁ、こういう会話。
「ははは、お互いさまだったな」
そう言って屈託のない笑みを浮かべるシュラさまは、本当にかっこよくて。本当にこんなに幸せでいいのかとついつい思ってしまう。
「それに、カニャーシカも獲れたしな」
そう言えば。おばあさまから“おいしいヨー”と教えてもらったカニャーシカのお肉が獲れたのだっけ。
「あの、カニャーシカって一体どんな魔獣なんですか?」
「ん?小さなドラゴンだよ。ほら、飛んでただろう?」
いいえ、全く見えませんでした―――っ!すっごい素早い怒涛の討伐劇だったもの!あの中にドラゴン、いたの!?
「はい、奥方さま。こちらがカニャーシカですよ」
シュラさまとそんな会話をしていれば、私たちの前のテーブルに次々と肉料理が並べられる。野菜を巻いた肉巻きを輪切りにした料理は、手のひら大の大きさがある。その大きさに驚いていれば、宴会場の中央を見てくれと示され、顔を上げる。
宴会場の中央には、どでかい肉の塊がどーんと置かれていた。ぜ、全長2メートルくらいないか?あんなのいた!?あんなの討伐した中にいたのぉっ!?絶叫しまくっててよくわからなかったぁ―――っ!!
そのイイ感じで丸焼きにされたカニャーシカの皮を、薄く剥いで、私の前の皿に並べてくれる。目の前の皿に盛られた野菜などを挟んで食べるらしい。
「あの、鱗は剥がしているのよね」
「えぇ。専門の解体師がさくっと」
ドラゴンの解体をさくっと、か。何から何まで規格外すぎるぅっ!
でも、カニャーシカのお肉は美味しくて、野菜を挟んで食べたら更においしかった。肉巻きの方もステーキのようにしてナイフとフォークで切り分けながらはむはむと口に入れていく。
あぁ、お肉おいしい、柔らかい。おばあさまの言っていた通りだった。
「美味いか?」
「え、えぇ、とっても!」
「それじゃぁこちらも」
ユラがさしだしてくれたのは、たれが十分に染み込んだお米を丸めてカニャーシカのお肉で包んだ肉巻きおにぎりだった。
「はふぅっ、こ、これもおいひぃっ!」
「ははは、イェディカは本当に美味そうに食べるな」
「は、はしたなかったですね」
貴族令嬢がこんな。
「そんなことはない。美味いものは美味そうに食わなきゃ意味がないだろう?」
「それもそうですね」
そう答えると、自然と笑みがこぼれる。周りからも自然と賑やかな笑い声が響いてきて、とても楽しい時間だった。
―――こんなに楽しいのは初めて。お家での晩餐は、―――お父さまと静かに食べていたらいきなりルチルが騒ぎ出すと言う感じでうんざりだったが。
あのやさ王子に至っては、常に淑女の立ち振る舞いが求められて正直肩が凝る以上に、―――ルチルとイチャイチャしてたからなぁ。
それにしても、ルチル?私、何かを忘れているような。
「ほら、イェディカ。果実ジュースだ。アルコールは入っていないから安心しな」
「わぁ、ありがとうございます。シュラさま」
一口飲んでみれば、脂っこい肉料理を食べた後にぴったりな爽やかさ。このジュースがあればいくらでもお肉を食べられそう。
私はユラが勧めてくれたお肉とジャガイモのチーズ煮込みなども完食し、何だか大満足で宴の席を楽しんだのだった。
その頃には先ほど思い出しかけたことは、すっかり頭の中から消えていた。
食文化については、作者が食べたいものを書きまくっているため、
細かいことは気にしないようにっ( ̄▽ ̄)ゞ
おいしそうなら別にいいじゃないか、だって異世界だもの。